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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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もう一つの太陽

 ラキの背中を見送るカナメ。

 その一瞬の隙を突いて、攻撃は空から来た。

 上空には翼を持ち羽毛に覆われた人間の女性のようなモンスターが飛び交っていた。ハーピーだ。

 ハーピーたちが上空からカナメに向けて槍を集中して投げてきたのだ。その数十本以上。


「しまった!」


 カエデが叫んだ。

 これまで空を飛ぶモンスターは姿を見せていなかった。その場の誰もが完全に油断していた。

 槍はカナメだけでなくカエデや他の面々、味方側に雨あられのように降り注いでいた。

 が、槍はカナメの体に到達する前に止まる。


「オリアナ、お前……」


 【疑似生命流体】を巡らせているカナメは槍の直撃を受けたとしてもダメージはない。しかし槍が空中で止まったことには驚いた。

 それだけではない。他の兵士たちに投げられていた槍の、そのすべてが止まっている。


「魔法士Aランクスキル【時間操作】です。命を持たない無機物の時間なら、操ることができます」


 両手を掲げたオリアナは淡々と言った。

 仲間たちに降り注ごうとしていた槍の雨は、時間が巻き戻って空へと戻ってゆく。


「魔法士のAランクスキル……それも【時間操作】。存在していたの……」


 スーが空を見上げて呆然とつぶやいた。

 兵士たちのうち、上等な鎧を着た指揮官が叫んだ。


「今だ!! 全員撤退だ!!」

「いや、待て。その必要はない」


 カナメの落ち着いた一言に一瞬言葉を失う指揮官。

 が、次の瞬間には焦りの色の濃い顔で言った。


「もう限界だ。あとは町へ急ぎ戻り、籠城するのが得策。この地上を埋め尽くす悪夢の軍勢を見よ! すぐに町は全方位を包囲されるだろう。いつまでも中央を押さえていても、左右に回り込まれてしまう。北門南門も危機に(きゅう)するだろう。そちらの防備にも兵を回す必要がある。先ほどラキどのが猶予を作ってくれた今がチャンスなのだ」


 指揮官の言葉通りなら、今ここで戦ってくれている全員、ただの時間稼ぎでその命を危険にさらしているということだ。

 どれほど善戦できたとしても、その先には絶望しかない。

 それでも町を守らずにはいられなかったのだろう。


 ここにいる全員。仲間のみんなや兵士たちを、カナメは素晴らしいと思った。

 彼らの努力は決して無駄ではない。その命を削って作り出した時間は、カナメが引き継ぐ。

 絶望を、ひっくり返す――。

 だからカナメは笑った。


「大丈夫ですよ、ほんの少しだけ待っていてください」

「……」


 カナメの余裕に何を感じ取ったのか、指揮官は押し黙った。彼だって二年前ミルタを救ったカナメのことは知っている。その目にはかすかな希望の光があった。

 二年前とは数も勢いも桁違い。だがカナメには関係ない。


「いけるよな?」


 それはカナメにしか感じ取ることのできないスキル【大魔道師の影】に向けた言葉だった。

 答えは無感情な音声となって脳内に響いた。


『敵対象捕捉。捕捉、捕捉、捕捉――。対象多数。攻撃には【神光剣】を選択。広域殲滅モードを準備中』

「みんな、もうちょっとだけ時間を稼いでくれ。一気にやる」


 カナメは【疑似生命流体】を【翼】形態にしてまとい、空へ飛んだ。

 気付いたハーピーたちが襲ってくるが、無視。

 地上に延々と広がる黒い絨毯を、上空から見下ろし眺める。


『対象捕捉捕捉捕捉捕捉捕捉捕捉捕捉捕捉捕捉捕捕捕捕捕捉捉捉捉捉』


 【大魔道師の影】の報告がうるさいくらいに多重に重なって脳内に響く。あまりに高速すぎて一連なりのノイズのようになる。

 今【大魔道師の影】はスキルを撃ち込む敵をすさまじい速さで捕捉していっている。

 広範囲を雑に薙ぎ払うのではなく、この途方もない数のモンスター一体一体にその力を行使しようとしていた。


 本来なら気が遠くなるような作業だが【大魔道師の影】は、自らを並列化することでそれを解決する。一度に数百のペースで対象をマークしていく。

 そしてものの十数秒ほどで、待ち望んだ報告がやってきた。


『―――【神光剣】準備完了』

「みんな、目を閉じろ!!!!」


 カナメが叫んだ。


 カッ!!!!


