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EXODUS 前編

【EXODUS】ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 未知の広大な宇宙――


 そこでは時間と空間が重なり合う世界が、果てしなく延々と広がっている。


 その銀河の果てに、嘗ては自ら生命を育んでいた母なる星“テラ(地球)”と呼ばれた青い惑星があった。


 だが、美しいはずの青い惑星は今はもうそこには存在しなかった。


 度重なる環境破壊が招いた結果、気候変動などより自然災害が多発した。長雨により川は氾濫し泥水が濁流となって家や人々を呑み込んだ。別の地域では灼熱という表現が相応しい高温の猛暑により干ばつが農作物を枯らせダムの貯水を干上がらせた。乾燥により山火事が多発し多くの動物や昆虫、植物を一夜にして灰にした。


 気まぐれのような不安定な気候により多くの巨大なハリケーンが発生しあらゆるものを粉々に破壊していった。


 そして日照不足などにより作物は実らず食糧難が起こった。


 やがて、世界全土に原因不明の未知のウイルスが瞬く間に世界全土に広がり猛威をふるい多くの人が命を落とすこととなったのだ。


 少ない食料を求めて紛争が勃発し、人が人の命を互いに奪い合い、大地を朱色に染めあげた。


 火山噴火や巨大地震も頻発し、津波が街をのみ込み地上は文字通り地獄絵図と化したのだった。


 その中で地球の地磁気が逆転するというポールシフトが年々進み、益々、地球環境が変化し続けたのだった。


 人類は初めて国や人種の隔たりを越えて人類存続を共通の目標とし、敵対することを止め協力し合ったのだった。


 残された限りある資源を集めて一隻の巨大な舟の建造を開始した。


 残された時間の中で完成した“アーク”という名の舟は、全人類と可能な限り集められた動植物の遺伝子情報を乗せて地球から宇宙へと旅立ったのだ。


 テラの周回軌道を離脱し衛星ルナの基地に生存する人々を回収する為に、アークはルナの周回軌道へと向かった。


 その航海の最中にテラの地磁気逆転が終了した。


 北半球と呼ばれた地球の大部分は一気に凍結したようで氷がテラを覆った。アイスボールの様な氷結したテラの姿を船内にいた人々は呆然と見つめていた。


 嘗て南極大陸と呼ばれた辺りは以前のような厚い氷壁に覆われた大地とはならず大陸の一部は氷の大地のままであったが、他の部分は海岸線もはっきりとわかるように大地には地表が現れていた。


 そんな変わり果てたテラの姿を数日間見ている間に、衛星ルナの基地とコロニーからの人と物資の搬入が終わった。


 アークが次に向かうのは第四惑星マーズの都市コロニーである。


 マーズでは人類の都市が建造されており、テラとは別の独立した組織がマーズで暮らす人々を統治していた。


 彼らは第三惑星テラで行われている戦争にも静観し沈黙を保っていた。


 何故なら彼らは彼らで惑星マーズでの戦争があったからなのだ。


 赤褐色の酸化鉄て覆われた岩と砂の荒野だと思われていたこのマーズには人類有史以前の文明の痕跡が発見された。


 惑星マーズの研究者たちはマーズで風化しつつある石造りの彫刻や都市跡を発見し調査していた。


 その最中、人類とは異なる容姿の知的生命体と遭遇することとなった。


 混乱した護衛のマーズ軍兵士が銃を発泡し、マーズで遭遇した生命体を殺害してしまったことにより惑星マーズでの人類とマーズ人の戦争が勃発したのだった。


 マーズには人類より遥かに優れた技術力を有する人型人類が存在していた。彼らはテラの人型よりも背丈が高く2メートル程もあり、テレパシーで会話をしている。彼らは地上ではなく地下で暮らしていた。だが、彼らの種族は滅びゆく種族であったために歴史から幕を閉じた。その他に爬虫類の姿した知的生命体とカマリキリの姿をした生命体と蟻の姿をした生命体。昆虫型の知的生命体と爬虫類型の知的生命体の二種類が存在しており、その二種族は主に火星の地下で都市を形成し互いに争っていた。


 そこへ第三惑星の未発達の文明である我々人類が第四惑星マーズに星間移住のために現れて更に争いの火種は広がったのだ。


 マーズへの人類移住計画が半ば強引に実施された2025年代からマーズでの戦争はテラの軍上層部にも知らされず、極秘裏に行われていた。


 人類以外の知的生命体が存在することは、人類にとって驚異でしかない。


 ネットで出回る流出情報などは陰謀論として片付け、このようなことを隠蔽してはこの当時は増えすぎた人類を新天地へ移住させるプロジェクトが進んでいたのだ。


 結果的に惑星マーズに移住計画は成功し、人類は新天地として外空間とは独立したドーム型の都市を建造したのだ。


 いままで不毛の惑星と思われていたいたマーズには、じつは人類が生存するのに必要な十分な大気と水が存在していた。


 マーズに残されていた古代遺跡のピラミッドを調査した際には、ピラミッドの下層部に開けてはならないパンドラの箱があった。


 未知のテクノロジーがそこに存在し、科学者たちは貪欲にそれらを解析に躍起になった。


 第四惑星マーズと第五惑星ジュピターの間にあるアステロイド帯が存在している。この岩石等の欠片たちは嘗て第五惑星と呼ばれていた惑星マルデックと呼ばれていた惑星の残骸だということ。


 太陽系第四惑星マーズと第五惑星マルデックで星間戦争が勃発していた。


 昆虫型種族たちで構成されているマルデック星の宇宙艦隊がプラズマ兵器と核弾頭を使用し、マーズ星の地上を焼き尽くしたこと。


 人型種族たちのマーズの宇宙艦隊が反物質兵器によりマルデック星を粉々に破壊したこと。


 惑星マーズでマーズ星人の生き残りの人型巨人人種とマルデック星の生き残り昆虫型人種の戦争が繰り広げられ、一部のマーズの人型人種は新天地を求めて第三惑星テラへ逃れたこと。その際に大規模な輸送手段として人工天体を用いた。それが今第三惑星テラの衛星ルナである。


