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花火



長老のカミングアウトから一夜明けても、ゲストハウスに何やら不思議な緊張感が依然として漂っている。



もちろん人によって捉え方は色々あると思うが、世界中には性別に違和感を感じて生きている人はいるだろうし、それが大きな心のストレスになっている人もいるだろう。


僕が妻や彼女や子供や仕事のことで悩んでいるのと、同じことだと思う。


悩みは人それぞれで、それでいいと思う。



長老は性別とかの悩みを完全に克服しており、恥ずかしいことでも何でもなくて、自分の中の普通のことなのだろう。

他の人の自分への反応が怖くて悩むよりも、正直に自分を伝え、自分を理解してくれる人と一緒にいればいいのだ。


とても、長老のことを偉大に感じた。


もっと長老と話してみたいと思った。



昨日、飲んでしまい車を返せなかったので、車をレンタカー屋さんに返しに行った。

事前に電話を入れていたので、延滞料金は掛かったがそれで大丈夫だった。



歩いてゲストハウスに戻っている時にあの彼女から電話が掛かってきた。


「今、どこにいるんですか!? メールも返してくれないし、心配してます!」

「ごめんごめん。あの~、今、石垣島にいるよ」

「え? 石垣島? 何でですか?」

「う~ん。。 勘かな」

「もぉ。。どうですか?体調は?薬はちゃんと飲んでるんですか?」

(クリニックの先生みたいだな。)

「ゲストハウスにいるんだけど、面白い人たちに出会ってね、なんか来て良かったと思ってる」

「そうですか。。でも、心配してるんで、ちゃんとメールには答えてくださいね!」

「わかった。ごめんね。心配してくれてありがとう。」



僕は幸せものだな。

心配してくれる人がいて。

彼女も僕と妻の間に子供が出来たと聞いて辛かっただろうに。



彼女のためにも、生まれてくる子供のためにも、色々なことにいつかちゃんとケジメを付けなきゃ。




ゲストハウスに戻るとフミちゃんが縁側のところに座っていて、誰かと電話している。

いつもの笑顔じゃない。なんとなく雰囲気が重い。



静かに横を通り過ぎ、ひとまず自分の寝床に戻った。

聞こうと思った訳ではないが、電話の内容がところどころ聞こえてくる。


「そうじゃないって!!」

「そんなの勝手すぎるよ。」

「わたし、どうしたらいいの」

「できないよ。もう。」

「なら、わたしここで死んじゃうから」


(おいおい、穏やかじゃないぞ)


次第に電話の声は泣き声に変わり、電話は途切れた。



恐らく、結婚寸前で別れることになった彼との話だろう。


まったく、あのフミちゃんを泣かすとは、なんという男だ。けしからん。




ひとまず空気を読んで寝床に入ったのだが、まだフミちゃんが縁側で泣いるので、出るに出れない。

声をかけていいのか分からないので、そのまま空気を読みながら寝床でフミちゃんの次の動きを待った。



しばらくして、フミちゃんの泣き声がなくなり、

「ふぅ~~!」っと大きく息を吐く音が聞こえた。


「カズ君! 起きてる?」

(はっ!呼ばれた)

「は、はい!」

「焼肉いくよ!」

「はい!」

「その前にこっちに来て!」

急いで寝床から這い出し、フミちゃんの元へ


「後ろからギュッてして」

(なっ!なんですと?)


少し、腕のまわし方や足の置き場に戸惑い、後ろから彼女をぎこちなく抱きしめた。


「もっとギュッと」


フミちゃんの後ろ髪に顔がうずまり、いい匂いがした。

肌が柔らかくて、ずっとこうしてあげたいと思った。



「だれか、戻って来るかも」と僕が尋ねると、

「いいの。戻ってきても。 このままにしてて。。」と静かに答えた。



ドクン!と心臓の音がした。




やばいやばいやばいやばい。


これは、このまま突っ走ってしまうパターンのヤツ!!!


解決してない僕の諸問題に更に新たなる問題を迎えることになってしまう。


だが、このドキドキは、このドキドキは。。あぁ~~~。。




「カ、カズ君、、ちょっと痛い、、」

(はっ!)

「ごめん。」

「抱きしめてくれてありがと。落ち着いた。」

体を離し、二人が立ち上がる。


「また、わたしが困ったらギュッと抱きしめてね。」

「うん。」

「ありがと。カズ君」

振り返ったフミちゃんの目は赤く、泣いたあとの鼻声がいつもの明るい声とは違い、なんともいえない色気を感じた。




二人は前回と同じ焼肉屋さんで前回と同じ特選シリーズを頼んだ。

頼んだお肉が来る頃には、いつものフミちゃんの笑顔に戻っていて美味しいお肉をビールと一緒に流し込む。

これから僕とフミちゃんはどんどん距離が近づくのかな。なんてことを考えていると、


「カズ君、急だけどわたし、明日帰るね。」

(はい? なんですと?)

「え? 帰る? 新潟に?」

「うん、決着をつけなきゃいけないことがあるの」

「う~んと。。さ、さっきの、、電話の?」

「そう。電話の。」


突然のフミちゃんからの言葉に動揺し、さっきまでギュッと抱きしめていたことが幻のようだ。


「え? フミちゃん、また、石垣に、ここに戻って来るの?」

「分かんない。カズ君はしばらくここに居るの?」

「まだ、はっきり決めてないけど。もうしばらくは居るかな。」

「そっか。。 わたしももう少し居たかったなぁ」

「うん。」

「そういえば、カズ君、『僕』の話の続きが出来たら知らせてね。」

「あ、うん。」

「わたしは『僕』を応援してるよ!」



フミちゃん、、、あんたって人は。

自分も悩みでいっぱいなはずなのに、僕のことまで気にかけて。

しかも、笑顔で。



もうお肉が喉を通りません。。



恋は花火のように一瞬で散り、明日フミちゃんは居なくなる。。





その帰り道に初めてフミちゃんと連絡先を交換し、また連絡すると約束した。




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