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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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束の間の休息

 あれから一週間。


「カラム卿には断りの連絡を入れておいて。二十日の晩餐には出席できないと」

「はっ」


 ベッドから身を起こすリセッタの回りには、入れ代わり立ち代わり大勢の人間がやってきていた。


「リセッタ様、こちらの書類にサインを」


 差し出された書類にさっと目を通してサインするリセッタ。


「リメナキに向かっていた隊商がモンスターに襲われて被害甚大との報告が」

「護衛を強化しないとダメね。あのルートは放棄するわけにはいかないわ。近場の冒険者ギルドに討伐の依頼を。被害については保険で賄えるはず」


 てきぱきと部下たちに指示を出すリセッタ。

 リセッタが寝泊まりする個室は今や臨時のリセッタ商会の事務所と化していた。


「おーい、リセッタ―」

「あ、カナメお兄ちゃん!」


 部屋に入ってきたカナメを見て、ぱあっと目を輝かせるリセッタ。


「お、お兄ちゃん……」「今お兄ちゃんと……」


 サリア以外の部下たちはざわざわとささやき合う。


「さっきから知らん連中が行ったり来たりで困ってるんだが……」

「人の出入りが多いほうが繁盛しているように見えていいでしょ? 新規にオープンする飲食店なんかは、お金で雇った客を立たせたりするんだよ」


 いわゆるサクラの客というやつだ。


「いやしかしうちは冒険者ギルドなんだがな……」


 依頼が増えてもクエストをこなす人員には限りがある。<<守護の盾>>は少数精鋭なのだ。


「まあまあ、かたいこと言わない。例の事件で色んな予定がめちゃくちゃになっちゃったからね。急いで調整する必要があったの。私は回復したとはいえしばらく安静にしてなきゃいけないし……。それにね……えへへ。お兄ちゃんのギルド、私気に入っちゃった」


 はにかんで言うリセッタを見た周りの部下たちがまたしてもざわつく。


「おお、あのリセッタ様がまるで普通の少女のように……」「実にお可愛らしい……」


 リセッタの部下は男女の区別なく感激していた。

 いつの間にかそばに来ていたサリアがカナメに耳打ちする。


「リセッタ様は普段商会の長として、またマレダフラニアの姫としてふさわしい態度を崩さないのです。リセッタ様が甘えられる相手は、あなただけなのです」

「……そうか」


 たしかにリセッタはその年齢にしては信じられないような重責を背負う立場にいる。気の休まる時はないのかもしれない。

 だったらリセッタがカナメに甘えたいというのなら、カナメはそれを拒むような狭量ではない。


「それともお兄ちゃん、やっぱり私がここにいると……迷惑だったりするかな?」

「ま、いいか。ただし、お前の部下の面倒までは見きれないからな。近くの宿にでも泊ればいい」

「もちろん、みんなにはちゃんと言ってあるよ。ふふ、宿のほうにはカナメお兄ちゃんからの紹介だって言って」


 そんなことを頼んだ覚えはないが、カナメにはメリットしかないので笑うしかない。


「さすがだな」


 やはりリセッタは商売で財を成した才媛だけはある。

 まさかずっとこの部屋を事務所代わりに使うつもりではないだろうが、この様子を見ればもう心配などなさそうだ。


 もう一つの心配と言えばマレダフラニア州軍の件だが、リセッタの父ファルカ王は反乱の軍を動かさなかった。

 部屋にいるリセッタの部下の一人、巌めしい顔の老人がカナメに鋭い目を向けていた。

 気付いてカナメが老人を見れば、頑固を絵に描いたような彼は目を伏せて静かに一礼。カナメに対してもリセッタに向けるような敬意を持って接してくれている。


 実はマレダフラニア州が軍を動かさなかったのは、彼の決死の働きにあった。

 あの日崩落した王都の宿からカナメの転移で帰還したリセッタたちは、ほぼ全員ひどいけがを負っていた。その中でどうにかけがの程度の少なかった彼は、【ヒール】での回復もそこそこに州王への連絡を願い出たのだ。


 カナメはマレダフラニア州へも行ったことがあったので転移で飛べた。

 そして夜のうちに州王家と接触、リセッタの無事を伝えたのだ。

 リセッタが人質に取られていないと知った州王は軍を動かさない判断をして、州の反乱は未然に防がれたというわけだ。


 もちろん<<碧狼団>>がギルドマスターを潰されて、事実上の壊滅状態となったことも大きかった。

 長年に渡って州王の便利な道具に甘んじていた<<碧狼団>>は、いつしか州王家の秘密を知りすぎるようになった。そして次第に増長していったらしい。

 そもそも州王ファルカは<<碧狼団>>に脅されて反乱を起こそうとしていたのだ。最初から乗り気ではなかったのだろう。


 それにしても黒の鍵があんなとてつもないドラゴンを呼び出せる物だったとは。

 まさか最初の暴発のときはあんな大物が出現したわけではないのだろうが、未知の古代遺物を安易に使うと予想もつかない事態が起こるといういい例になった。


 もしカナメがなんとかしていなければ、反乱どころではない。アールリーミル王都はおろか人類圏全体が危機に陥っていたかもしれない。

 ともあれもろもろの危機は去った。

 これからは平和な日々が続けばいいと、そう思う。


「カナメ……ちょっといいかな?」


 ドアを少し開けてラキが顔を出していた。


「なんだ?」

「お客さん。とにかく下まで降りてきて欲しい」

「客? いったい誰だ?」


 ラキはガラにもなく神妙な面持ち。


「王都から……聖騎士の人だよ」

「聖騎士? リーナでも来たのか?」


 ラキは不安そうに首を振る。


「別の人。聖女様直々のお達しだって。カナメに用があるって」


 聖女。

 それはアールリーミル神聖王国及び七属州を束ねるの人類の長。無視することはできなかった。


「悪い、ちょっとお客さんだ。またな」


 にこやかに言うとリセッタも笑顔で返事をしてくれた。


「うん。またね、お兄ちゃん」

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