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本編

シャッフル企画参加作品です

「もう締切3日も過ぎてるんですからね!!」

朝から担当の恵理沙の声が頭に響く。

「わかってるよ。そんなに怒鳴らないでくれよ〜。こっちは4日連続徹夜なんだ」

とせかす担当の人に頭をかきながらそう答える。

「そんなの自業自得でしょうが。 だいたい締め切りまでに書き上げないのが悪いんですよ」

あきれ顔の担当の人。

「鬼! 悪魔! こんなだから男のもてないんだ。少しは自覚したらどうなんだ?」

恵理沙をののしる私。

「誰のせいだと思ってるんですか!!! 私だってね好きでこういうことしてるんじゃないんですよ!!」

まるで般若のような顔で反論する。

「悪かった、悪かった」

私は言いすぎたと謝罪する。

「どうせまた綾ちゃんのことでなんでしょ?」

その担当の言葉に私は固まった。

「な、なんでわかった……?」

一発で見抜かれたのでついうろたえてしまった。

「だっていつも締切が過ぎるときは綾ちゃんのことを考えてるときですもん。で何があったんですか?」

と原因を聞く恵理沙に

「実は……」




私は、武本剛たけもとつよし40歳。

職業は小説家だ。見た目はとても頼りないのでリストラされたサラリーマンのようにしか見えない。実際、近所では自分の職業は知られていないためそう言われることもある。でも世間では一応知られている方で10年以上前に「それでも僕は先生(あなた)が好き」という作品が大ヒットしてベストセラーになった。その作品は教師として専念し、いつの間にやら40近くになった女性教師とそんな教師を好きになる男子生徒という禁断の恋というもの。ドラマ化もされ「ボクアナ」という愛称も生まれ一時社会現象にもなった。

そして今はそこそこ人気作家みたいだ。

家族は妻には先立たれ高校生の娘と2人で暮らしている。



そんな娘が恋をしたという。その言葉を聞く度に一人の女性になっていく喜びと娘が私から離れていく寂しさが込み上げてくる。後者の方がはるかにウェイトを占めているのだろう。




「やっぱり…… 綾ちゃんだってもう高校生なんだし、立派な女の子なんですよ? いい加減子離れしたらどうですか?」

ため息をつき説教じみたことを言う恵理沙。

「私も一人の女性としての階段を上っていくのはとても嬉しいよ。それは嬉しいんだがね? でもとんでもない人を好きになってしまったら不憫ふびんでね……」

と私も言い訳がましく語る。

「大丈夫ですよ!! 先生の子なんですから素敵な相手を見つけますって。私が保証します! だから早く原稿仕上げてくださいね」

満面の笑みでそう催促する恵理沙であった。




私は武本綾たけもとあや。高校1年生。私は今、好きな人がいる。相手は二個上の、浜口健太はまぐちけんた先輩。とても優しくてどこか頼りないそんな人。少しお父さんに似てるかも……そしてなかなか踏み出せず想いをずっと秘め続けている。そんな時お父さんに相談する。友達からはとても珍しいねとよく言われるけど実感はない。でもお父さんはちゃんと真剣に聞いてくれてアドバイスしてくれる。その度に目が血走ったりするけど、やっぱり恋愛小説家だなと尊敬する。





「先輩おはようございます」

朝から満面の笑みであいさつしてくれる

「あ……うん……おはよう……」

僕は顔を真っ赤にしながら返事をする。

僕の名前は浜口健太はまぐちけんた、この通り、女の子が苦手でまともに話せない。

それなのに毎回、毎回彼女は僕に声をかけてくれる。二つ下の女の子、武本綾ちゃん。とてもかわいくて女子からも男子からも大人気でまさに学校のアイドルなのだ。一応同じ部活に入っている。




