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今日もモンスターと平穏に過ごします  作者: ほっこりしたい元社畜猫
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第3話【サイクロプス】

 作業服に着替えたアルデシリアがやって来るとアサトはうんうんと頷く。


「採寸はピッタリのようですね?」

「はい。この子達、スゴいですね」


 アルデシリアがそう言うと一匹のゴブリンが彼女に近付き、袖をつまむ。

 アルデシリアはそのゴブリンを見ると「どうしたんですか?」とアサトに尋ねた。


「アルデシリア嬢が気に入ったようですね?

 そう言う時はお礼を言って、頭を撫でると喜びますよ」


 アサトの言葉にアルデシリアは成る程と頷きながら袖をつまむゴブリンの背丈までしゃがんで「ありがとね?」と言って頭を撫でるとゴブリンも気持ち良さそうにアルデシリアにすり寄る。

 そんなアルデシリアを見て、アサトは感心した。


「アルデシリア嬢も仲良くなれそうですね?」

「えっ!本当ですか!」


 アサトに誉められてアルデシリアが喜びのあまり大きな声を出すとゴブリンは驚いて部屋の物陰に隠れてしまう。


「あ」


 気付いた時には時すでに遅く、再びアサトと二人っきりになってしまう。

 がっかりと肩を落とすアルデシリアにアサトは微笑むとハーブティーを飲み終えてから椅子から立ち上がる。


「今のは私が悪かったですね?

 折角の機会だったのに申し訳ありません」

「えっ!?そんな、アサト様が謝る事なんて、ありませんよ!」


 慌てて手を振るアルデシリアにアサトは近付くとその頭を撫でる。


「・・・あっ」

「貴女は頑張ってますよ。その内、この子達もわかってくれますから気を落とさずに」


 アサトはそう言うと恥ずかしそうに顔を赤らめて俯くアルデシリアから放れる。


「さて、それでは行きましょうか?」

「え?あ?行くって、どこへですか?」

「散歩ですよ」


 アサトはそう言うと家の戸を開け、アルデシリアと共に外へと出る。

 アルデシリアは散歩と言う名の見回りなのかと思ったが、アサトは特にそのような素振りもなく、村の人間達と談笑する。


 そんな風にアルデシリアが思っていると農家の老人がアサトにボロボロになったくわを手渡す。


「アサトの旦那。またお願いして構いませんか?」

「いつもご精が出ますね、翁さんも」

「カッカッカ!伊達に畑の翁なんて呼ばれちゃいませんよ!」

「調子に乗って、また腰を痛めないで下さいよ?」


 そう言うと「ふむ」とアサトは畑の翁のくわを見詰める。


「そろそろ、刃ではなく、柄を替えた方が良いのでは?」

「いや、そうしたくても、すっかり手に馴染んじまって、新しいのを使うと手応えがやっぱり、違うんですよ」

「翁さんの手に馴染んで新しいくわですか・・・ちょっと難しい注文ですが、やってみましょう」

「お願いしますよ、アサトの旦那」


 畑の翁はそう言うと「ところで」とアルデシリアに顔を向けた。


「そちらのべっぴんさんはどちら様で?どっかで見たような・・・」

「彼女はアルデシリア。この領地の娘さんだそうです」


 アサトがそう告げると畑の翁は目を丸くした。


「旦那、また女を足らし込んだんで?」

「人聞きが悪いですよ、翁さん。ただ、そう言った縁が多いだけですよ」


 アサトがそう言うとアルデシリアは頬を膨らませて彼を見る。


「アサト様は親しい女性の方が多いのですか?」

「え?ええ。そうですね。今度、ご紹介しましょう」


 不機嫌そうなアルデシリアに首を捻りながらアサトは畑の翁と別れると家には戻らず、そのまま、丘にある一件の鍛冶屋へと向かう。

 アルデシリアは「こんなところに鍛冶屋なんてあったかな?」と思いながらもアサトに尋ねる。


「ここって鍛冶屋さんですよね?」

「ええ。そうですよ」

「アサト様が魔法とかでチョチョイと直すとかではないんですね?」

「ははっ。世の中には適材適所と言うのがありますからね?

 私には翁さんの注文には答えられそうにありませんよ」


 そう言ってアサトが鍛冶屋の扉を開けると一つ目の巨人が机に座って何かを作っていた。

 アルデシリアは二度見してから鍛冶屋の中と外を何度も見る。


 一見なんの変哲もない家であったが、中はその家の中とは比べ物にならない広さとなっていた。

 その壁には大小様々な剣からアルデシリアくらいの手に収まりそうなフライパンなどがあった。


「アサト様・・・この方は?」

「ああ。彼はサイクロプスですよ」

「サイクロプス!?」


 アルデシリアが叫ぶとサイクロプスは手を止め、アサト達に気付き、のっそりとした動きで椅子から立ち上がり、彼等に近付く。そして、彼等の前でしゃがみこんでアサト達に顔を近付ける。


「やあ。今日もやっているね?」


 怯むアルデシリアとは対照的にアサトはサイクロプスに物怖じせず、それどころか親しい友人と会うように接する。


「今日はお題を持ってきたよ。これと同じ感じで手に馴染む新品のくわを頼むよ」


 アサトのその言葉に応じるようにサイクロプスは手を差し出すとその体格よりも小さいくわをジッと見詰め、巨大な机の前に座り、大きなルーペでくわを拡大し詳しく調べ出す。


「サイクロプスは元々は神々の武器を作る職人だったんです。

 彼等が人間を襲うのは頭を使う事がなくなってしまったからですね」

「ーーと言う事は悪いモンスターだったんですね?」

「みんながみんな、悪い訳ではありませんよ。そこは人間と同じです。

 それと彼等が人間を襲うのは人間に興味があるからですよ」


 アサトはそう告げるとピンセットで器用にくわの柄と刃を解体するサイクロプスを見る。


「実はサイクロプスは彼のように知的欲求で人間を観察するものなんです。

 私達が昆虫や動物を観察するのと同じようにサイクロプスも私達の事を観察して知恵を巡らせるのが好きなんです。

 因みに彼の趣味はミニチュアサイズのアンティーク作りですね」


 アサトがアルデシリアにサイクロプスについて説明するとサイクロプスは此方に顔を向け、人差し指を出す。


「今回は一時間くらいかい?」


 その問いにサイクロプスは首を左右に振るのでアサトは「じゃあ」と言葉を続ける。


「一日の間違えかな?」


 サイクロプスが頷くとアサトは「解ったよ。あとはよろしく」と言って鍛冶屋の扉を開け、作業に没頭するサイクロプスを見上げるアルデシリアの背中を押して鍛冶屋を後にする。

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