 その後、別の太陽系からやってきた爬虫類型種族がこの太陽系へと干渉するようになった。 一部はマーズに、別の一部はテラへと分かれた。


 テラには赤い惑星(ニビル=マーズ)からやってきた巨人によって、現在の人類が遺伝子操作により生み出されたのだった。


 いままでの歴史が覆される程の事実が残されていたのだった。


 テラから旅立ったアークという名の巨大な舟は第四惑星マーズ軌道へ進入し始めた。


「メインノズル オフ。アーク、マーズ軌道到着。メインスラスター、サブスラスターはバランス制御コントロールにリンク。大陸中央部にマーズ都市脱出用シャトル確認」


 メインデッキのクルーはコントロールパネルを操作しながらそう報告した。


「アークはこのままマーズ周回軌道に乗り3周目でマーズ都市脱出用シャトルとドッキングする」


「艦長、マーズ都市本部から通信」


「回線開け」


「こちらはマーズ宇宙局。ドッキングは中止! ドッキングは中止! アーク、ドッキングは……」


 マーズ都市本部からの通信は途絶え、ノイズだけが流れていた。


 アークのメインデッキにいたクルーたちは状況を整理できず混乱した様子であった。


「艦長、通信が切れました」


 クルーの一人がそう告げたが、艦長はまだ混乱の渦の中にいた。


「どういうことだ⁉ いったい何が……」 一瞬にして全身を貫くような激しい衝撃が襲った。


 やがて、漆黒の闇は足音もなくそっと訪れた。


 賢人のぼんやりと不明確な薄れゆく意識は、泥沼のように重くのし掛かる闇の底へと静かに呑み込まれてた。


 それに抗うことができなかった。


 苦痛はなかった。


 身体の全ての感覚が失われているためか何も感じない。


 賢人の細胞一つひとつが失われてゆくと漠然としたものが、暗闇の中で広がって支配力を強めていた。


 視界は漆黒で染め上げられており、何も見ることができない。


  果てしない闇の底は無音であった。


 何も聞こえない世界は静寂そのものがこの場の支配者であった。


 不安のあまり賢人はありったけの大声で叫んでみた。


 だが、その叫び声は虚しく開かれた口から発せられずにいた。


 何度も繰り返し叫んだが、その声は自分の耳では聞こえなかった。


 漆黒の闇の底では賢人の叫び声に返答する者はいない。


 まるで自分の存在が稀薄になっていくようであり、賢人は底知れぬ恐怖感に囚われた。


 自分自身の死。


 魂そのものの消滅。


 虚無。


 例えようのない恐怖という感情さえもやがて希薄になり忘れてしまいそうであった。


 自分自身が何故このような状況下にあるのか記憶の糸を必死に手繰り寄せてみた。


 秋の日暮れは早く辺りが漆黒に包まれていた。


 サッカー部の部活動後、賢人の母親が車で迎えに来てくれていた。


 その軽自動車の後部座席に荷物が詰まったカバンを放り込み、賢人はそのまま乗り込んだ。


 車は暫く走行し赤信号で停車した。


 信号待ちしていると賢人の車の後ろに大きな黒色のワゴン車がやってきた。


 青信号に変わった途端に賢人の母親が運転する車に向かってクラクションを鳴らし続けた。


 賢人の車が動き出すと、車線変更をして前方へ無理な割り込みをしたり、進路を妨害するなどを繰り返しながら必要に追いかけ回し続けていた。


 そして、賢人の車の前方で相手の車は突然停車したまま道路の進路を塞いだのだ。


 暫くの間その場で停車した状態となっていると後続車が勢いよく賢人の車に突っ込んだのだ。


 その後のことは記憶に無かった。


 重い瞼をやっとのことで開くとそこには見慣れぬ天井があった。


「うっ!?」


 体を起こそうとしたが鉛のように重く動かなかった。


 賢人は自分がどうなってしまったのか混乱して物事を整理して考えられなくなっていた。


 声を出そうと必死に叫んだが、その声は言葉にならずに空中で飛散した。


 しばらくの間静寂の時が刻まれた。


 賢人はもはや闇にほぼ呑み込まれ同化していた。


 それはまるでゆっくりと死に逝くようであった。


 生という名の全て柵から解放されつつある中で、何かがそれを許さない。


 それが何なのかは解らないまま、虚無の渦を抗う鉄の鎖に繋がれていた。


 漆黒の渦に翻弄されているが、賢人にとって何も感じることもなく思考力さえ失せていた。


「賢人……」


 夢現の中で遠くから微かに自分の名前を呼ぶ声が聞こえたような気がした。


 五感は既に失われているはずである。


 それは五感ではなく、賢人の魂そのものに直接的に語りかけられていたのだった。


 魂に語りかけるその声は聞き慣れた女性の声であった。


 だが、それが誰なのかを思い出せずにいた。


 懐かしい声の主を思い出すことさえできずにいる自分自身さえも今となってはどうでもいいことのように思考の中で薄れていった。


 水彩絵の具が付いた筆を水入れの中に入れると、透明な水に筆先から絵の具が染み出て全体に溶け込んで広がっていくように、賢人の魂も漆黒の虚無の中にゆっくりと溶け込んでいった。


 それだけで、全ては何もかもが均衡を保たれるようであった。


 突然、アラームがけたたましく鳴り響いた。


 瞼を開けると視界がぼやけてなかなかピントが合わない。


「夢⁉ 俺は夢を見ていたのか⁉ ここは、何処だ⁉ 俺はいったい……」


 賢人は仰向けのまま窓がある方へ視線を向けた。


 窓の向こうは地球で見た星空が広がっている。


 体の力を入れて起き上がろうとしたが、力が入らない。


 その時、はじめて己の体が一糸纏わぬ姿であることに気がついた。


 自動扉が開き、一人の男が室内へ入ってきた。


「認識番号Y-98026-20038-9、ケント・キリシマ。16歳、民間人⁉ 民間人だと⁉」


 軍服を着た男が賢人の手の甲に入っているマイクロチップをスキャーニングしてデータを閲覧していた。


「何故、民間人のコールドスリープが解除されたんだ⁉ エリュシオン答えろ」


 室内に突然CGホログラムで女性の顔が現れた。


「私はエリュシオン。このアークのマザー・コンピュータです。民間人のコールドスリープが解除されたのは緊急事態だからです」


 無機質な声からは緊急事態という危機的なひっ迫感は感じ取れない。


「アークで何が起こったんだ⁉」


 軍服の男は顔色一つ変えずにいる。


「アーク艦内に侵入者を確認。コールドスリープしている人類を食しています。なので、順次、軍関係者から民間人までコールドスリープを解除し始めております」


「侵入者だと⁉ 火星からのアイツらか⁉ コールドスリープの解除は順次⁉ 順次と言ったか⁉」


 軍人は想定外の出来事にパニックを起こしていた。


「エリュシオン、メインデッキの艦長へ報告しろ! そしてとりあえず、侵入者がいるという区画の防護扉を閉めるんだ!」


 エリュシオンの返事よりも早くこの部屋の扉が激しく叩かれた。


 軍人は扉を見つめて青ざめた。


「リョウ・ヒグチ伍長。侵入者は既にこのブロックに進行して現在このメディカルルームの扉に辿り着いています」 先程まで何の問題もなく航海を続けていた恒星間航行用宇宙船アークの艦内に、けたましく警報が鳴り響いた。


 医療を行うメディカルルームの扉は、何者かに今まさに抉じ開けられる状況である。


「エリュシオン、メディカルルームから外へは出られないんだ! 何とかしてくれ!」


 リョウ・ヒグチはアークのマザー・コンピューターであるエリュシオンに助けを求めた。


「リョウ・ヒグチ伍長、メディカルルームの天井に換気口があります。排気ダクトを通り別のフロア又は別の通路へと移動が可能です。しかし……」


「しかし⁉ しかしとは何なんだ⁉ 早くしてくれ! 時間が、時間が無いんだよ!」


「コールドスリープから目覚めた民間人ケント キリシマはまだ肉体再生レベルとして活動できる状態ではありません」


 リョウ・ヒグチはそこで改めて民間人が居たことを思い出した。


 突然の侵入者報告と自分が居るこのメディカルルームの扉が抉じ開けられそうになっていて、一刻も早くこの場から避難しなければならないことで頭がいっぱいになっていたのだ。


