よろこびへ歩き出せ
高校、入学式。
真新しい制服に身を包み、見慣れない体育館に
緊張した面持ちで入場する新入生。
と、また別に、
着慣れたブレザーを身にまとい、よく見知った体育館を、よく聞き慣れた曲で入場する、少し気恥しい心持ちの内部進学生。
この物語の舞台となる青山高校は、青山中学校の生徒と同じ校舎で6年間を過ごす、
いわゆる中高一貫校だ。
(♪タッタン、タラタッター。)
よく見知った体育館に入場する側の生徒、
つまるところ中学からそのままエスカレーターでこの高校に進学した私は、
何度と吹いたことのあるこの行進曲に、心を踊らせながら歩いていた。
行進曲「よろこびへ歩き出せ」。
金管の低音で幕を明け、木管の連符とあいまって
高らかにオープニングを飾るこの行進曲は、
吹奏楽部がここ数年ずっと入学式で演奏している定番曲だ。
私はこの曲の、木管(フルート、クラリネット、サックス)での音階が掛け合うようなメロディーが好きだ。譜面の上で音符が山を描くように、フレーズも小さな弧を描きながら、小節を通して大きな山なりに盛り上がるところに、自分の心も舞い上がるのを感じるのだ。
靴は新品に買い換えたので、全く新しい白靴で、
体育館の照明が反射する床をキュッキュと音を立てながら歩く。
白靴のその軽やかさを、クラリネットの、
厳かなようでテンポ感の良いメロディーが弾ませてくれる。
ああ、
なんて爽やか。
思わず右手で拍を取りそうになりながら、
(このまま歩き続けたい!)
そう思っていても、
自分が座る席に到着してしまう。
最後の一人が入場し終わり、演奏が止まる。
「ただ今より、平成25年度、
青山中学校、高等学校、入学式を挙行致します。」
今日から高校生。
部活はもちろん吹奏楽部。
中1の春に始めたクラリネットは、中学3年間でそこそこ吹けるようになった。
入部したての頃はあまり上手く吹けず、
部活もそれなりに適当にこなしていたが、今は
そんな日々を悔やんでいる。
(高校3年間では、どれくらい色んな曲を吹けるかな……。)
「新入生、点呼。
高等学校1年1組。浅井、井上、大久保、
ー……。」
中学の頃はあまり好きじゃなかったマーチも高校ではもりもり吹きたいし、
コンクールの自由曲で吹くような、ドロドロした
曲も沢山吹きたい。
ずっと憧れていたシングのソロも、引退までには吹いてみたい。
「佐藤、佐藤、柴田、
……。」
自分の点呼が近づき、姿勢をただし息を吸う。
(すずむらあき)
「鈴村彩紀。」
「はいっ!」
自分でも納得のいく返事とともに、
高校での吹奏楽生活へと向け、
背筋を伸ばしピシッと立ち上がった。