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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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力比べ

 翌日カナメが通されたのは昨日とは別の、聖女の私的な部屋のようだった。

 部屋は広いが王族貴族とは違い、贅沢な感じはしない。家具も高級なのだろうが装飾は控えめだ。

 それでもピカピカに磨かれた床は石の模様が優美だし、テーブルもソファーも古いがくたびれた感じはしない。


「どうぞ、カナメさん。座ってください」


 部屋のソファーに座るテミアリス。その隣にはやはりメイリー。そしてオリアナだ。

 テミアリスに促されて長テーブルを挟んでソファーに座るカナメ。

 テミアリスが再び口を開いた。


「お茶もよかったらどうぞ。お口に合うかわかりませんが」

「ずいぶんと気さくなんだな。聖女って言うからもっと近寄りがたい存在だとばかり思っていたが」


 親し気な雰囲気につられて、ついカナメもくだけた口調になる。

 テミアリスはわずかに口の端を上げて小さな笑みを作る。


「昨日も言いましたが、聖女聖女と言われてはいますが、聖女という役目は神から賜ったもの。あくまで私は神の代理人にすぎません。私自身はただの人間なのです」

「神の代理は十分高貴すぎると思うけど……」

「そんなことはありません。むしろ始まりの四聖竜の一柱を一撃で倒したカナメさんのほうが……」

「知っているのか」


 あの日の戦闘は地上からだと、距離と夜の闇でよく見えなかったはずだ。


「ええ。四聖竜出現の場に立ち会っていた聖騎士が二人。それに戦闘の後地上に降りたカナメさんを目撃していた人もいます。集めた情報からあなたを特定させていただきました」

「そんなことが可能なのか……」


 カナメはラタベグリア州の辺境の町ミルタに住んでいる。あの日は【転移】で帰ったのだ。たとえ【鑑定】等で目撃者から人相を引き出したとしても、身元まで特定されるとは信じられない。


「お告げだ。聖女様のお力なら造作もない」


 メイリーがふふんと笑って言った。


「聖女の力か……」

「はい。そして今回カナメさんをお呼びしたのもそのためです。神様からの新たなお告げがありました」

「それは?」


 テミアリスは一度お茶に口を付けてからゆっくりと話し始めた。


「カナメさんは私たち人間が持つ力――スキルについてどう思いますか?」

「は?」


 思わず聞き返してしまう。スキルとは当たり前のように人間が持つ力だからだ。当然スキルを持たない人間はいる。むしろスキルを持たない者のほうが多い。

 それでもそのスキル自体への疑問を感じたことはなかった。


「スキルは神が人間に付与した特性――人間の進化する能力で獲得するものなのです」

「よくわからないな。スキルは神が人間に与えたものなのか?」

「正確には違います。神様はスキルを直接人間に与えてはいません。神様は人間に『進化する力』を与えただけです。その進化の結果人間はスキルを手にしました」

「つまり、なにが言いたい?」


 テミアリスははっきりとカナメを見据える。まるで何かを見通すかのようなまっすぐな視線だった。


「カナメさんが持つスキル――【大守護】は異質です。明らかにオーバーパワー。このメイリーの【無限】と同じように。それは一つの可能性を示唆しています。そしてそれはカナメさんが始まりの四聖竜を倒したことで証明されました」


