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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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ミルタ防衛戦2

 戦場を縦横に動いていたサナの【ワールウィンド】の竜巻が止まった。

 最初に異変に気付いたのはカエデだった。

 これほどの密度の敵の群れの中に取り残されたとなれば、無事では済まない。


「サナを救助するのじゃ!! 誰か!! くっ!?」


 声を張り上げたカエデの腕に、ダークハンターの槍がかすめた。 

 カエデはダークハンターの槍を掴んで固定、その首を刀で両断する。

 そして次の瞬間にはさらに四体のモンスターが同時にカエデに殺到している――。

 モンスターの波の奥にいるサナを助けることなど不可能だった。


「スー!」


 【爆炎剣】でモンスターを薙ぎ払いながらフェリンが叫んだ。


「だめ……もう魔力が……」


 悔しそうに唇を噛むスー。魔法スキルは疲労の代わりに魔力を消費する。【ブリザード】等の消費の大きいスキルを連発し続けていたスーの魔力が底をついたのだ。

 兵士たちの間にも動揺が走る。前進するモンスターの圧力が増していた。今まではサナが前線を支えていたからかろうじて戦えていたのだ。このままではサナだけでは済まない。この場の全員、モンスターの波に飲まれてしまうだろう。

 そのときだった――。


 ドバアアアアアッ!! 


 凄まじい衝撃波がモンスターの海を割った。

 その衝撃派の発生源。打ち寄せるモンスターの波を押し返して、一瞬の空白地帯にラキがいた。


「ごめん……カナメ。約束、破っちゃった……」


 ラキの体から湯気のように立ち昇る赤いオーラ。

 それは拳闘士Aランクスキル【神拳】――その派生スキル【狂神の型】だ。

 【狂神の型】は術者の身体能力を数十倍に引き上げ戦闘力を爆発的に高めるスキル。だが高負荷をかけられた体が徐々に崩壊してゆく諸刃の剣だ。以前カナメと冒険者をしていた頃、ラキはカナメの【大守護】を引き出すためにそのスキルを使ったことがある。


 もう二度と使うなと強くクギを刺されていたのだが、使うしかなかった。

 自ら戦場に開けたサナまでの道を、まるで巨人に投げられた岩ような速度で駆けるラキ。ラキの足元からは大量の土埃が空高く舞った。


「サナちゃん!!」

「ラキさん!」


 倒れこそしているものの、サナの意識ははっきりしていた。手を地面について体を起こそうとしていた。

 サナは致命傷などは受けていない。しかし今のこの状況、無防備なことには違いなかった。


「ごめんなさい……私、【ヒール】を自分にかけながら戦ってて……でももう魔力が……」


 サナの右ひざが赤く腫れ上がっていた。モンスターの攻撃によるものだ。魔力が切れて【ヒール】で治せず、バランスを崩して倒れたのだった。


 そこへラキとサナを押し潰そうとモンスターが殺到する。

 暴風が荒れ狂った。目にもとまらぬ超連撃。

 ラキは一陣の風となって、殺到する十数体のモンスターをすべて吹っ飛ばした。


「サナちゃんはよくがんばったよ。あとは僕がなんとかする」

「え……でも……ラキさん、その体……」


 サナは震える声で言った。

 ラキの体は今【狂神の型】の反動で急速にダメージを蓄積していっている。それがサナの目にもはっきりわかる形となって表れているのだ。


「あはは。わかっちゃった? まあ大丈夫。全然平気だ――よっ!!」


 再び戦場に暴風と衝撃波の二重奏が暴れ狂う。

 ラキが拳を振るうたびにモンスターの海を亀裂が走る。


「すごい……ラキさん、こんなに強かったの? もしかしたら……マスター以上かも」


 ラキは周囲のモンスターたちを十体まとめて薙ぎ払ってから、呆然とつぶやくサナを抱え上げた。

 強化された猛スピードでサナを安全な後方まで運んで再び戦場に戻ると、サナが前線を支えていたときより凄まじい破壊力をもって、モンスターたちを押し返しだした。


 一撃一撃、振るった拳は必ずモンスターをまとめて複数吹き飛ばす。知性を持たないはずのモンスターたちですら、ラキが迫るとびくりと体をすくませて恐怖に縛られた。

 ラキはたった一人で戦場を支配し始める。

 鬼神のごときラキの暴れっぷりに兵士たちの士気は上がった。

 しかし――。


「おぬし……」


 カエデの声は弱々しい。


「ひっ……」


 スーが杖を取り落とした。

 怒涛の如く殺到していたモンスターの勢いがラキの活躍によって緩んだその猶予の時間。

 全員の視線がラキに集まっていた。


「ん? どうしたのみんな?」


 振り返るラキはいつものようにぽやぽやっとした口調。

 が、ラキを見る仲間の表情は青ざめていた。

 それもそのはず、ラキの体は顔も腕も内出血によって青黒いあざが広がり、目や鼻からは血が流れ続ける凄惨な様相を呈していた。

 ラキの体がゆらりと傾き、そのひざが力を失う。


「ラキさん!!」


 フェリンの叫び。

 倒れそうになったラキの体を後ろから誰かが支えた。


「ったく……無理しやがって」


 【転移】ゲートから現れたカナメだった。


「マスター……」「マスターーー!」「お主っ!!」「マスター!」「マスター!」


 スー、フェリン、カエデ、リミリー、サナの叫びが重なった。


「カナメ……カナメぇぇ! う、うぅぅぅっ! うわああああああああん!!」


 ラキの目から大量の涙があふれる。

 たった今まで平然と笑っていたのがうそのようにラキは泣き出した。


「ごめんカナメ……僕……」

「なにも言うな。――わかってる」


 カナメはラキに笑いかける。

 それだけでラキはまた涙があふれる。


「相変わらず泣き虫なやつだな」

「えへへ……ごめんね」

「歩けるか?」

「うん」


 僕も戦う、だとかこの大軍はカナメでも無理だ、とか一切言わない。なぜならラキは【大守護】発動時のカナメには全幅の信頼を寄せているのだ。

 【狂神の型】を解除したラキはよろよろと安全な後方へと歩いていった。

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