「エリュシオン、扉をエアロック用のも閉めて二重扉にしてくれ。それで暫く時間は稼げる。それと扉の向こうの侵入者の情報をできる限り報告してくれ」


「メディカルルームの扉のエアロック扉も閉鎖完了。侵入者の情報収集中。暫くお待ちください」


 賢人はCGホログラムで室内に投影されている女性の顔とリョウ・ヒグチ伍長と呼ばれる二十歳前後程に見える軍服の青年のやり取りを聞いていた。


 どうやら、自分は地球ではなく宇宙船に居て、コールドスリープと呼ばれる冷凍保存的な処置をされていたのが、何らかのトラブルで予定よりも早く目覚めさせられたようだ。


 そのトラブルの原因がこの宇宙船に侵入してきた何者かが、コールドスリープしている人類を捕食している。そして、それが今まさにこのメディカルルームというこの室内へ押し入ろうといている。


 コールドスリープから目覚めたばかりの自分のせいで、この伍長はこのメディカルルームから避難できずにいるのだ。


 賢人は声を出そうとしたがなかなか発声できずにいた。


 やっとの思いで声を絞り出し伍長へと声をかけた。


「すみません。俺を置いてあなただけでも避難してください。俺のことは諦めて他の人の命を救ってください」


「馬鹿な事を言うな! 俺は軍人だ。民間人を護る義務がある。それに、目の前の人さえも救えない者が他の大勢の命を救えるものか。俺は自分が出来る事をする。ただそれだけだ」


 リョウ・ヒグチはそう言った。


 エリュシオンから侵入者の情報が報告された。


 半年前、アークは火星軌道上で火星都市からの脱出シャトルとドッキングするミッションが行われるはずであった。


 しかし、火星からの脱出シャトルは火星の成層圏内で爆発し、火星の都市も核融合炉の爆発と思われるような大爆発と共に炎上した。


 火星との通信が途絶えミッション終了し、恒星間航行用宇宙船アークは火星軌道から離脱した。


 進路を木星へと向かい、宇宙ステーションへと航海をはじめた。


 だが、火星から未確認飛行物体の追跡に合い攻撃を受ける。


 この攻撃の最中に乗じて、彼らはこのアークへと侵入したとエリュシオンは言った。


「火星人がこのアーク内に十名侵入したということか。爬虫類型人類ニ名と昆虫の蟻型人類八名。爬虫類型人類はコールドスリープの人型人類を捕食し、昆虫の蟻型人類は巧みな組織的戦略でメインデッキを制圧と単体行動の俺たちのような人型人類を各個撃破する作戦なんだな」


「メインデッキは立て籠もり状態です。メインデッキのエアロック扉も閉鎖しておきました。木星到達まではまだ時間がありますが、アーク後方約二十キロ、火星からの未確認飛行物体が存在します」


「まだ、諦めてないのか! 攻撃してこないということはこちらの動きを様子見しているんだな? こちらの戦闘員はどうしたんだ⁉ なぜ、出撃しない⁉」


 アークには万が一の戦闘にも対応できるように、対艦戦闘機や対戦闘用ロボが格納されているのだ。


「エリュシオン、艦内の情報をくれ」


「第二エンジン外壁破損のため緊急停止。サブジェネレーター動力停止。第二デッキは大破。戦闘員の居るブロックは既に制圧され生存者無し。現在、このアーク内で活動しているクルーはメインデッキに五名、このメディカルルームに二名。以上」


「現時点でコールドスリープ中の人を除いて、生存者はたったの七名⁉ そ、そんな事って……」


 絶望するリョウ・ヒグチの姿を賢人は見つめる事しかできなかった。


 現在、この宇宙船アークには動けない自分を除いて動ける人間がたったの六名なのだ。


 六名の内、五名はメインデッキで交戦中。


 一人はメディカルルームで動けない民間人を抱えて交戦中。


 こんな不利な状況では、全滅するのも時間の問題だと賢人は思った。


「警告! 第二エリアにおいて火災発生。このままでは艦内のエアダクトを通って煙が室内へ侵入します。エアダクトの区間防火壁を下ろします」


 エリュシオンの報告を聞いた賢人は、火星からの侵入者たちはかなりの前略家だと恐怖した。


 一瞬だけプラスチックやビニールが焦げる悪臭が鼻腔を刺激した。


 配線のコードを包むビニールが燃えて焦げたようなそんな臭いであった。


 賢人は指先に力を入れて仰向けの状態から側臥位になろうと懸命にもがいた。


「動け! 動け! 動いてくれ!」


 心の中で絶叫にも似た感覚で必死に、己の体が動くように全神経を集中していた。


 徐々にではあるが、指先の末端の神経に脳からの司令が伝達されていく感じがした。


「そうだ! 動くんだ! 動け! 動け!」


 賢人の指先が動き出した。


 すると、全身の筋肉も本来の動きを取り戻すかのように小刻みに痙攣し始めたのだ。


「そうだ! その調子だ! 動いてくれ! 俺の体!」


 賢人の強い念じる力がそうさせたのか、体は仰向けから側臥位へとゆっくりと体位変換した。


「うぐぁ!」


 賢人はそのままベッドの上から床へと転落した。


「お、おい。大丈夫か⁉ まだ、動いちゃ駄目だ」


「で、でも。早く逃げないと!」


「分かっている。分かっているとも。だが、この状況ではどうする術も無いんだ」


「この宇宙船には何かないんですか? 艦内で戦うロボットみたいなのとか? 何かあるでしょ⁉」


 樋口亮伍長は何かを思い出したかのように、マザーコンピューターエリュシオンに声をかけた。


「エリュシオン、サイボーグソルジャーは?」


「突撃要員のサイボーグソルジャーはスタンバイ迄にもう暫く時間を必要とします。神経伝達物質と体液を注入中。作業終了後はバトルモードで第七ブロックから搬出可能です」


「搬出可能!? 出撃可能ではなく!?」


 賢人はもう何がなんだか分からなくなっていた。


「起動プログラムと命令は手動で行うことに設定段階から決められている手順です」


 無機質な声でエリュシオンから返答があった。


 じれったさと歯痒さで怒りが込み上げ、その怒りに任せて体をベッドから起こそうとした。


 まだ、力が入らない感じが残るが、上体を起こすことに成功した。


「俺は……なんでここに居るのかも分からないし、どうしてこんな体の状態なのかも分からない。分からないことだらけで……もう、なにが分からないのかが分からない」


「……よし、行くぞ!」


 リョウ・ヒグチ伍長は、壁際に設置された医療用キャビネットを動かして、天井へと続く排気ダクトの入り口を露出させた。銀色の金属パネルがむき出しになり、その奥は暗闇が続いている。


「ここを通れば、第三ブロックのメンテナンスフロアへ繋がってる。運が良ければメインデッキの連中とも合流できるかもしれない」


 賢人はまだふらつく身体を引きずりながら、なんとか立ち上がった。脚に力が戻ってきたとはいえ、体力はほとんど残っていない。だが、もう何かに守られるだけの存在ではいられなかった。


