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G線上のアリア

入学式を終え、生徒一同は高校棟の教室に移動する。

私のクラスは1年5組。

5組は、内部進学生が5割、外部進学生が5割となっており、つまり半分が初めましてのメンツだ。


入学式が無事終わった安堵感で満ちた教室に、

若い男の声が響く。


「みんな、席に着いたかー?」


担任の先生だ。

賑やかだった教室は静かになり、皆が教卓に視線を移す。


「えー、入学式、お疲れ様でした!

皆とっても良い返事で良かったぞー」


高校生でも何でも、返事を褒められると素直に嬉しくなるタイプの

私は少しフフンと笑った。

この先生が褒めてくれる時は、本当に良かったと思ってくれている

時だと分かっているので、尚更嬉しく感じるのだ。


「えーじゃあ、改めて自己紹介していきますねー

俺の名前は……。」


白いチョークを握り、カツカツと音を立てて黒板に名前を書く。


(おかだよしひこ)

「「岡田義彦」、と言います。みんなにはヨッシーって

呼ばれてます。

まあ好きに呼んでください!

担当の授業はプログラミングと電子回路。

部活動は、中高の吹奏楽を担当していまーす。」


そう。

5組のら担任・ヨッシーは、我らが吹奏楽部の顧問なのだ。

中学から吹奏楽をやっている私は、これで4年目の付き合いとなる。


「まあ、これから1年仲良くしてくださーい。

っと……いう気持ちを込めて、1曲吹かせて貰ってもいいかな?」


ヨッシーはそう言うと、華奢な身体をかがめて、

黒い四角のケースを開ける。


そこから取り出したのは、金ぴかのトランペットだ。


「えー、実は私、個人的にトランペットを吹いてるんですね。

今日は1曲、あんまり上手くはないですけど、

吹きますので。」


ヨッシーは1度楽器を構えたあと、

一旦口元から楽器を離し、

下唇を1度舐めてブルルルル、と振動させた。


「……聴いてください。」


斜め下を向いて息を吸うと、Eの音のロングトーンで曲は始まった。

暖かい音。

8拍ほど伸びたその音が次の音階を辿り、

ああ、G線上のアリアか、と分かった。

調は原曲のそれと違っているが、

クラス一同も、

聞いた事のあるその曲に、真剣に聞き入る。


(なんか、卒業式のイメージが強いけどなあ……。

これ、どういう背景の曲なんだろ、

バッハなんだっけ?違うんだっけ……?)


そんな考えごとをしているうちに、

気がつくと曲は終わってしまっていて、パチパチと拍手する音が耳に入った。

私もまた慌てて、2、3回手を合わせるのだった。


「改めて、1年間、よろしくお願いします!」



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