 世界に光が満ちた。

 超高密度に発生した【神光剣】がカナメの体を太陽のように激烈に光り輝かせる。

 【神光剣】の雨は戦場くまなく降り注ぎ、モンスター一体一体を正確に余さず貫いた。

 【神光剣】に貫かれたモンスターは、体を光の粒子へと分解。この世から消滅した。

 地上からはあまりの光の爆発に目がくらんだのだろう何人かの悲鳴が響き渡った。


 あっという間の出来事。

 モンスターの大軍団は死体すら残さず消え失せ、地上は平穏を取り戻した。

 カナメが地上に降りていくと、みな言葉を失って静まり返っていた。

 誰も口を開かない。風に舞う小さな葉っぱの音すら聞こえそうなほどの静寂。


「お……お……」


 兵士の口からうめき声のような音が漏れる。

 それはすぐに歓喜の雄たけびに変わった。


「お……おおおおおっ! うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「やった!! 信じられねえ! うおおおおおおおおおおおおっ!!」

「あの日の……二年前の奇跡の再現だ!!」

「バカ、それどころじゃねえ! こんなの……神様だってできやしねえ! うおおおおおおおっ!!」


 兵士たちは全員興奮して歓声に歓声を重ねた。

 そしてフェリンたち<<守護の盾>>の女の子たちもカナメへ駆け寄る。

 カナメは女の子たちの突進を受けてあっという間にもみくちゃにされた。


「お、おい……お前たち。ちょっ……痛っ。カエデ、毛が目に入るからぐりぐりするな。人型に戻れ。スー、足にしがみつくな。動けない……。フェリンお前もだ。リミリーまで……」

「なに言ってるの。町に戻ったらリエラさんやリセッタだってこうするに決まってるんだから。この程度で根を上げない」

「カカカ、そうじゃ。お主はまさに英雄。惚れ直したぞ」


 遠慮する気はないらしい。フェリンとカエデの力は緩まない。


「私だって。ああ、いやー……惚れ直したのはみんな、かな。だってこんなのずるいよ。マスターかっこよすぎだって」

「うん。マスター……本当にすごい……大好き……」


 リミリーはちょっと照れ笑い。スーは目に涙を浮かべて笑っていた。


「こんなところをお姉様に見られたら、はしたないって怒られてしまいます」


 カナメにぴったりと体を寄せるオリアナはそう言いながらも、その笑顔には後悔は微塵も見られない。

 いつまでしがみつかれているんだろうと思っていたカナメだったが、ふと拘束が緩んだのでおや、と思った。

 答えはすぐにやってきた。


「カナメ。……おつかれさま」

「ああ」


 ラキとサナだった。

 ダメージが大きかったからか、二人は出遅れたらしい。


「マスター……」


 サナは感極まったような泣き笑い。

 カナメは二人の肩をそっと抱いた。

 そして気がつけばカナメたちの周りには、さっきまで大声で喜びの歓声を上げていた兵士たちが、ずらっと並んで囲んでいた。

 彼らは地面に片ひざをついて胸に手を当てる揃いのポーズで、最上級の礼を示していた。

 そのうちの一人、指揮官が口を開いた。


「<<守護の盾>>のギルドマスター、カナメ様。あなた様はミルタの守り神でございます」

「やめてくださいよ、そんな……おおげさな」

「いいえ、カナメさん。あなたは人類を照らす希望の光……いえ、<<守護の盾>>の名の通り、モンスターひしめくこの世界の人々を守護する――盾なのかもしれません」


 オリアナの口調は、軽々に口を挟めない神妙な響きを含んでいた。


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