遡ること2か月前

綾が学校にも慣れたころ健太を連れて家に帰ってきた。

「ただいま」

「お、おじゃまします」

健太は緊張のあまりこわばった感じだ

「お父さん〜? お父さん〜?」

と綾は剛を呼ぶ。

健太はドキドキしながら剛が向かってくるのを見た。

「おかえり。その方は?」

剛は聞く。

「は、初めましてぼ、僕、綾さんが所属している文芸部の3年生の浜本健太と申します!」

たどたどしく大きな声で自己紹介をする健太。

かなり緊張していたのだろう。

それを見た剛は一瞬驚きしばらくの沈黙の後クスッと笑った。

「あの……なんでしょう……?」

心配そうに剛をうかがう。

「え? いやなんでもない。気にしないで。3年か受験勉強はかどってる?」

とニッコリと返した。

健太はどうしたらいいのかわかないというふうに周りを見回す。

「え、その……」

「何言ってんの? お父さん。先輩もう推薦で進路決まっただんよ? すごいよね」

「そうなんだ?」

少し驚く剛。

「別にすごくなんて……」

謙孫する健太。

「それよりさ、お父さん? 先輩、小説書いてるの。それがね、すごく面白くて

ぜひお父さんにも読んでもらいたいの」

目をきらきら輝かせながら訴える綾。

「そ、そんなことないから」

とまたもや健太はあたふたする。

「そっか、わかった。それなら丁度休憩にはいるとこだったし見てあげるよ。出してごらん? あ! そうそう冷蔵庫におやつあるから食べてからくるといいよ」

といって剛は健太のルーズリーフをもらい部屋に戻った。

「いきましょうか?」

綾は手を引き健太をリビングに招き入れる。

おやつを食べながら

「いいアドバイザーって言ってたけど綾ちゃんのお父さんって?」

と父親のことについて聞く健太。

「小説家なんです。あれでも。まぁ恋愛系以外はからっきしみたいですけどね」

そう言って綾は苦笑いをする。

(小説家!!?)

驚愕の事実を伝えられた健太は固まった。

健太は帰りたかったが、きてしまった手前断念した。そして一気に緊張の糸が張りつめた。

(ど、どうしよう? ……なんか大変なことになってしまった)

と焦る健太。

そしてしばらくして剛に呼び出され健太は剛の部屋について行った。

「読ませてもらったよ。とても良かった。だけど入賞は難しい」

その言葉に健太は

「そうですか……」

(そうだよな……まぁ別に出す気ないからいいけど)

そう思いながら返答する。

「かといって、これを出さないのはもったいない。そうだ! 3ヶ月後の雷撃大賞に出してましょう。この3カ月私が指導します。そのかん毎日くることいいね?」

予想外の剛の眩い視線と言葉に圧倒された健太は

「は、はい。よろしくお願いします」

こうして健太は剛に指導を受けることとなった。

その後夕食を健太も招き、3人で楽しく食べた。

しかしまだ緊張している様子の健太。

「どう? おいしいかい?」

料理について尋ねる剛。

「はい」

依然こわばった表情の健太。

「先輩? そんなに私の料理おしくなかったですか?」

不安そうにのぞきこむ

「い、いや、そんなことないよ〜」

必死に否定する。その光景が不審におもったのか

「そうですか? じぃー……」

と疑いのまなざしを送る綾。

「そんなに見ないでよ! 食べられないじゃない」

そのまなざしと目の前の剛が気になって食事なかなかのどを通らない健太であった。

そしてその夜

「健太くんっていったっけ? 今日来た子」

「うん。そうだよ?」

「とてもいい子だね? まるで……いやなんでもない。ところで綾は彼のことどう思ってるのかな?」

綾に質問すると

「どうって……その……もう知らない!」

急激に顔が赤くなり、自分の部屋に戻っていった

そして

「母さん、驚いたよ。あの子……」

そんな風に切り出し仏壇の前で剛はしばらく亡き妻と話していた。



健太の指導が始まって数日が経った。ある日

「ちょっと休憩しよっか?」

2時間ほど添削をして剛は切り出した。

「は、はい」

剛はお茶を淹れながらこう質問した。

「綾とはどうだい? うまくいってる?」

ふいの質問は健太の顔を真っ赤にさせた。

「う、うまくって、い、いわ、言われても……元から何もな……」

だんだん声が小さくなる健太。

相当恥ずかしいのだろう。

「ウハハハハ〜そうなのかい?」

剛は目を細めてそ、お茶を渡す

「ありがとうございます」

お礼を言う健太。

「じゃあ君は綾のことどう思ってるのかな?」

剛は怖いくらいの満面の笑みで尋ねる。すると

「どう……あの、その」

健太は制御不能になったロボットのようにあたふたする

「ハハハ……ちょっとからかいすぎたようだね? たくっ似た者同士なんだから……」

そんなこと言って剛は目を細める。

「え?」

聞き取れなかったのか健太は聞き返した

「いや、なんでもない。ごめん、ごめん。じゃ再開しよっか?」

また添削が開始された。

(僕が何とかしないといけないな?)