 それが彼の直感だった。


 扉の向こうでは、かすかに金属を軋ませる音が鳴っている。侵入者が、扉を食い破ろうとしているのだ。


 「時間が無い! 俺が先に上がって様子を確認する。お前は後からついて来い」


 リョウは素早くダクトの縁に手をかけて身体を引き上げた。中で何かを確認した後、顔を出して声をかけてきた。


「いける! 早くしろ!」


 賢人は深く息を吸い込み、全身の神経を集中させてキャビネットの上に登る。手足はまだ覚束なかったが、恐怖が彼の身体を強張らせる代わりに、心の奥底から湧き上がる何かが突き動かしていた。


「……大丈夫だ、登れる……!」


 苦悶の表情を浮かべながら、賢人はようやくダクトの縁に手をかけ、リョウの手を借りて内部へと這い上がった。


 その瞬間――


 「ギィ……ギギィ……ッ!」


 メディカルルームの扉が悲鳴のような音を立て、金属が裂ける。


 扉の一部が穴となり、内側からぬるりと伸びてくるのは、赤黒く光る鋭利な爪だった。それに続いて現れたのは、甲虫のような艶を帯びた外殻に包まれた、蟻型の異星生命体。長く伸びた脚が異常な速度で床を這い、口器がかちかちと開閉している。


