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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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カナメの提案

「世界の守護者……たしかそれは始まりの四聖竜のことだよな?」


 たった今テミアリスが話していたことだ。


「ええ。そして神様が人間に求め続けていた役割。悠久の年月を経て進化した人間は、ついにその役目を担うだけの力を手にしたのです。神様はカナメさんが四聖竜を倒したことでそう確信されました」


 カナメは一度下を向き、自分のひざに目を落とした。

 それは周りからは悩んでいるように見えたかもしれない。あるいはプレッシャーに押しつぶされているように、とか。

 だがカナメは違った。

 顔を上げたカナメは不敵な笑みを浮かべて言う。


「ずいぶん勝手な話だな。今まで神の意向でけしかけられたモンスターが、どれだけの人々を苦しめたと思っている? どれほどの悲劇が繰り返されたと」


 逃げ惑う背中を無残に爪で引き裂かれる農夫、恐怖に怯え抱き合ったまま食われた兄妹、赤子を抱いたまま首を跳ね飛ばされた母親。そんな光景は当たり前のように繰り返されている。

 カナメが見てきただけでもいくつもいくつも、それは思い出された。

 世界中の力なき人々は、カナメが見てきた以上の地獄の中で今も暮らしているのだ。


「それは……」


 テミアリスの眉が悲し気に寄せられる。


「そんな理不尽な神のために世界の守護者なんていう大層な役目を負ってやる義理はない。言っておくが俺の【大守護】は俺が心から大事に思っている人間にしか発動しない。それは俺の意思とは無関係だ。人類全体を守るようにはできていない。ましてや世界だなどと――」

「そんなっ! 勝手なっ!!」


 メイリーが腰を浮かせかけた。


「勝手か。ならばお前がその任を受ければいいだろう。【無限】は最強のスキル、そうだろう?」


 メイリーはギリギリと握った拳を震わせたが、やがてあきらめたように力なく首を振った。


「いや、私の【無限】では役不足だ。悔しいけど、絶対に【大守護】にはおよばない」

「そうか? あのときは俺を上回ったはずだが」


 カナメはからかうでもなく自然な調子で聞いた。


「いいや。お前がその気なら【無限】がそこまで高まる前に私の首を跳ねることは可能なはずだ。今まで私は誰が相手でも一瞬で上回り、圧倒することができた。しかしお前の【大守護】は違う。桁が違いすぎる。【無限】が力で上回るには時間がかかってしまう。それは致命的な隙だ」

「惜しいところまではいってた気がするけどな」


 カナメの言葉に気遣いを感じたのか、メイリーはカナメを見て苦笑いを浮かべた。


「その差が大きいんだ」


 カナメは間を置くように一度天井を見てから、ソファーの背にぼふんと体を沈める。


「それにな……俺は今の生活に満足しているんだ。小さなギルドのマスターをして、仲間たちと楽しく暮らす。それだけで十分なんだ。……この世界は多くを望むには広すぎ、人々の悲しみは両手で拾い上げるにはあまりにも多い。その世界の守護者とやらになったとして、彼らの悲しみをすべて消してやることなどできやしないだろう。もしできるのなら始まりの四聖竜がすでにやっている。違うか?」


 世界の守護者は世界を守る者であり、人類を守る者ではない。それはテミアリスから聞かされた歴史が教えていた。


「どうしても……受けてはいただけませんか?」


 悲し気なテミアリスを見るとなんとかしてやりたいという気持ちがカナメの中に芽生える。

 再び体を起こして訊く。


「世界の守護者って……具体的にはなにをするんだ? みんなと離れ離れにされて、世界の遠くから見守るなんていうのは嫌だぞ。たとえばそう、あの始まりの四聖竜のように」

「わかりません」

「おいおい……」


 話がふんわりしすぎている。大層な役職なら業務の内容は詳しく聞いておく必要がある。なにしろ契約の相手は神なのだ。依願退職は認められないだろう。


「カナメさん……」「カナメ……」


 オリアナとリーナが心配そうにカナメを覗き込む。


「そうだテミアリス、その神様に直接話をすることはできないのか?」

「「「えっ!?」」」


 リーナ、オリアナ、メイリーの三人が驚きの声を上げる。

 テミアリスは口元に指を当てて少し考え込むそぶりを見せた。


「でしたら……」


 立ち上がってカナメのほうへ来るテミアリス。オリアナは慌てて席を開けた。

 しかしテミアリスはカナメのとなりに座りたかったわけではないようで、カナメへただその手を差し出した。


「ん?」

「私の手を取って、祈ってください。祈りは神様に届きます」


 カナメはテミアリスの手を取った。

 細く、小さく、美しい少女の手。その手から何者かの気配がカナメの中に流れ込んでくるような気がした。


『…………』


 声は聞こえなかったが、誰かが聞き耳を立てているような、そういう気配だけがあった。

 カナメは目を閉じて、心の中のその気配に、ある提案をした。

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