フミちゃんとカズ君
穴ぐらの生活が続き、もうすぐ1週間が経とうとしていた。
石垣島初日こそ長老たちと少し話したが、それ以外は起きる時間がばらばらだったり、人に会いたくなかったり、、結局、外にもほとんど出ないまま、ひたすら穴の中に籠っていた。
明日、ゲストハウスをチェックアウトして、京都に戻らなきゃいけない。
そう考えると気が思く、京都に戻る意味を考えていた。
クリニックに行って、先生の話を聞いて、薬をもらう。
その後は自分の部屋にまた籠る。
そしてまた2週間経って先生に会いにいく。。
京都の自分の部屋に戻ることは、現実と向き合うということで、とても怖く感じ、行ってはいけない場所だと感じた。
彼女のこと、妻のこと、子供のこと、仕事のこと、僕の未来のこと、、これらの現実を考えることは、僕にとって恐怖でしかなかった。
クリニックの営業時間中であることを確認し、クリニックに電話をかけた。
先生に電話を繋いでもらう。
「もしもし、先生、僕、、今、実家に帰っているので、明日京都に行けません」
「そうですか。体調はいかがですか?まだ、お薬はありますか?」
「体調はあまりよくありませんが、薬はまだ残っています。飲んだり飲まなかったりなので。」
「そうですか。できるだけ朝起きて、夜寝るようにしてみてくださいね。」
「はい。」
おぉ~そうか。よかった。京都、行かなくてもいい。
そして、『朝起きて夜寝る』ということをするんだ。
ゲストハウスのオーナーには1週間の延長を告げた。
オーナーはいつも寝床に籠っている僕を訝しげな顔で見つめ、一週間分の延泊料金を受け取った。
次の1週間は規則正しい生活をするという目標ができた。
僕が籠っている間に何組かの新しい宿泊者が来て、また帰っていった。
だいたい2,3人のグループで2泊3日の旅程が多いようだ。
だが、昨日の夕方に来た新しい宿泊者は珍しく、どうやら女性一人で来ている。
その、1週間の延長を決めた日の夕方、ちょうどリビングでその女性とタイミングが合ったので、新しく来たその女性と挨拶を交わした。
話をしてみると、とても話がおもしろく、明るい女性だった。
名前はフミちゃん。色白で、ぱっちり二重。髪は明るめの色で肩より少し長い。
初めて石垣島に来たということだ。
フミちゃんは新潟出身。 結婚を考えていた相手にフラれ、仕事も辞めて、一人でゆっくりしたくなったらしい。
いつまで石垣島にいるかは決めておらず、お金が底をついたら帰ろうと思っている。
話の間の取り方や相づちのタイミングが絶妙で、話の間中ニコニコしている。
僕の名前をフミちゃんは『カズ君』と呼んだ。
この島のゲストハウスの人たちは苗字で名前を呼んだりすることはなく、ニックネームや下の名前で呼んでいる。
ちなみに、『カズ君』はフミちゃんの初恋の人の名前らしい。
初恋の人に僕の顔や雰囲気が似ていて、初めて会った時は本当に初恋の人にまた出会ったと思ったらしい。
ちなみに、僕の本当の名前には全く『カズ』の文字はない。
「カズ君、なんか美味しいもの食べに行かない?どっかいいとこ知らない?」
「そうだな。。(ずっと穴の中に居たから、全然わからん。。。)」
「わたし、結構お腹すいてるから、何でも大丈夫よ!」
「う~ん。。 ぃ、石垣牛とか、、?どう?」
「にくぅ~~~!! いいねぇ!いこいこ!お店はどこ?歩いていける?」
「そうね、Google先生に聞いてみます。」
「はやく、はやく~! 私もう、よだれ出始めてるからね!」
「お、おぅ。」
幸い、歩いて行ける距離に石垣牛を提供している焼肉屋さんがあるようだ。
「よし、ここ行ってみようか?」
「わーい!!わたし走っちゃうから!」
「走るの? え、、じゃ、フミちゃん先に着いたら席の確保頼む」
「一緒に走るの!! ほら、行くよ! この走りがお肉の旨みを更に引き出すのだ!!」
すごい。フミちゃんといると楽しい。
折角なので石垣牛の特選シリーズを注文し、一緒に焼く。
「すごーい! めっちゃいいにおい! よだれが津波だわ」
(お、おう。。)
「カズ君、焼けた?食べていい?」
「うん、いいよ。どうぞ。」
まずは特選カルビ。
「はぁ~~~ん! 美味しい。」
「わたしが思うに、もうこれは肉じゃないね。肉という名の愛だわ。私は愛を頂いてます。」
(フ、フミちゃん、、、。)
二人ともお腹いっぱいになるまで食べた。
久しぶりにちゃんとした食事を頂いた。しかも一人じゃない。
フミちゃんが明日の僕の予定を聞いてきたが、何も決めていないというか、することはない。
「明日さぁ、石垣島、一周の旅しない?色々綺麗なスポットがあるみたいだよ!」
「へぇ~そうなんだぁ。いいけど。」
「おっけー!決まり!明日はレンタカーを借りて、、そうだな、9時出発ね!」
「うん、分かった。(僕が借りるってことだよね?)」
「今から明日行きたいとこピックアップするから、順番はカズ君決めてね。」
「うん、分かった。(僕が運転ってことね)」
「わたしは朝が苦手だから、8時に起こしてね」
「うん。分かった。(おっしゃる通りに致します)」
フミちゃんのペースで進む感じが楽しくて、カズ君って呼ばれるのも僕とは別人の名前を呼ばれているようで新鮮だった。
『カズ君』はフミちゃんの為に、明日から頑張ります!