「来たッ! 急げ!」


 リョウは賢人を押し込むようにしてダクト内に滑り込ませ、自分もすぐにその後に続いた。


 ダクト内は狭く、金属の壁が音を反響させる。二人の呼吸がやけに大きく聞こえた。


 「エリュシオン、第三ブロックの換気口へ誘導してくれ!」


 「了解。目的地までの最短ルートを表示します」


 エリュシオンの声が響くと、リョウの手首に装着された簡易端末のホログラムに青白い線が浮かび上がった。


「この先を左に、次を右に曲がって……」


 その時、ダクトの後方から再び金属を引っ掻くような音が聞こえてきた。


 「……追ってきやがったか!」


 振り返ると、ダクトの入り口に異形の影が差し込んできていた。


 蟻型の侵入者だ。人間の首よりも太い前脚がダクトの縁にかかり、鋭利な口器がこちらを探るように動いている。


「早く進め! あいつ、狭い通路でも入ってこれるぞ!」


 二人は手と膝を使いながら、滑るようにダクトの中を進んだ。背後で金属の軋む音が続き、ついに侵入者がその体の半分を押し込んできた。


「このままじゃ追いつかれる……!」


 ダクトの途中、リョウは一瞬立ち止まり、腰のホルスターから拳銃のような武器を取り出した。


「耳塞げ! フラッシュ弾だ!」


 賢人が顔を伏せた直後――


 「バンッ!!」


 閃光がダクト内を白く染めた。直後、後方から金属を爪で引っ掻くような異音と、獣じみた叫び声が響く。侵入者が怯んだのだ。


「今のうちだ、行け!」


 再びダクトを這い進み、ついに第三ブロック直上の換気口に辿り着いた。リョウが格子を蹴破り、足から飛び降りた。


「下りろ、俺が受け止める!」


 賢人は身を投げるようにダクトから飛び出した。リョウの腕がしっかりと彼を抱え、そのまま床に転がった。


 「第三ブロック、メンテナンスフロア……か?」


 周囲には非常灯が点滅し、赤い光が交互に壁を照らしていた。機械の唸り音が薄暗い空間に響いている。


「今のところ、敵の影はない……でも時間の問題だ」


 リョウは賢人を支えながら立ち上がり、エリュシオンに呼びかける。


「メインデッキと通信を繋げ!」


 「メインデッキ、応答ありません。ノイズのみです。再試行中……」


 その時、メンテナンスルームの奥で、スチール製の扉がわずかに開いた。


 「……誰かいるのか?」


 リョウが警戒しながら武器を構えると、その隙間から現れたのは、アークの整備クルーの制服を着た小柄な女性だった。手にはプラズマツールを握りしめている。


「き、君たち……生き残り……?」


 女性は明らかに緊張しながら、ゆっくりと姿を現した。


 「……俺はリョウ・ヒグチ伍長。こっちは民間人のケント・キリシマだ。君は?」


 「レイナ・ミナト。中尉です。ここに隠れてたの……」


 その瞬間、また遠くで金属の破壊音が鳴った。レイナの顔が青ざめる。


「……奴ら、ここにも来るわ。早くこのフロアから出ないと……!」


 リョウは頷き、賢人に向き直る。


「ケント、歩けるか?」


「……なんとか……」


 三人は次なる逃走ルートを探しながら、薄暗いメンテナンスルームを走り始めた。背後では再び、異星の侵略者の蠢く音が響いていた。


 三人は薄暗いメンテナンスフロアを走っていた。


 赤く点滅する警報灯の明かりが断続的に壁を照らし、無機質なパイプと制御装置が視界を流れていく。賢人は足元がおぼつかず、肩をレイナに支えられていた。


 「この先に、旧型のサブ制御ルームがあるわ。普段は使われてないけど、通信もできるはず。隔離区画の管理もそこから動かせる」


 レイナが早口で説明する。


 「隔離区画って?」


 賢人が尋ねると、リョウが答えた。


 「艦内で病原体が発見されたときなんかに、一時的に人を避難させる場所だ。基本的に外界と遮断されてるから、あそこまで逃げられれば侵入者の追跡を防げる可能性がある」


 「ただし――」レイナが顔を曇らせる。


「その区画は半自動で封鎖される。もし外から制御を奪われたら……閉じ込められるの」


 そのとき、警報音に混じって艦内アナウンスが響いた。


 「警告。第三ブロック後方エリアにおいて、圧力異常を感知。空間破損の可能性あり。至急、退避してください」


 「やばい、奴ら、どこかの壁を壊してきた!」


 レイナが叫ぶと同時に、金属製の床が低くうねるような振動を始めた。賢人は咄嗟に足を止めて振り返った。


 遠く、廊下の奥で火花が散っている。黒光りする何かが這い出すようにして姿を現した。


 「蟻型……来たぞ!」


 リョウが素早く拳銃を抜いて構える。


 「撃っても時間稼ぎにしかならん。逃げるぞ、今は隠れる場所を確保するのが先決だ!」


 三人は再び走り出した。足音が重く響く廊下の先、わずかに開いたハッチの扉が見えてくる。


 「ここよ! この扉の奥!」


 レイナが先に滑り込み、制御盤にコードを入力する。扉がゆっくりと開き、奥に薄暗い制御室が現れた。


 「早く! リョウ、ケント!」


 二人もすぐに室内へ滑り込み、扉を閉める。


 「エリュシオン、隔離区画の初期化手順を開始。対象:C-17サブセクター!」


 「確認しました。区画C-17、初期化開始。アクセス権限:レイナ・ミナト中尉。承認されました」


 コンピュータの応答が響く。


 室内の空調が切り替わり、低い重低音と共に隔離区画へのシャッターが下り始めた。


 「これで……しばらくは大丈夫なはずよ」


 レイナが額の汗を拭いながら言った。


 「助かったな……」


 リョウは銃をホルスターに戻し、深く息をついた。「で、問題はこれからだ」


 「問題?」


 賢人が尋ねると、リョウはモニターに目をやった。


 「この艦内のどこかに、まだ七千人以上の人間が眠ってる。その全員がコールドスリープ中で、侵入者たちの“餌”にされてる。俺たちだけが逃げても、意味はないんだよ」


 「……そんな……」


 賢人の心臓がきしむように痛んだ。


 「じゃあ、どうすればいいの?」


 「――戦うしかない」


 リョウが低く答えた。


 「今この船にある兵器資源を使い、奴らを駆除する。そうしないと誰も助からない。たとえ俺たちが生き延びても、人類の希望は失われる」


 「そんな……でも俺たち、三人だよ……?」


 賢人の言葉に、レイナが小さく首を振った。


 「四人よ。……まだ一人、起動できる“兵士”がいる」


 「サイボーグソルジャーか?」


 リョウがレイナを見つめた。


 「あのモデルは一体だけ、艦内警備用に仮設格納庫でスタンバイしてた。今もバイオ液の注入中だけど、あと数分で起動できるはず」


 賢人は思わず言葉を飲んだ。


 サイボーグソルジャー。人間の神経ネットワークと人工筋肉を融合させた、半生体型の戦闘用兵士。  


 アークの最終兵器とも言われていた存在。


 「そいつを使えば……反撃できるのか?」


 「可能性はある。だが操縦には条件があるわ。コードリンクで脳波を接続する必要があるの」


 「それって……」


 レイナが賢人を見た。


 「もしかすると、今ここにいる中で一番適性があるのは……あなたかもしれない」


 「俺……?」


 賢人は理解が追いつかないまま、自分の両手を見つめた。


 「どうして俺が……?」


 「あなたの手の甲のマイクロチップをスキャンしてデータを確認させてもらったの。コールドスリープ解凍時に記録された神経パターンが……規格外だったの。通常の成人では到達しない波形が出ていた。恐らく、何か……特別な要素があなたにはある」


 賢人は言葉を失った。


 「ケント、やれるか?」


 リョウが真剣な眼差しで問いかける。


 「いや……分からない。でも、やらなきゃいけないって気がするんだ。逃げるためじゃなくて、誰かを救うために」


 「……なら決まりだ」


 リョウが小さく頷き、レイナが手元の端末にアクセスする。


 「サイボーグソルジャー『セレス』、起動準備開始。コードリンク対象:ケント・キリシマ、ID確認……完了」


 モニターの中で、新たなエリアの扉が開き、そこに横たわる機械の巨体が映し出された。銀白の外装。無機質な仮面。胸部には青く発光するコア。


 「これが……」


 「ええ。アークに残された最後の切り札。サイボーグソルジャー“セレス”。火星戦争で失われた機体の唯一の後継機よ」


 遠くで何かが崩れる音が響いた。再び侵入者がこの区画に迫りつつあるのだ。


 時間はない。賢人は、決意を胸に端末の前に立つ。


 「レイナ。どうすればいい?」


 レイナは無言で、彼の右手を取った。


 「ただ、心を繋げて。――あとはセレスが導いてくれるわ」


「リンク開始します。深呼吸して、心を落ち着けて」


 レイナの声は穏やかだったが、その指先は冷静に端末を操作していた。壁面から伸びたアームがケントの後頭部に取り付き、脳波同調用の神経リンクユニットがゆっくりと接続される。


「神経接続……レベル2通過。脳波安定……波形一致率、93.8%。これは……驚異的だ」


 リョウが端末に映る数値を見て、目を見開いた。


 「93%超え? そんなの軍の特化兵でも見たことねえぞ……!」


 レイナが小さく頷く。


「やっぱり……この子、ただの民間人じゃない」


 賢人は額に汗をにじませ、目を閉じていた。まぶたの裏で、無数の光が脳内を流れる。


 ――名前は?