2人の初な反応を見て剛は決意した。




健太の帰り際

「気をつけて帰りな?」

「はい。わざわざありがとうございます」

「気にしないでくださいよ」

剛と綾は健太を送っていた。

「健太君、ちょっと耳貸して」

唐突に剛は健太に願い出た。

健太は耳を傾け、剛は近付き耳元で話始める。

「綾のこと好きなんでしょ? 僕が何とかしてあげるよ」

剛はそう言うと健太はアルコールが回ったように顔を赤くし、頭から勢いよく蒸気を吹かせた。

「だ、大丈夫ですか? お父さん? 何を言ったの!!?」

健太の様子を覗い、剛を問い詰める。

「いや別に」

澄ました顔の剛

「な、なんでもないよ? 気にしないで」

「ならいいですけど……」

綾はふに落ちないという表情で渋々納得した。




数日後

この日は土曜日、天気は快晴。まさにデートには絶好の日である。

「え? 今日の指導はないんですか?」

と驚く健太。

「今日はしないよ。それより2人で楽しいんで来なさい。こんな週末の晴れた日に若い男女がデートをしないで何をする」

剛は肯定し、饒舌になる。

「で……で、ででデートですか?」

「で、デートって……お父さん?」

デートという言葉を聞いた瞬間二人は猿のように顔を真赤にした。

そして剛は健太に追い打ちをかけるように耳元で

「綾を頼んだよ。これに成功すれば……」




映画館

(う〜怖いよ〜)

震えながら綾は映画をみて隣の健太の手を握る。健太も強く握り返す。そしてきゃー!と絶叫ポイントで健太に抱きつき、大丈夫と健太が肩をだく。そのまま上映の間ずっと2人は寄り添う。

映画が終わり2人は

(先輩はいつもは頼りないけど、なんて頼もしい人なの? 私惚れたわ)

(いつもは笑顔だけどあんな怖がりな綾ちゃんは初めてだ。僕が守ってあげなくちゃ!)

こうして2人はめでたく結ばれることになり結果

「お父さんのおかげで健太くんと付き合うことができたの。ありがとう!! 大好き」


という剛の中での完璧なシナリオを語る。

「……となれば健太君も綾と付き合えて、僕もますます好きになってもらえる。まさに一石二鳥だ」

それを聞く健太は目を輝かせる。

「大丈夫ですか? ほんとうにうまく行くんですよね?」

しかしまだ少し訝しげな健太。かわすかのように

「いいから! いいから! さぁ〜いった、いった」

ぎこちない二人をムリやり追い出す剛。

(よしこれで……)

「こうしちゃいられない」

数分後、剛も出かけた。健太と綾の後をつけるため。

(うまくいってくれよ……)

そう願う剛であった。




二人はというと

「たくっすいませんね? 先輩。父が暴走しちゃって……あはは……」

苦笑いで謝る綾。

「いやいいんだよ? 別に……」

(綾ちゃんのお父さんがくれたチャンスだ)

「あ、あのさ、この映画おもしろそうだよね」

(なんとかものにしなきゃ)

「え、ええ。そうですね……」

健太の思いとは逆に、意識をしているのか二人はぎこちない感じだ。それは誰が見てもわかるほどだ。

それで剛は後をつけながらもどかしさを感じる。

映画館に到着し、上映時間となった。

剛は綾たちの後ろで2人を見守っていた。

内容はホラー。怖いもの苦手な綾だ。そして怖くなると強く何かを握る癖がある。小さい頃はよく剛や母親である妻の手をギュっと強く握っていた。

剛の想像だと健太の手を強く握りいい雰囲気になるはずなのだが……

だんだん絶叫ポイントが近づいてくる。綾も健太の手を握り出した。

(OK、OK 順調だ)

