天使
朝がやってきた。
昨晩は色んなことを考えてしまい、なかなか眠ることが出来なかった。
フミちゃんが身支度を終えて、飛行機の時間をリビングで待っている。
やはり可愛い。まるで朝日を浴びる天使のようだ。
僕は昨日、あの天使を後ろからギュッと抱きしめたのだ。。。
(はっ! いかんいかん。)
昨日の出来事は幻なのだと自分に言い聞かせる。
「カズ君、おはよ!」
「うん。。もう、行くの?」
「そろそろね~。 オーナーさんが空港まで送ってくれるって。」
「そっかぁ。。 朝ごはん、食べたの?」
「空港でなんか食べるよ」
「そう。」
言葉に詰まる。
いや、最後にこんな会話がしたいんじゃない。
もっと一緒に色んな話しをしたかった。
もっと一緒に色んなところに行きたかった。
もっと一緒に居て欲しかった。
フミちゃんと一緒に居るだけで、元気が出てきた。
フミちゃんが正しい道に導いてくれるような気がしていた。
オーナーの車の音が聞こえてくる。
「オーナー戻って来たみたい。 カズ君、ありがとね!いろいろ。」
「いや、別に、なにも。。」
「カズ君あんまり自分のこと人に言わないけど、誰も君を責めないよ。一生懸命がんばってきたんだから。」
「え?」
「自信もってね! カズ君、かっこいいんだから」
「え? いや、、あ、ありがと。」
「じゃ~、、またね!」とフミちゃんが自分の荷物を持ち上げる。
いや、ちょっと、まって。 まだ、、、
まだ、言いたいことがある。
フミちゃんに伝えたいことがある!
「フミちゃん!」
「おれ、フミちゃんのこと好きだよ! 短い間だったけど、すごく感謝してる。本当にありがとう。」
フミちゃんがこっちを見てにこっ微笑む。
「わたしも好きだよ、カズ君のこと。」
「ほらねっ!自信持って自分の気持ちを伝えれば、カズ君はかっこいいんだから」
車に乗るフミちゃんに手を振りながら、僕は涙が溢れだした。
最後の最後までフミちゃんは僕に前向きさを教えてくれる。
自分に向き合う勇気を教えてくれる。
涙は止められなかった。
フミちゃんはたった3日間で真っ暗闇の穴ぐらに潜っていた僕を引っ張り出して、島のカラフルな色を見せてくれた。
宿泊者やオーナーさんとの会話のチャンスを作ってくれた。
規則正しい生活に戻してくれて、僕の問題にも解決の糸口を教えてくれた。
そして、自信を持つこと。勇気を持つことを教えてくれた。
感謝の言葉だけでは言い表わせない。
僕が石垣島に来たのはフミちゃんに出会うためだったと確信していた。
今からはフミちゃんの言ったことを、教えてくれたことを守ろう。
僕はそう心に決めた。
フミちゃんの突然の帰郷は他のゲストハウスメンバーにもショックなことだった。
島さんとアーティスと僕の3人で夕食を食べていると、フミちゃんの帰郷の理由を当てようという話になった。
3人の中で一番よくフミちゃんと話していた僕はある程度、理由を知っていたのだが、他の2人は色々な理由を想像していた。
まずは、僕とケンカした。
もしくは僕が手を出して、フミちゃんが逃げた。
マットレスの寝心地が悪かった。(フミちゃんは寝てない)
長老のカミングアウトが衝撃過ぎた。
島さんの密造酒を密告しに帰った。
アーティスのフミちゃんへの視線がいやらしかった。
などなど。
最終的には男3人で、さながら反省会のようになってしまった。
明日からはまた一人だ。
でも、もう大丈夫!前を向いて、立ち向かう!
僕の大切な人たちに。僕の人生に。正直に。
フミちゃんに『僕』の続きを聞かせてあげるんだ!




