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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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闇夜の死闘

 セスティナは飛び起きるようにして、寝ていた一人用テントから外へ出た。

 ここは人類圏<<外>>の森の中。

 <<守護の盾>>のあるミルタの町の南西。以前カナメと探索した遺跡があった大森林地帯の、その入り口付近だ。


 辺りはまだ暗い。時刻は夜明け前といったところか。

 セスティナはするどい視線を森の一方向へと向ける。目を覚ましたのも人の声が聞こえたからだった。森の入り口の方角だ。


 悲鳴。もし冒険者がモンスターに襲われているのだとしたら、一刻の猶予もない。

 <<外>>を探索できるほどのレベルの冒険者は稀だが、セスティナは自分の耳を疑わない。テントも畳まずに駆け出した。

 その冒険者の女性は森の茂みに埋もれるようにして倒れていた。腹部からは大量の出血。明らかに致命傷だった。


「う……う……」

「しゃべるな。今応急処置をする」


 しかし女性がもう助からないことは明白だった。

 女性は震える指で森の入り口の方角を指差す。


「うぅ……仲間……が……」


 それきり女性はぐったりと動かなくなった。

 セスティナは女性の亡骸をその場に横たえて、胸の上で手を組ませた。

 セスティナは森の外へと向かった。


「これは……ひどいな」


 森の入り口では、無数のモンスターの死体が山のように重なっていた。

 その死体の山の中心に数体の緑色の裸体がかがみこんでいる。なにかを食べる咀嚼(そしゃく)音がぐちゃぐちゃと聞こえてくる。


 緑色の体のモンスタ――ゴブリン。しかし通常のゴブリンより屈強な体をしている。ハイゴブリンと呼ばれる別種だった。

 セスティナは音も立てずに一息に飛び込み、背負った鎌を抜いて一振り。


 ハイゴブリン四体は胴を両断されて絶命した。彼らは断末魔の声を上げることさえできなかった。

 ハイゴブリンに貪られていたのは四名の冒険者の死体だ。おそらく先ほど会った女性冒険者の仲間たちだろう。

 これほどのモンスターの群れと交戦してよく戦ったと褒めるべきだが、それでもついには力尽きたらしい。


「む……」


 おそらく冒険者の物だろう地面に転がるたいまつ。その明かりを反射して、黄色く濁った目が暗闇の中にいくつもいくつも現れた。

 モンスターの死体の山を踏み分けるように、さらに多くのモンスターが姿を現したのだ。


「ゲギャギャギャギャーーーー!!」


 体毛のないぬめった黒い体と翼。細長い槍を持った亜人。ダークハンターだ。その体は人間より大きい。

 セスティナは飛びかかってくるダークハンターの槍を体をひねって避け、手にした鎌を振りぬいた。

 胴を両断されたダークハンターは先ほどのハイゴブリンと同じようにその切断面から大量の血しぶきを上げて倒れる。ほとんど抵抗らしい抵抗を感じないのはセスティナが持つ鎌の切れ味が凄まじすぎるためだ。


「ゲゲゲギャギャハーー!」


 しかし笑い声は尽きない。ダークハンターは十体以上の群れ。さらにその奥に別のモンスターの姿も見える。

 そのすべてが人類圏で見るより強力な<<外>>の種族のモンスターだ。


「やれやれ……地獄の釜のフタでも開いてしまったのか?」


 死体の山に新手の群れ。モンスターの数が多すぎる。いくら常識の通用しない<<外>>とはいえ、これほどの数のモンスターに襲われることはセスティナも初めてだった。

 セスティナは背中に背負う幾本もの武器の中から、広い空間で多数の敵を同時に相手にするのに最適な一本を抜き放った。闇夜を切り裂いて輝く白刃。


 大鎌と大剣の二刀流。本来ならありえないような組み合わせだが、あらゆる武具を使いこなす武具士のセスティナにとっては造作もない。

 武器を構えたセスティナはモンスターを見据えた。


「いいだろう。後続が現れなくなるまで付き合ってやる。何匹でもかかってこい!」


 モンスターの群れがセスティナめがけて殺到した。

 ダークハンターたちの槍を避け、剣で受け、鎌で首を落とす。背後に回ったハイゴブリンの短剣の一撃を気配で察知して紙一重で避ける。別のハイゴブリンが反対側から迫り、さすがに態勢を崩したセスティナは思い切り跳躍。

 身体能力を強化する装備で強化された脚力は、モンスターたちの頭上高くへセスティナの身体を運んだ。


「はああああっ!」


 気合一閃。

 上空から叩きつけた大剣が秘められた特殊能力を発揮し、周囲に衝撃波を発生させる。吹っ飛んだモンスターの陣形が乱れ、そこへセスティナは素早く斬り込んでいく。

 しかしモンスターの群れは次から次へと途切れることなく湧き続けた。


 セスティナの死闘は数時間に及んだ。

 気が付けば周囲には最初に見たモンスターの死体の山の、ゆうに数十倍の数のモンスターの死体が積み上がっていた。

 セスティナが立っているのはモンスターの死体でできたすり鉢の底だ。もう朝日は上っていたが、死体の壁に囲まれて周囲の景色すら見ることはできない。


「はぁ……はぁ……。これだけの数は……さすがに堪える」


 尋常でない数のモンスターと長時間戦い続けたセスティナも無傷ではなかった。

 セスティナは返り血にまみれ、全身打ち身や切り傷だらけだ。ほとんど満身創痍といっていい有様。

 荒い息を吐きながら、自らが作り上げたモンスターの死体の山を登る。その頂上へと出たところでセスティナの顔色が変わった。


「なっ……これは……」


 ここは森の入り口。死体の山のその上からは、森の外に広がる大平原が見えるはずだった。

 しかしその平原は今真っ黒に染まっているのだった。

 モンスターの大軍。

 地平を埋め尽くすモンスター、モンスター、モンスター。


「ばかな……」


 セスティナはその異常な光景を、呆然として見つめた。

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