 ――ケント・キリシマ。


 ――識別コード、Y-98026-20038-9。記録照合中……適合率:極めて高。


 ――ようこそ、パイロット。


 誰かの声が聞こえた。だが、それは人のものではなかった。


 もっと静かで、澄み切った、けれど金属のように冷たい意識が、ケントの心に触れていた。


「君……は……」


『私は“セレス”。第七世代型、強化汎用戦闘機体。搭乗者とのコードリンクにより起動する。認証完了。ケント・キリシマをパイロットとして受理』


 セレスの声は、無機質なのに何故か温かさを感じさせた。


『これより、戦闘モードを開始します』


 直後、艦内の照明が瞬間的に明滅し、格納庫側のシャッターがゆっくりと開いた。


 銀白の機体が、ゆっくりと立ち上がる。人型をベースにしたその姿は、まさに“戦士”の名にふさわしかった。


 背部から放射状に展開するバランサーフィン。両腕にはエネルギーブレード発振器。脚部には慣性制御ユニットと磁気推進装置。そして、胸部コアに輝く青白い光。


「セレス、起動完了。出撃、可能です」


 レイナが端末越しに報告する。


「ケント、聞こえるか!? 意識はあるか!?」


 リョウの声が響いた。賢人は目を開き、僅かに頷いた。


「……大丈夫。行ける」


「頼んだぞ。俺たちの希望はお前に託された」


 セレスの胸部からエネルギーが収束し、機体の全身に緩やかな光が走った。


 次の瞬間、格納庫のシャッターが爆発的に吹き飛んだ。


 火花と共に、黒く光る蟻型の侵入者が飛び込んできた。


「来たか……!」


 セレスが、賢人の意識と共に前進した。


 機体の左腕から青白いブレードが発振され、宙を切り裂く。


 鋭く飛び掛かってきた蟻型の一体が、セレスの斬撃によって真っ二つに裂けた。


 緑黒色の体液が宙に舞い、金属床に煙を上げて焼け付いた。


『反応速度、良好。ケント・キリシマ、操作精度、軍訓練兵レベルを大幅に上回っています』


「上等だ。もっと来い……!」


 後方からさらに二体の蟻型が高速で接近。だが、セレスは旋回しながら右腕のブレードで一体の首を切断、背部のバランサーフィンを展開し、上空へ跳躍。


 重力制御装置が一瞬だけ空間をひずませ、ケントの意識は機体と完全に一体となっていた。


「リョウ、今のうちにレイナと避難を!」


「了解! 気をつけろよ、ケント!」


 リョウはレイナを伴い、制御室の裏手へと退避した。


 蟻型の残り三体が、セレスを取り囲むように配置を取る。


『高度な集団行動。――これは、戦闘戦術を持つ統率型ユニット』


「つまり……頭がいる」


 その言葉に呼応するかのように、廊下の奥から重々しい足音が響いた。


 ――ガシャ、ガシャ、ガシャ……


 そこに現れたのは、蟻型よりも遥かに巨大な存在。爬虫類のような鱗に覆われ、二足歩行するその姿は、明らかに“知性”を持つものだった。


 顔の中心には複眼のような光学機器。そして、右腕には人類製の銃火器が移植されている。


「……これが、火星の爬虫類型……!」


『警告。対象、対戦闘用人工生命体。識別コード:レグルス種。過去戦闘記録あり』


 巨大な爬虫型が、ガリガリと人間の言語に近い咆哮を発しながら銃口を向けた。


 刹那、セレスが跳躍。


 銃弾が床を抉り、火花と共に壁に突き刺さる。ケントの意識が集中し、セレスの動きがよりしなやかに加速する。


 『精神リンク強化。神経伝達率、上昇。セレス、戦闘能力上昇モードへ移行します』


 ブレードが両腕から伸び、背部のコアが最大出力に。


 セレスは回転斬撃を繰り出し、突撃してきた爬虫型の腹部に突き刺さった。


 「うおぉおおおっ!!」


 賢人の絶叫と共に、エネルギーが放出され、爬虫型は断末魔の咆哮を上げながら後方に吹き飛んだ。


 壁に激突し、黒煙を上げて崩れ落ちる。


 残った蟻型の二体が怯むように後退した。


 だが、セレスは追撃せず、その場に静止した。


『敵戦力、一時的に後退。周辺セクターの安全が確保されました』


 「……はぁ、はぁ……」


 賢人は機体の中で呼吸を整えていた。全身が重く、意識が遠のく感覚があった。


『ケント、意識を保ってください。今はまだ、あなたの戦いが終わったわけではありません』


 セレスの声が静かに告げる。


「分かってる……でも、ちょっと……休ませてくれ……」


 そのとき、エリュシオンの通信が再び入った。


『報告。アーク艦外、木星ステーションからの通信波を捕捉。メインデッキに転送します。通信文に緊急信号あり――「生存者確認。支援艦、救援中」』


 「……救援?」


 微かに、ケントの口元に笑みが浮かんだ。


 ――希望は、まだ消えていない。


 通信が明滅し、ブリッジ中に電子音が響き渡った。


「通信波形、再解析中……識別コード取得。JSS-Σ72、『セラフィム』級の救援艦です!」


 オペレーターが声を上げると同時に、メインモニターに映像が走った。


 それは、荒廃した宇宙空間の中を進行してくる一隻の白銀の艦影だった。艦体には明確な損傷の跡があり、船体の一部は焼け焦げ、半ば露出している装甲の下に内部フレームが剥き出しになっている。


「……生きてるのか、本当に……」


 リョウが呆然と呟いた。


 そして通信が接続され、ノイズ混じりの音声がブリッジに流れた。


『こちらJSS-セラフィム、航宙士官シン・イズミ。アーク宛、緊急支援通信。船体損傷率64%、エネルギー残量15%、乗員は……現在、32名。応答願います、アーク……』


 レイナが急いで送信スイッチを叩いた。


「こちらアーク、レイナ・ミナト中尉です。あなた方の座標は確認しました。エリュシオン管制室から誘導信号を送信中。現在、戦闘は沈静化傾向、ただし艦内に残敵の可能性あり」


『了解……ありがとう。こちらでも通信解析中に異常な帯域を検知した。どうやら……例の“侵食型電子寄生体”がこちらにも接触し始めている。時間がない』


 侵食型――それは、火星戦争終結直前に確認された新型の敵性存在。電子空間に侵入し、システムを乗っ取るウイルスのような人工生命体であり、人類の技術すら模倣・吸収して成長すると言われていた。


「艦のAIも、油断すれば奴らに取り込まれる。セラフィムは応急遮断で凌いだが、もってあと数時間だ」


 通信の向こうの声に、緊張が走る。


 賢人はセレスと共に制御エリアへ戻りつつあったが、その言葉に小さく眉をひそめた。


「電子寄生体……?」


『それは“グリード”と呼ばれる存在。火星側で発生した後期異常種の一種です。自己増殖と知性模倣を備え、人間や機械を“学習”しながら侵略する』


「まるで、機械のフリをした……意識体みたいだな」


 セレスの内部に走る回路が微かに震える。リンクを通じて、賢人にはセレスが“躊躇”しているような感覚さえ伝わってきた。


「セレス……?」


『……ケント、もし彼らと接触する場合、安易な同調や対話は避けてください。言語、姿形、声すらも、こちらを“惑わすため”に利用してくることがあります』


 まるで、“心を読まれる”ような存在。無差別な攻撃よりもなお恐ろしい、精神の侵蝕。


「了解した……けど、気になる」


『何が、ですか』


「そいつら……“誰か”に似てる気がするんだ。俺が……ずっと昔に、夢で見た存在に」


 セレスが返答を止める。代わりに、脳内に映像のような何かが流れてきた。


 ――砂塵。赤い大地。小さな廃墟。誰かの手を引いて、少年が走っている。


 ――振り返る。白い髪。黄金の瞳。どこか、レイナに似た少女。


 ――そして空には、黒い機械の群れが降ってくる。


 「……なんだ、今の……!」


『それは、あなたの潜在記憶の一部です。リンク中に共鳴が生じた可能性があります』


「じゃあ……俺は本当に……火星に……?」


 賢人の意識が揺らぐ。だが、それを打ち消すように、別のアラートがブリッジに響いた。


「警報! エリュシオン下層エリアに異常反応! 未確認の熱源が移動中――しかもこれは……!」


 オペレーターが声を詰まらせる。


「“ヒト型”反応です!」


 ブリッジに緊張が走る。


「火星側の戦闘種にヒト型なんて存在しないはずだぞ……!」


「まさか、グリードの新型か……」


 映像に映し出されたのは、白銀の外骨格に包まれた異形の存在だった。だが、その姿形は明らかに“人間に似て”いた。細く長い四肢。整った顔貌。だが眼には、無機質な“渦”があった。


「こっちを……見てる?」


 レイナが呟いた瞬間、その存在がカメラ越しに“微笑んだ”。


 カメラが砂嵐のようなノイズと共に破壊される。


 直後、全艦の通信網にノイズ混じりの“音声”が響いた。


『……ケント……・キリシマ……返せ……』


 その声は、どこか“ケント自身の声”に似ていた。


 艦内が凍りついた。


 彼は、ゆっくりと立ち上がった。


「――行かなきゃ」


「待て、ケント! まだ体が回復していない、あれが何かも……!」


 リョウが止めるも、賢人の瞳には、はっきりとした意志が宿っていた。


「俺が行かないと……あいつは、俺に“呼びかけてる”」


 セレスが沈黙のまま、ゆっくりとブレードを展開した。


『了解。同行します。これは、あなた自身の“記憶”を取り戻す戦いとなる可能性があります』


「構わないさ。俺の過去が、何だったとしても……未来は、俺が選ぶ」


 エリュシオンの通路に、賢人とセレスの足音が響く。


 戦いは、新たな段階へと突入していく――。


 メディカルルームから続く廊下は静まり返っていた。だがその沈黙は平穏によるものではない――獣が息を潜めて待ち伏せしているような、張り詰めた緊張が空間全体を支配している。


