思考停止
朝、いつもと同じ6時半に目が覚めた。
隣には妻が寝ていて、小さなベッドから落ちそうなのでこっちに引き寄せる。
「早いね」
「まぁいつもこの時間だから身体が勝手にな」
少し間をおいて妻が尋ねる。
「昨日のこと。。。」
「そうね。ちゃんとしなきゃね」と僕は答える。
「あの人のこと、好きなの?」
「うーん。。彼氏が出来たらしい。。でも、大好きだったし、今も彼女のことが好きだと思う。」
フイな質問に素直に僕は答えた。
「じゃぁ、彼女と結婚するの?」
「それは分からないけど、少し」
「そっかぁ、、、分かった。じゃ、帰ろっか」
なんか、とてもあっさりしていて、これが離婚が決まったということなのかな?と、少し第三者的に感じていた。
予定を早めて空港に向かい、それぞれ福岡と伊丹空港行きの航空券を買う。
たまたま、それぞれの便の出発時刻は近い時間だったので、二人は空港でしばらく出発までの時間をつぶした。
そこに二人の会話はなく、時間だけがただ過ぎた。
「また、連絡するね」という妻の顔は昨晩の涙のせいで、目がはれていて化粧も下地だけだった。
何か返事をしたいのだけれど、口も頭も動かない。
言葉が出ない。
妻と分かれた後すぐに、僕は強烈な吐き気に襲われトイレに駆け込んだ。
身体の震えが止まらなかった。
間違えたのか?
たぶん、間違えた。
どうしたら良かった?
どうにもならなかったんじゃないか?
もうこれが最後?
結婚生活4年?
え?両親には?
え?離婚届とか送られてくるのか?
旅行は間違いだった?
ダブルベッドが正解?
どうなるんだ僕は。。
どうしたかったんだ僕は。。。
あ、あ、そうだ、、連絡を、、しなければ。
空港のトイレで錯乱し、震えながら『妻と離婚することなったと思う』とメッセージを彼女に送った。
すぐに返信が来る。
彼女:「え?ほんとですか?」
僕:「うん。。」
彼女:「今、どこですか?」
僕:「京都の近く」
彼女:「いまから京都に行きます」
僕:「え? 今、どこなの?」
彼女:「今、福岡です。今から新幹線で向かいます!」
ん? ちょ、ちょっ、まって。まって。
新千歳空港から伊丹空港まで約2時間。。
そっからバスで京都まで1時間。
出発まではあと40分。。
一方、博多駅から京都駅まで新幹線で2時間40分。
だめだ!間に合わん!
僕:「ちょっと、ゆっくり来て」
彼女:「ゆっくりって、、、じゃあ、準備して夜までに行きます」
僕:「ありがと。京都駅に着く時間が分かったらまた、連絡してね」
ふぅ~。。。。
なんか耐えた。
なぜか身体の震えが止まっていた。
別に北海道に来たことを隠さなくても良かったような気はするが、まぁ、良かった。
よし、予定が決まった。
彼女に会える。
よし、よし。大丈夫。
なんとかなる。
移動中の飛行機とバスの中で発作のように吐き気と震えは繰り返すものの、なんとか京都の家に僕はたどり着いた。