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彼女の顔と匂いにとても心が落ちついた。

いつも僕の光であってくれる。


大丈夫。彼女といればこの先も大丈夫。




まだ、会社の休みは3日ある。

その間、ずっと彼女と一緒に居たかったが、できないらしい。

今日は泊まって行くけど、明日は彼氏との予定があるらしい。。


はて?

彼氏?

予定?

予約制?


あ、シェア?



僕は彼女を誰か知らない男の人と『フェアにシェア』している。




ひとまず、このシェア問題はいったん横に置いておくという現時点では最善とされる解決策を選び、この2日間はこの人が好きだという感情を優先して考えるようにした。




堀川通りに何度か一人で晩御飯を食べに寄ったことのあるおばんざいの並ぶお店がある。

その6席ほどのカウンターだけの雰囲気の良い小さな和食屋の一番奥の席に座り、彼女と夕食を食べながら、離婚が成立した後、僕や彼女や妻はどうなるのかを相談していた。

ふと目線を上げると、興味深そうに話を聞いていた店の大将と目が合った。

40代半ばの小柄な男性だが、紺の小判帽をかぶり、少し髭をたくわえた彫りの深い顔はこだわりを持つ職人気質を感じさせる男だった。


僕たち二人の会話が気になるのかチラチラこちらに視線を送っている。


「あの~、ちょっと聞こえてしもたんで、あれですけど、、駆け落ちの話です?」

と、大将に聞かれ、

「駆け落ちって、いゃ~ どうなんでしょう。。」

と、返答に戸惑う僕の横から彼女が


「駆け落ちじゃないです。シェアです!」と答えた。



『 シェア!!?』


バッチリ大将と同じタイミングでハモッた。



(おいおい、今出るか!?そのテーマ!)



彼女の顔を見ていた大将がハッ!と僕を見る。


僕も大将を見る。


そしてまた、二人の視線は彼女に戻る。


「私は自分の時間の使い方は自分で決めます。」

「会いたい人と会いますし、行きたいところに行きます。」

「今、この人は自分のことに一生懸命で、私のことをちゃんと見る余裕がありません。なので、シェアしています。」



僕と大将は彼女の言葉に再度顔を見合わせ、ゴクッとつばを飲み込んだ。



「そ、そうか、シェア、、なんだね~。。」

そう言いながら、大将の視線が遠くなる。



僕はしばらく、次の言葉が見つからなかった。


頭の中には静かにジュディ・オングの『 魅せられて 』が寄せては返す波のように何度も流れている。





そんな、自分の考え方と意思のある強い彼女が大好きな訳だが、この言葉は男として心にズシッと刺さった。


彼女に僕の自分勝手で甘い考えや優柔不断さも全部見透かされているのだ。


恥ずかしいほど自己中心的な男。

妻も彼女も満たしてあげることが出来ない男。


その時はそんな考えが頭をめぐっていた。




それでも、そんな時の僕でも一緒に居ようとしてくれていた彼女は、本当に僕のことを愛していてくれたのだと何年も経ってから気付いたのだが。





翌日、彼女が彼氏の元に向かってから、僕の頭は深い霧のようなものに包まれた。

もやもや状態に入り、そして徐々に近づいてくる出勤日に更なる恐怖を感じていた。



妻は今もまだ泣いているんだろうか。

なんてことをしてしまったんだ。


彼女は今頃、他の男と一緒のベッドで寝ているんだろうか。

あの笑顔や身体は僕と居る時と違うのだろうか。


休み前に残した数字は消えない。

また、怒られる。

仕事が出来ないヤツだと言われる。

お客さんにはもう無理なこと言いたくない。

怖い。




もう、なにも考えたくないし、なにもしたくなかった。


なんか、全部ダメ。



全部ダメ。だった。


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