 カナメの表情が強張る。

 それはテミアリスの言葉に衝撃を受けたからではなかった。

 突然立ち上がったカナメに怪訝な顔を向ける三人。


「どうされました?」

「悪い。外せない用事だ」


 【大守護】が発動したカナメはすぐに【転移】ゲートを開く。残してきた<<守護の盾>>の仲間に危機が迫っている。一刻の猶予もなかった。


「待て! どこへ行くつもりだ! 聖女様の話は終わっていない」


 ゲートをくぐろうとするカナメの腕を、立ち上がったメイリーが素早く掴んだ。

 普段なら気の利いた説明の一つでもするところだが、仲間に危機が迫っている今、カナメには余裕がなかった。


「その手を離せ」

「いいや、聖騎士第一位<<無限>>のメイリーの名において、聖女様を無視して帰るような真似は許さん」

「面倒だな……」


 無礼は百も承知で【疑似生命流体】を展開。メイリーの腕を引き剥がそうと試みる。


「きゃっ」


 テミアリスが短く悲鳴を上げた。おそらく【疑似生命流体】の輝くもやを見て驚いたのだろう。

 メイリーは初めて見る【疑似生命流体】が腕に絡んでも動じず不敵に笑う。


「ほう、これがお前のスキルか。面白い」

「むっ……」


 カナメは眉を寄せた。引き剥がせない――。


「私の二つ名は<<無限(むげん)>>。ユニークスキル【無限(インフィニティ)】はたとえ相手がどれだけ強大でもその力を必ず上回ることができる。最強のスキルだ」


 メイリーの言葉が本当なら、それは常軌を逸したスキル。まさに聖騎士の一位にふさわしい。

 しかし――。


(腕が千切れても文句を言うなよ……)


 ならば全力でとカナメは操作を強める。


「きゃあっ!?」


 メイリーが声を上げて顔を歪めた。


「バカなっ……! ありえないっ……」


 メイリーの表情は驚愕に染まっている。


「さすが聖騎士の第一位。だけど……悪いな。本当に今は余裕がないんだ。俺はすぐに帰らなきゃいけない。仲間に危機が迫っているんだ」

「ぐっ……痛っ! あああああっ!」


 苦痛の声を上げるメイリー。


「無理をするな。腕が千切れ飛ぶぞ」

「うっ、ううう……ああああああっ!!」


 顔に脂汗を浮かべて痛みに耐えるメイリー。それでも手を離そうとしないのはさすがというべきか。


「どうなさいましたお姉様!? まさかお姉様の【無限】が通用していない? こんなことは過去に一度も……」


 口を両手で覆って驚くオリアナ。

 テミアリスも感心したようにつぶやく。


「【大守護】……。これほどのスキルだとは……。聖騎士第二位のギルバードですらメイリーには一瞬でひざを突かされたというのに……」


 しかし――。


『超高エネルギーを検出。上昇中。危険――』


 【大魔道師の影】の警告。

 苦しそうにしているのは変わらないが、引き剥がされかけていたメイリーの腕が【疑似生命流体】の拘束を徐々に押し返し始める。


「ぐうううぅぅ……負けないっ! 私はぁぁぁぁっ!」

「まさか……うそだろ……」


 この少女の細い腕は今、あの始まりの四聖竜と同等の強度となっているということだ。

 【無限】――。

 そのスキルの凄まじさを今カナメははっきりと実感していた。

 驚くカナメだが、しかしまだ奥の手はある。


(仕方ない……やるしかないか)


「お前はその手を――離さなければならない」

「メイリー!! 手を離しなさい!」


 テミアリスのするどい叫び。

 メイリーは不満そうな顔をテミアリスへと向ける。


「どうしてです! まさか私が彼に負けるとでも?」


 テミアリスは深刻な顔でうなずく。


「あなたはカナメさんに絶対に勝てません。その手を離すのです」


 テミアリスに言われてようやくメイリーは手を離した。

 ぶすっとした顔のメイリーだが、彼女は自分が命拾いしたことに気付いていない。

 問題はテミアリスだ。


「まさか……知っているのか?」


 テミアリスは真剣な顔のままカナメを見つめる。


「必ず、帰ってきてください。すべてお話しします。……そのことについても」

「ああ」


 カナメは短くうなずく。

 オリアナが立ち上がった。


「私もついて行きます」


 メイリーは一度テミアリスの目を見て、それからオリアナに言った。


「私もついていきたいのは山々だが……聖女様の警護を外れるわけにはいかない。オリアナ、気をつけて行ってこい。必ず、この男を連れて帰って来るんだ」

「はい、お姉様」


 カナメとオリアナは【転移】ゲートをくぐった。

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