始まりの声
よろしく!
4月の夕日が電線越しに見える駅のホームに僕は一人帰るための電車を待っていた。今は学生の下校時間だからホームは騒がしくいろんな音で溢れていた。男子高校生らが友達とスマホゲームのマルチに行く話だったり、女子高校生らの好きな俳優の話だったりそんな他愛もないような話が飛び交う中、1つ特別な声がした。僕はその声を聞き逃さなかった。声の方向から声の主を辿ると君がいて、友達と楽しそうに話しているのが見えた。その笑顔にしまったっと思ったけど遅かった。自分の胸が痛く締め付けられるようなのを感じたその時には。
これが僕と君の、いや僕の一方通行すぎる出会いだった。
あの日からもう何日も経つ。しかしあれからの進展は何も無し。一人悶々と日々を消化していた。(はぁ、電車で見かけただけなのにどうしてこんなに…)
最初は見るだけでいいと思った。見ているだけでこの世のどんな薬よりも癒されるような気がして毎朝電車で会うそれだけなのに心が重力を忘れて、降りる時には今日も一日頑張るぞとあの笑顔を思い出し少し顔がほころんだ。しかしいつしかそれだけでは満たされなくなってしまった。話かけようと何度も思ったがやっぱり駄目。制服で同じ学校だと分かって、次こそはと思ったがそれでも届かなかった。
はぁどうすればと思った時に転機が訪れた。
いつもより学校が早く終わり、僕はそれに合わせた早い電車に乗ることになった。僕らの学校だけ早い下校だからか電車の中はがらんとしていて偶然一緒になった君の向かい側に僕は座ることにした。1つ駅を通過してテーマパーク前の駅に着くと奇妙な人達が乗ってきた。彼らは高校生ぐらいの容姿で髪は金髪や茶髪、服は派手さとブランドを散りばめたようなファッションだった。今まで電車に乗っていた人達からすれば明らかに異分子だが、それらが騒がしいのも気にもせずただ巻き込まれないようにその奇妙な人達から離れていった。電車がもうそろそろ次の駅に着くという頃、そのグループの1人が立ち上がり君に近づいて行った。「ねぇねぇ、LINE交換しない?」 別に軽蔑する訳では無いがいかにも偏差値の低そうな誘い文句だった。君は嫌そうに顔を顰め断り続けた。すると奥のメンバーの笑い声に焦りを感じたのか男が君の手を掴んだ。
その時、僕の中で何かが吹っ切れた。僕はすかさず財布から札を抜き取り空中で舞わせた。そして落ちたと同時に男に声をかけ振り向かせた。「これ、落ちましたよ」男は目の前に出された見覚えのない金に戸惑っていたがまるで自分のかのように装った。僕はそれを拾い上げ再度男の手の上で札を舞わせた。すると男は空中で舞っている1000円札に気を取られ君の手を離してしまった。この瞬間を僕は逃がさなかった。予定したタイミング通りに電車のドアが開くと、僕は君の手を引いて駅に降りた。
次回お楽しみに!