「セレス、位置情報は?」


『ブロックF-13、冷却炉区画にてヒト型反応を継続確認。先ほどの熱源と一致。……ただし、動きを止めています』


 リョウ・ヒグチ伍長は賢人の背後で小声で言った。


「動いていないのか、それとも……待ってるのか」


 その一言に賢人の心臓が跳ねる。待っている――まるで、彼が来ることを“知っている”かのように。


 エリュシオンの自動扉が静かに開き、ふたりは冷却炉区画に足を踏み入れた。


 氷のように冷えた空気。凍結したパイプの隙間からは、微かに冷却材の蒸気が立ち上っている。


 そして、その中央に“いた”。


 白銀の装甲に身を包んだ、人間の青年のような存在。


 その背中は静かにこちらに向けられていた。まるで、何かを“待っている”かのように。


「……来たか、ケント・キリシマ」


 静寂を破ったのは、その声だった。


 低く、柔らかく、けれど不気味なほど“似ていた”。


 ――自分自身の声に。


 賢人は一歩踏み出した。


「お前は……誰だ?」


 その存在はゆっくりと振り返った。


 顔――は、確かにケントに似ていた。だが眼が違う。そこには瞳孔も虹彩もなく、渦を巻く金属的な“光”だけが宿っていた。


「私は“お前”の可能性。火星で失われた、もうひとつのケント・キリシマだ」


 声に嘘はないように思えた。ただ、どこか“作られた人格”のような違和感が、皮膚の下を這う。


「火星で……?」


『ケント、注意してください。その存在は高密度人工脳波を発しており、AI複合型のハイブリッド生命体である可能性があります』


 セレスの警告が響いた。


 だが賢人は視線を逸らさない。


「説明しろ。俺は何者だ? なぜ……お前が俺と同じ顔をしている?」


 ヒト型は一歩近づいた。その足音すら、賢人と酷似していた。


「テラでは語られないもうひとつの歴史。マーズには〈記憶の収集機〉があった。死者や、昏睡状態の者の精神情報を“記録”し、それを再構築できる技術だ」


「……まさか、お前は俺の……記録?」


「正確には“断片”だ。事故によってお前の意識が昏睡したとき、マーズの記憶機構が一部を読み取った。私はその断片から再構築された存在――もう一人の“お前”だ」


 それは真実なのか、敵の罠か。それとも、遥か昔の火星文明のテクノロジーが生んだ、悲劇的な模倣なのか。


 賢人は言葉を飲み込む。


「じゃあ、俺は……“誰”なんだ。オリジナルか? それともお前が……」


「どちらでもあり、どちらでもない。お前は“選ばれた器”。かつて、マーズを滅ぼした“鍵”の因子を宿す存在だ。私もまた、その鍵に近づくために“作られた”」


 賢人の内に、底の知れない恐怖が広がった。


 ――鍵。因子。自分が、災厄の源だったというのか?


「俺に……何をさせたい?」


 その問いに、“もうひとりのケント”は、静かに言った。


「融合だ」


「なに?」


「お前と私が融合すれば、完全な“鍵”になる。そして、真実への扉を開くことができる。失われた記憶も、火星の未来も、全てが見える」


 彼はそう言いながら、手を差し出した。


 だが――


『拒否してください、ケント! その融合は取り返しのつかない結果を生みます!』


 セレスの声が響いた。


『彼は“グリード”の核。電子生命体にして、あなたの精神を乗っ取るために“ケント”という姿を模倣した存在です!』


 その言葉と同時に、“もうひとりのケント”の表情が歪んだ。


「そうか、ならば……やはり、力づくで取り込むしかないようだ」


 次の瞬間、彼の右腕が機械の刃に変形した。


 ――激突。


 セレスがシールドを展開し、賢人を守る。鋭い衝撃音が廊下に響いた。


「行け、ケント! あなたは記憶の中で戦う者ではない、今を生きる存在だ!」


 セレスが叫び、火花を散らしてもうひとりのケントと交戦を始める。


「でも、セレス、お前ひとりじゃ――!」


「私はAIです。あなたの命が優先です!」


 賢人は、振り返りながら叫んだ。


「絶対に戻る! セレス! 生き延びろ!」


 ケントは冷却炉を脱出しながら、胸に沸き上がる不思議な感覚を押さえきれなかった。


 ――自分の中に、“もうひとりの声”が囁いている。


 その声は、確かに自分自身だった。


 「……君は、どっちのケントだ?」


 胸に問いかけながら、彼は走る。


 この戦いが、やがて自分の“存在”を問う旅になることを直感して――。


 賢人は冷却炉区画から転がり出るように脱出した。足元はまだふらついていたが、意識は鮮明だった。


 脳内に焼き付いた、もう一人の“自分”。


 ――あれは自分なのか? 自分が成り得た、もうひとつの未来なのか?


