ヌ
「あの選手の背番号”ヌ”じゃない?」
「はぁ? 何ゆってんの?」
「いや、だからあのセンターの人の背番号がヌなんだよ」
「全然意味わからん。ゲームの邪魔せんとって」
「だからヌなんだって。見たらわかるから。ほら〇高のセンター」
「わかったって。しつこいなあ…………………ってほんまや。何でヌなん? 意味が分からん」
「それな。目の錯覚とか、向きかなあ?」
「いや、それにしてはずっとヌちゃう?]
「確かに。汚れとかの可能性は? ペンとかのインク」
「ゼッケンにインクが付く機会なんてそうそうないと思うけど、光の反射とかの布の動き的に印刷されたヌじゃね?」
「やっぱりそうか。ってかヌって何?」
「ほんまそれ。俺らがおかしいんかな」
「そんなはずない。ゼッケンの背番号は数字しか見たことない。番号って言うぐらいだし」
「やんなあ。ゼッケンは数字が当たり前。でも、ワンチャン俺らが知らんだけかもしれん」
「スマホで調べてみてよ」
「うん。背番号 ヌ、背番号 カタカナ………………、調べたけど、それらしきものはない」
「じゃあ僕らの知識不足という線は消えた」
「じゃあホンマなんなんあいつ。なんで、すかした顔してヌ着てんの?」
「しかもまわりは何も言ってないし」
「ちょっと観察してみいひん?」
「そだね。だれか「ヌをマークして!」とか言うかもしれないし」
「――――今言わんかった?」
「うん、言ったね。「ヌの前空いてるよ」って」
「別に誰も笑ってなかったよな?」
「うん。やっぱり僕らが知らないだけかな?」
「いや、調べて出てこないからそれはない。一旦、あいつが特殊な前提で進めてみよ」
「了解。じゃあ、あいつはどうやってヌを手に入れたのかな?」
「売ってないから、作ったんやろ。どんな材質か知らんけど、何かを溶かして固めなあかんよな」
「うん、そんな気がする。手作りだとして、なんでそんなことする?」
「動揺を誘うぐらいしか思いつかんけど、周り誰も動揺してないしな」
「そう。周りは気づいてるけど、気にしてない。あ、今気づいたけど、やっぱり他全員数字よね」
「あ、ほんまや。盲点やった。てか、そもそも一番初めの前提が間違ってる気がする」
「どゆこと?」
「そもそもあいつはヌを着ていない。世の中に背番号ヌなんか存在するわけないやん」
「あ、そっか。この世にヌが存在する確率より、二人ともが7とか4と、ヌを見間違える可能性の方が高いよね」
「そゆこと。もっぺんあいつの背番号をしっかり確認しよ」
「OK」
「「やっぱりヌ」」
なぜか急に思い出した夢か現実かよくわからない記憶。