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「っていうか司は?」


 あきれる空気のただよう中、思いだしたようにサクがもうひとりの名前を口にした。


「あ。また倒れてる」


 GPSで位置情報を確認したマサノリが目的地へとかけだす。


「マジかよ。熱中症じゃなきゃいいけど」

 サクもいっしょにかけだした。

 



(気持ち悪い)


 その頃、当のオレ――(あめ)宮司(みやつかさ)は道路で倒れていた。


「……おまえら、いい加減にひとの背中で飛び跳ねんの、やめろ」


 頭はぼーっとしていてぐらぐらする。


 手足も動かせない。


 でも、小動物みたいなやつが数匹、背中で跳ねまわっているのだけは、しっかり感じ取っていた。


 それといっしょに手のひらに伝わる微かな振動で通行人の存在を知る。


「熱中症じゃないの?」「だれか救急車呼んだほうが」


 覗き込んでる気配がする。


 だれか、じゃなくておまえが通報しろよと言いたい。


 記録的猛暑を更新しまくる昨今。


 まだまだイケる使い捨てカイロ並みなアスファルトの上で、うつぶせの男子高校生を見れば誰もが熱中症としか疑わないだろう。


 しかも首には冷感マフラー。


 傍らには半解凍のペットボトルが転がっている。「これだけ対策をとっているのに?」という声が聞こえてきた。


 それでもオレが動けない理由は、危険な暑さが原因ではないと念を押しておく。


 できるかぎりの対策をとってはいても完全ではないとツッコミたい。


 熱中症対策についての野次馬の疑問に混ざって「救急車呼ばないの?」という声が耳に届く。

 


「だってこの子、雨宮あめみやんちの――」

 


 出た。


 自己防衛論。


 理由は単純だ。


 神隠しのとばっちりを食いたくないから。


 訂正するけどオレは神隠しに遭ったことはない。


「わあっ! なんか足つかまれた!」「やばいやばい。呪われるよ」


 たった今までふざけ半分だった野次馬がばたばたと走り去っていく。


 競輪にでも出られそうな勢いだな。


 どうせ背中で飛び跳ねてたのが、しがみついたか何かしたんだろ。


 一瞬軽くなっていた背中がまた重たくなった。


 本当にもう人をトランポリンにするなっての!


「司!」


 野次馬と入れ替わりに焦った声と騒がしい足音が近づいてきた。


 天の助け、いや、ふたりの貴重な友人の助けがやってきた。


「ひっでーよな。幼気な男子高校生がぶっ倒れてるっていうのにシカトかよ」


 サクに抱き起される。


「皮肉だよね。苦手なものに好かれるって言うのはさ」


 マサノリが飛び跳ねていたやつらに札を貼りつけたらしい。


 今度は一気に体中が軽くなった。


「あんまり無理するなよ! 体力だって落ちまくってんだし。おお、痛ってぇ。思いっきり蹴りやがって。まだ後ろ頭がじんじんする」


 サクとマサノリに両側から支えられ、ようやくアスファルトから立ち上がる。


「サンキュ」


 力なくつぶやいた。


 靴底は、ちゃんと地面についているのに足元がふらついて、ふわふわと宙に浮いているみたいだ。



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