と剛が思った矢先

「先輩? 先輩? しっかりしてください!!」

いきなり綾の大きな声が響き渡った。

健太は絶叫ポイント直前でアワをふいていた。どうやら綾が手を握ったことで失神したらしい。もちろん一時騒然となり、このデート作戦は失敗に終わった。




翌日

剛の部屋で反省会

「まさかあそこまで免疫がないとは……」

あきれ果てる剛。

「すいません……」

健太は申し訳なさそうに俯く

「自分も無い方だけど、あれはひどいよ」

剛はぶつぶつつぶやく。

「うっ……」

健太は反論しないというよりできない。自覚しているからだ。

「まずは女の子への免疫を最低限つけないと、手を握っても失神しないように…… う〜ん」

考え込む剛。

「そうだ!!」

剛に名案が浮かんだ。




一週間後

「え? 今度は遊園地?」

剛はまたチケットを2人渡した。

今度は遊園地。

お化けやしきやコーヒーカップ、観覧車などいろいろとイベントが起きやすい。それを狙ったのだ。

「今度こそ頼むぞ! 健太君。僕も遠くから見守ってるから。がんばって!」

健太の耳元で囁く剛。

一人怪しい笑みを浮かべる剛であった。そしてまた2人の後をつけた。




「またすいませんね…… 強引に父が……」

再度謝罪する綾。そしてため息をつく。

「いいよ、いい。気にしてないから」

苦笑いの健太。

(この前は、大失態見せちゃったからな。情けなさすぎて自己嫌悪……とにかくチャンスをくれたんだ番回しなきゃな!)

ゲートをくぐり、遊園地に入った。

「どこ行きます?」

「綾ちゃんの好きにきめていいよ?」

「それじゃ、あっちにいきましょう」

向かったのは射的。

バズーカのような大きさで弾は野球の軟球である。動物柄の3つ的がありそれぞれの真ん中にはバスケットゴールのようなネットが張ってある。そのネットの中にいれれば50点、周りに当たればネットの距離に応じて点数がつくというアトラクション。

2人はさっそくやってみる。

(よし! 綾ちゃんにいいとこ見せるぞ!!)

と意気込んだものの結果は健太の惨敗。それで気を落とす。

(はぁ〜なにやってんだろ……)

「たのしかったですね?」

対照的に満面の笑みの綾。

(綾ちゃんが楽しんでるんならいいや)

その笑顔を見て健太は結果に落ち込んでいた自分に馬鹿らしくなった。

「次どこ行こうか?」

「私あれ乗りたいです」

綾が指をさしたのはコーヒーカップ。

(よしよし、いい感じになってきた)

隠れて観察する剛。

綾はタガが外れたみたいで、ハンドルを勢い良く回して周りの人の1.5倍であろう速度でカップは回っていく。もちろん健太は三半規管に異常をきたしふらふらしていた。しかし綾は顔色一つ変えない。

(そういえばあの人もこういうの強かったっけ)

剛はその光景を見て若かかりし日々を思い出していた。

この後いくつかのアトラクションを回り、2人は飲食店の方に足をのばした。

「先輩何食べます?」

「これとこれで」

「私はこれとこれで」

二人はそれぞれ注文する。

しばらくして注文した品が2人に届き、適当に席に着く。

「楽しいですね?」

今までのアトラクションにまったく動じないタフな綾

いろいろとすでにへとへとな健太。

笑顔とやつれ顔。

「そうだね」

必死にやつれ顔を隠し笑顔で応じる健太。

「食べ終わったら、行きたい所があるんです。あ! お土産買わないと。それから……」

彼女は確認するように今後の予定を挙げていく。

その後もジェットコースターに乗ったり、お土産屋に行ったり2人は楽しんでいた。

傍から見ればカップルに見えるまでだ。先週より格段に成長した健太を見て感慨にふける。

(OK、お父さん大好き作戦パート2、滞りなく遂行されているな。それにしてもよく成長してくれたな! 未来の義息子むすこよ)




最後に観覧車。

あたりは西日に照らされていた。

対面で座っている。

今までの楽しかった雰囲気と変わり、一気に2人は鼓動が速くなる。

「今日はまた父が暴走したけどとても楽しかったです」

「僕も今日すごい楽しかった。たくさん君の笑顔も見れたしね」

ぎこちない2人。

2人は今日の感想を言うと顔を赤くして俯く。しばらくの沈黙ののち再度顔を見合わせた。

お互いにまじまじと見つめあう。

(目の前に先輩……目の前に先輩……目の前に先輩……目の前に先輩……目の前に先輩……)

綾の頭は混乱し始めていた。

(GOだ! 健太君!!)