「ケント、こっちだ!」


 鋼製の通路の陰から、リョウ・ヒグチ伍長が手招きしていた。彼は携行火器を構え、片膝をつきながら周囲に目を配っていた。


「間一髪だったな。冷却炉の扉は自動でロックされた。セレスが時間を稼いでくれてる。……無事で、よかった」


 賢人はうなずいたが、表情には戸惑いが浮かんでいた。


「伍長……俺は、本当に“ケント・キリシマ”なのか?」


「何を言ってる? あの部屋で一緒に戦ったのは“お前”だ。名前や記録がどうであれ、俺は今この瞬間に助けようと戦っている“お前”を信じる」


 その一言が、沈んでいた賢人の内に、小さな光をともした。


 そのとき、通路に警報灯が点滅し、赤い光が天井を染め上げた。


『警告。C-ブロックにて未知の活動エネルギー反応を感知。発生源は元・冷却炉区画――再起動を確認』


「再起動⁉ ……あの模倣体が、セレスを振り切ったのか⁉」


『否。模倣体と推定される対象は、自身の肉体を変質させて再構築を開始しています。周囲の物質を吸収し、自己強化を行っています』


「そんなバケモノ……!」


 リョウは拳を強く握りしめた。


「……やつは“鍵”を探してる。俺がその鍵だって、言ってた」


 賢人が呟く。


「なぜだ? なぜお前が?」


「分からない。でも、あいつは俺の記憶から生まれた“可能性”の一部らしい。それなら、あいつは俺の“本能”を知ってる。次に、どこへ向かうかも……」


 賢人は迷いなく立ち上がった。


「次は中枢区画、マザーデッキだ。そこに行く。アークの意思がある場所……そこで何かが始まる気がする」


「馬鹿な……お前はまだ完全に回復していない。行けば殺されるだけだ!」


「でも、行かないわけにはいかない。俺は、今ここにいる人たちを、これ以上“食わせたくない”」


 ――記憶ではなく、意思で生きる。


 賢人の言葉に、リョウはしばらく黙っていたが、やがて苦笑した。


「……くそっ。俺も軍人失格だな。こんな状況で民間人に突っ込ませてどうする」


「伍長……」


「行こう、ケント。俺が前を行く。もしもの時は……迷わず走れ」


 彼らは走り出した。メインデッキへの道を駆け上がりながら、通路を走るたびに警報が鳴り響き、あちこちの壁から配線が露出していた。


『侵入者の行動により、艦内構造が変質しつつあります。外装素材の一部が模倣体に吸収され、内部装甲が歪曲しています』


 アークそのものが、何かに“喰われている”ようだった。


「セレスは? 生きてるのか⁉」


『私はここにいます。別サブシステムへ意識転送済み。メインデッキの中枢ブレインにて合流予定』


「よかった……!」


 中枢デッキへの最後のセキュリティゲートが開いた。


 そこには――


 “模倣体ケント”がいた。


 だが、もはやそれはケントの姿ではなかった。


 体の半分は銀色の装甲に覆われ、残る半身は肉と神経が露出し、無数のケーブルが鞭のように空中に蠢いていた。口元だけが“人間”のまま、笑みを浮かべていた。


「やっと来たな。完全体になるには、お前の“原初因子”が必要だ。拒絶しても無駄だ、私とお前は――ひとつになる運命なのだから」


「なら、お前を拒絶することで、俺は俺になれる」


 賢人の言葉に、模倣体が微かに笑った。


「拒絶もまた融合の一形態。いずれ分かる。……さあ、解放の時だ!」


 その瞬間、ケーブルが無数に伸び、リョウ・ヒグチ伍長が前に出た。


「ケント! 走れ!」


 リョウが身を挺してケーブルの一部を銃撃、破壊する。その隙に賢人は中枢ブレインの台座へと飛び込んだ。


 CGホログラムでセレスの姿が現れた。


『今です。ブレインと同調し、あなたの“因子”を解放して!』


「俺に、そんな力が……!」


『あります。あなたは“鍵”。宇宙に残された最後の“人類の叡智”への扉。あとは、あなた自身がそれを認めればいい』


 賢人は手を伸ばした。


 次の瞬間、意識が光に包まれた。


 ――遠くで声が聞こえた。


 「ケント……賢人……私の、大切な子」


 母の声だった。


 賢人は瞼を開けた。


 ブレインの光が彼の手を包み、全身へと流れ込んでくる。熱く、まばゆい衝撃。


 模倣体が叫んだ。


「やめろ! お前は“器”であって、意志ではない! その力は私のものだ!」


「違う。これは……俺の“命”だ!」


 賢人の背中から光の奔流が噴き上がる。内部デッキを満たしていた模倣体のケーブルが焼き切れ、リョウを縛っていた触手もすべて消滅した。


 模倣体の体が崩れ、虚ろな声が響いた。


「……なぜだ。なぜ“お前”が、真の鍵なのだ……」


 その声を最後に、模倣体は消えた。


 残された静寂の中、賢人は膝をつき、肩で息をした。


 セレスが静かに言った。


『あなたは選ばれたのではありません。自らを選び取ったのです。おめでとう、ケント・キリシマ』


 リョウ・ヒグチが血のにじんだ腕を押さえながら笑った。


「見違えたな……民間人。いや、“鍵”って呼べばいいのか?」


 賢人は静かに立ち上がり、言った。


「……まだ終わってない。奴らの母艦が、アークの背後にいるんだろ? この戦いは、ここから始まるんだ」


 中枢ブレインとの同調を終えた賢人は、まるで視界の奥に“宇宙そのもの”が宿ったかのような感覚に包まれていた。神経の一本一本に微細な波動が走り、思考は加速し、世界の成分を読むような知覚が芽生えつつあった。


「セレス……これは、なんなんだ? 俺の中で……何かが目覚めていく」


『それは“起源共鳴”です。あなたの因子がアークの深層システムに適合したことで、遺伝子レベルでの覚醒が始まっています』


 リョウ・ヒグチ伍長が傷を負いながらも立ち上がり、賢人の肩に手を置いた。


「……まさか、お前が“超適応体”だったとはな。こいつは人類の新たな進化かもしれん」


「俺はただ……逃げたくなかっただけだ。誰かを犠牲にして進むのは、もう嫌だった」


 賢人は中枢制御盤に手をかざした。瞬時にアークの艦内各所が網膜投影され、残存クルーの状況、損傷区画、そして――


 《火星軌道上に浮かぶ“敵艦”の姿》が映し出された。


 それは、まるで“神殿”を模したような構造だった。金属とも有機体ともつかない外殻、波打つように動く装甲板、そして中心部に浮かぶ巨大な“眼”。


 「敵艦、〈シン・アルティマ〉……識別不能な生命波長、おそらく人類の科学を超えた技術です」


「来るのか?」


『来ます。すでにアークを捕捉、全通信が遮断されています。艦橋にて迎撃体制を整える必要があります』


 リョウが口を結ぶ。


「……逃げ場はないな。なら、やるだけだ。地球も火星も、もう後戻りはできない」


 賢人はうなずいた。


「俺たちの“船”だ。なら、俺たちで守ろう」


 ――その言葉が合図だった。


 アーク艦内に残された全乗員へと緊急信号が走り、ブリッジ要員、医療班、整備ドローンが各所で起動を始める。中枢ブレインを介して指令を出すケントの声が、アークの隅々まで響いた。


『こちらケント・キリシマ。アークの中枢を掌握した。全員に告ぐ――これより、火星軌道上の敵艦〈シン・アルティマ〉との戦闘に入る。全戦闘モードを解放。アークは、これより“生存のための戦艦”として機能する!』


 各区画で機動兵器〈AL-FRAME〉が起動。格納庫のハッチが開かれ、巨大な腕を備えた重装ユニットが回路に沿って動き出した。


『AL-FRAME Type-β、出撃準備完了。搭乗者にケント・キリシマの認証パスを登録します』


「俺が……乗るのか?」


『AL-FRAMEは“鍵”であるあなたにしか完全同期できません。共鳴率92%……搭乗許可』


 目の前のコックピットが開く。


 賢人は一瞬の迷いの後、深呼吸して座り込んだ。操作インターフェースが半透明のホログラムとなって現れ、彼の神経に直結していく。


「AL-FRAME、起動」


『起動認証、完了。迎撃プログラムを展開します』


 アークの艦橋に響く轟音。


 敵艦〈シン・アルティマ〉が動いた。


 その“眼”から光が集束し、重力湾曲を伴った一条の破壊波が宇宙空間を裂いた。間一髪でシールドが展開され、衝撃は緩和されたものの、アークの外装が一部融解する。


「奴は……惑星ごと破壊できるプラズマ兵器を積んでる……!」


『アルティマ砲と推定。現存する人類兵器を遥かに超える出力です』


「やるしかない……!」


 賢人はユニットの両腕を開き、神経信号と同期して〈量子バーストキャノン〉をチャージした。


「撃つぞ……!」


 AL-FRAMEから放たれたエネルギーが敵艦の装甲をかすめる。だが、それはあくまで“挨拶”に過ぎなかった。


 敵艦がゆっくりと、姿を変え始める。


 まるで神の偶像が開くかのように、その内部からはさらに別の機体――《“完全融合体”となった模倣体ケント》が姿を現した。


 「また、お前か……!」


『違う。私は“お前が持ち得た可能性”の極地。お前が拒絶し、進むことを選んだ先の影』


 かつての模倣体はすでに「個体」ではなかった。艦そのものと融合し、“意志”を持つ存在へと変貌していた。


 「お前は、もう俺じゃない」


 賢人の目が鋭く光る。


「だったら、決着をつけよう。これは……人類の未来を選ぶ戦い」




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