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マイルを利用

僕は突然手に入れた免罪符により、仕事の悩みやストレスから逃れると同時に時間というものを得た。


時間は僕に考える間を与えた。



ひとまず、京都の部屋で2ヶ月閉じこもることは避けたかったが、体が言うことを聞かない。

真っ黒いものに包まれながら深淵を覗き込んでいる。

誰にも会えないし、何にも出来ない。。


手を伸ばせば死に触れることも出来た。




それでも、やっと1週間たった頃からご飯のことや髭を剃るということを考えられるようになった。


物事が少しずつ考えられるようになり始め、そこでふと思いついたことは飛行機のマイルが溜まっていること。



日本の端っこ。

石垣島。

なぜか、どうしてもそこに行きたくなった。


端の端まで逃げたい。



チケットはマイルを使って予約完了。

宿泊先を探していると、ふと目に止まった場所があった。


『ゲストハウス いこい

カプセルホテルのような寝床のタイプと個室部屋タイプのチョイスがある。

リビング、シャワー、トイレは共有とのこと。

建物も清潔っぽい。

一軒家の庭さきで過去に行われた宿泊者のバーベキューパーティーの様子の写真や、縁側でビールを持っている人たちの写真。

ギターを持っている人やダイビングの写真。



ここに決めた。

とりあえず次のクリニックの診察日までの1週間。カプセルタイプで。



出発は明日。明日の夜には石垣島だ。



リュックには数枚の下着とシャツ。

あとは現地で全部買う。


飛行機に乗るのは北海道以来だが、今回ははるか南へ。

僕のことを誰も知らない島へ。



石垣島へ向けた飛行機の機内でビールを久しぶりに飲んだ。

最後にビールを飲んだのはいつだか思い出せず、ずっと昔のことのように感じた。




石垣空港は快晴で、目がくらむほど明るい太陽の日差しが僕に降り注ぐ。

今まで暗いところに居たからな。



ゲストハウスから迎えの車が来てくれているはずだ。


僕の名前が書いてある紙を掲げている若い男女が見えた。

二人はちょうど僕と同じぐらいの年ごろで、女性の方は長い髪を頭の上でおだんごに結んでいて、ノースリーブの黄色い花柄ワンピースを着ている。

化粧はしていないが、瞳のおおきな明るい笑顔で挨拶してくれた。

男性の方は髭を生やした平たい顔に半パンに紺のTシャツ姿。

さっき起きたばかりです、という感じだ。


彼らはゲストハウスのオーナー夫婦で、石垣で出会って石垣で結婚したらしい。


ゲストハウスの名前が書いてある白いワゴンはところどころがサビて茶色になっているが、それがまた島っぽくて味がある。

そのワゴンに乗り、ゲストハウスに向かう。

近くの商店や、スーパーの場所を説明してくれながら、現在宿泊している人たちのことも少し教えてくれた。

どうやら長期滞在者が3人。そして短期ステイが3人いるということだ。


長期滞在者はゲストハウスのオープン当初から4年住んでいる『長老』。

島のサトウキビ農園で働いている『島さん』

ギターが好きだけど1年間練習しても上達してない『アーティス』


みんなの過去はよく知らないけれど、仲良く一緒に暮らしてるらしい。



そんな話を聞いていると、平屋建てで明るい茶色い屋根瓦の家の前にワゴンが止まった。

10坪ほどの庭のある可愛らしい宿だ。

建物の中のそれぞれの場所の説明とシャワーの利用ルールやテレビの見れる時間帯などについて一通りの説明を受けた。



僕の寝床はカプセル型の2段目部分。

1つのカプセルの大きさは人一人が寝るには十分だが、立ち上がることは出来ない。

座っても首を曲げなければいけない。

カプセルというか穴ぐらに潜り込む感覚だ。


布団が敷いてあるのだが、寝っころがってみると薄くて痛い。

掛け布団としてだろう、オレンジ色の大きめのバスタオルが綺麗に畳んで枕の横に置いてあった。

穴ぐらというか棺おけというか、変な空間だがなぜか妙に落ち着く空間だ。



オーナー夫婦によると今はみんな仕事や散歩で外に出ていて、いつも夕方ごろにリビングにふらふらと現れるらしい。



そうか、ちょうどいいや。

まだ夕方までは時間がある。


少し寝よう。



こうして僕の石垣島での滞在が始まった。


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