双眼鏡で観覧車を遠くで見て期待が高まる。

2人はオルゴールの人形のように引き込まれ唇を寄せる。1m,、50cm、30cm、だんだんお互いの顔が視界全体になる。

(よし!! このまま、いけー!!!)

遠くで檜○修之のごとく叫ぶ。

ぼん!

今度は綾が耐えられなかったようだ。テレビの末期症状のように頭が爆発、煙がもくもく出て目をぐるぐるまわしていた。どうやらパンクしたようだ。

観覧車は一周し、健太は綾を抱きかかえ下車し、剛はそれを出迎えた。

「お疲れさん」

声をかける。

「すいません……また失敗してしまいました」

「いや、今日はよく頑張ったよ! あ〜あ完璧にいっちゃってる」

申し訳なさそうに謝る健太に労いの言葉をかけ、綾の頬をつつく。

だが反応なし。

「帰りましょうか」

健太はそういい、綾をおぶってそのまま3人は帰路についた。




「ごめんね。毎回、無理やり付き合わせちゃって」

帰り道ぽつりと謝罪した。

「いえいえ、こっちもチャンスをいただいてるのにモノにできずすいません……」

健太も謝罪する。

「いいよ。最終的にくっ付いてもらえば。作戦成功だし」

「そうですか」

と答える健太。

すると

「チャンス? 作戦? なんのこと?」

突然健太の後ろで女の声が。

「うわ〜!!」

びっくりする2人

「お、おはよう」

健太は声をかける。

「おはようございます」

綾は間の抜けた声であいさつする。

瞬時に気づき

「おろしてください」

恥ずかしそうにお願いして健太は下ろした。

「なんでお父さんがいるの?」

素朴な質問を投げかける。

「あ〜! この辺で仕事があったから丁度落ちあってね」

苦し紛れに返答する剛。

疑っているようではあるが、納得いかないまま強引に納得したという感じだ

「それで作戦って?」

「あ〜それは……何でもない、何でもない」

口走ったことを否定する剛。

「さっき言ってたじゃん。チャンスとか作戦とか」

ふと疑問に持ったことを口にする。

「それはだな……」

「それはね……」

2人はいい言い逃れを考えている。

次第に2人とも黙り込んでしまう。

こうしてあえなく作戦の全容がバレテしまった。




帰宅後

綾の家で剛は正座。目の前には閻魔大王ならぬ武本綾が仁王立ちしていた。

「これどういうこと?」

今まで見たことのないような満面の笑みで尋ねてくる。だがその笑顔がとても怖い。

「2人をくっ付けようと思って……」

怖さのあまり小声で答える剛。

「それはわかるわよ、見れば。じゃあなんでそう言うことをしたのかな?」

また変わらぬ笑顔で聞いてくる。

「だって、2人はお互いのこと好きなんでしょ? だからくっつけてあげようと思って」

いじけるように答える剛。

「な! 余計なお世話よ!! 前からおかしいと思ってたんだ。強引に2人で映画館に行かせたり、遊園地に行かせたり。人の都合も考えないで突っ走って」

顔を真っ赤にして怒った。

「そこまでにしようよ? ねぇ?」

なだめる健太

そんな健太にも

「先輩も先輩です。あろうことかお父さんの作戦に乗っちゃって……二人ともひどいよ!! 結局自分のことだけじゃん!!!」

綾は自室に走って行った。




それから数日が経った。

バレてからというもの3人の関係はぎくしゃくしていた。

健太と綾は学校であってもお互い気まずく会話しなくなった。もちろん綾は部活も行かなくなった。健太は武本家にほぼ毎日来ていた。小説の指導のためだ。そして綾と仲直りするため。

剛もなんとか2人を取り持とうとするが、綾は聞く耳を持たず、すべて失敗に終わる。

以前のように3人で夕食を取ることもなくなり、また2人の食卓。会話もなくただバラエティー番組の笑い声だけが空しく響いていた。




元はと言えば剛自身がまいた種、自分で摘み取らないといけない。そんなある日

「あと締め切りまであと1週間だね? びしばし行くからね」

剛は健太に気合を入れる

「はい!!」

そのやり取りをリビングから自室に戻る最中綾は聞いてしまった。

(あと1週間……)

綾の中で何かがはじけようとしていた。




剛の部屋

「おじさん、僕これ応募したらもう綾ちゃんとは会えなくなりますね。もう学校にも来ませんし、本当は仲直りしてでていきたいけど。綾ちゃんはあんな感じだし……この間ので完全に嫌われてますからね。このままというのもいいでしょう」

決意を述べる健太。

「本当にそれでいいのかい?」

剛は添削しながら問う。

「ええ、いいですよ」

と返す。

「そうか……君がいいのならこれ以上言わない」

そうやってまた沈黙に入る。

剛の部屋にはいろうとした綾は固まってしまった。

応募に出せばもう健太が来る必要はなくなる。しかも卒業しているので、もう

(先輩には会えない……)

これで綾の中で何かがはじけた。




それから数日後締め切りまであと3日。

遂に健太の小説は完成し、規定どうりに冊子にしていき応募するだけの状態になった。

……のだが誰かの仕業で完成した品はびりびりに破かれ、無残な姿に変貌していた。

「ひどい……なんでこんなことを……」

ショックが隠しきれない表情だ。

しかもデータも消えて、3か月の苦労が水の泡となってしまったのだ無理もない。

犯人はもう1人しか考えられない。

「僕、完璧に嫌われましたね。これは決定的でしょう。」

健太は淡々と述べて悲しい笑顔をのぞかせた。

「……それはどうかな……?」

剛は何かに気づいたようだった。

それからすぐ健太は武本家を出て行った。

「今まで指導ありがとうございました。応募することはできませんでしたが、とても勉強になりました」

とお礼を言って。




その後剛は綾の部屋にいき

「行っちゃったよ?」

ドア越しで尋ねてみる。

「そう」

という返事。少し涙声。

「実は綾に聞きたいことがあるんだけど、入っていいかな?」

そう言って剛は綾の部屋に入る。

「何?」

振り返る綾。

「なんであんなことしたんだい?」

真剣な顔で聞く

「何のこと?」

「とぼけても無駄だよ?」

観念したのか

「先輩が嫌いになったの。その意思表示よ」

理由を語る。

「違うな。そんなんじゃない」

剛はその理由をすっぱりはねた。

「私がそうだといっているんだからそうなの」

立ち上がり睨みつける。

「いや違う。そんなこと綾が一番わかるはずだよ。健太君にあんなことした本当の理由」

剛は綾をさとす。

「何よ? それ。なにもかもお見通しってわけね。やっぱりお父さんにかなわないな。でももう無理よ。あんなひどいことしちゃったんだもん。嫌われたよ」

俯く綾

「大丈夫だよ! きっとわかってくれるから健太君なら」

自信を持たせる。

「そうかな?」

「そうだよ! さぁまだ遠くへは行ってないはずだ。本当の気持ちをぶつけてきな」

剛は背中をたたき綾を後押しした。

「うん……行ってくる」

綾は健太を追う。

(ぼくができるのはここまでだ)

綾は外に出るとかろうじて健太の背中が見えるくらいだ。必死に走った。このまま去って行ったらもう会えないと思い、本当に必死に走った。

(母さん、あの子立派に成長してるよ。一歩ずつ女性の階段を上ってる)

「せんぱ〜い!!!!」

大きな声でも叫んだ。

健太になんとか追い付いた。

健太は振り向く。綾は膝にてをあて肩で息しながら顔をあげる。

(千鶴さん、やっぱり綾はあなたの子だ。まさか同じような人を好きになるなんて。健太君、まさに若いころの僕ですよ。初めてみたときまさに僕が初めてあなたの家族にあったときと同じ反応でした。ホントにびっくりしましたよ)

「先輩、すいません。あんなことして」

まず謝る綾。

「いや、もういいよ。綾ちゃんの気持ち良く分かったから」

と相手にしようとせず歩き出そうとする。

「待ってください! 違うんです!!」

「え?」

健太は再度振り向く。 

(それでも僕の子でもあってあの子はいろいろ考え込む。なので僕なりに彼女の背中を押してやりました。これでいいんですよね……先生?)

「先輩、いや健太さん。私……あなたのことが……」


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