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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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夜空を覆う巨竜

 【大守護】の発動を感じたカナメは【転移】ゲートをくぐってやってきた。

 周囲を見回せばどうやらそこは王都。立派なレンガ造りの建物が軒を連ねている。

 そしてカナメの目の前には瓦礫と化したレンガの山があった。


「リセッタ様! リセッタ様ーーーー!!」


 瓦礫のそばで泣き叫ぶサリア。リセッタが<<守護の盾>>にやってきたときに、いっしょにいたのをカナメも確認している。

 見ればそれは瓦礫から顔だけを出した状態で埋もれているリセッタだった。

 サリアはリセッタをなんとか助けようと必死な様子だ。


「なにがあった?」


 声をかけられて振り向いたサリアは涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。


「お願いします! リセッタ様を助けてください! 建物が崩落して……私は奇跡的に助かったのですが、リセッタ様が下敷きに……」

「わかった」


 サリアを押し退けるようにして進み出たカナメは、【疑似生命流体】の輝くもやを伸ばす。

 瓦礫をどけてリセッタを救い出した。

 大質量の建材の下敷きになっていたせいかリセッタは意識を失っていて目を覚まさない。


「ああ、リセッタ様。そんな……」


 サリアのつぶやき。


「まだ助けられる」


 カナメは【疑似生命流体】でリセッタの体を包む。やわらかい白光に覆われたリセッタの体には今、【疑似生命流体】を構成する微細な人工の魂たちがゆるやかに染み込んでいるのだ。


「なにを……」

「俺が今入れているのは人工の魂だ。失われつつあるリセッタの生命をこれでつなぎとめる。……よし、間に合った。治療するまでリセッタが命を落とすことはないだろう」


 【疑似生命流体】が体内に満ちている間は、肉体がどれほど損傷しようと死ぬことはない。それは言わば身代わりの命のような働きをする。【ヒール】のような治療手段を持たないカナメができる限界の延命措置だ。

 リセッタがうっすらと目を開けた。


「あ……おにい……ちゃん」

「なにがあったんだ?」

「わか……らない。急に窓の外がピカッて、光って……それで……」

「ドラゴンです! 巨大なドラゴンが現れて、それでさっきから雷が何度も何度も落ちて……あちこちの建物が……」


 サリアの悲痛な叫び。カナメははっとして上空を見上げた。


 カッ!


 雷光が閃いてカナメにも見えた。

 上空に浮かぶドラゴンの巨体。


「まじかよ……」


 以前セスティナと<<外>>の遺跡で見たドラゴンよりはるかに大きい。形も違う。あのときのドラゴンはずんぐりとした体に巨大な翼をもっていたが、このドラゴンはまるで蛇のように長い体をしている。翼も持たないのに、途方もなく巨大で長い体をうねらせながら空に留まっている。


 頭部にはやはり搭のように巨大な、二本の角。

 そして聞こえてきた。

 雷鳴のように低く轟く、ドラゴンのその声が――。


『我は始まりの四聖竜が一柱、雷竜ギルフォリグス。愚かなる人間どもよ。約定を忘れし傲慢の罪を、その命を以って償うがよい』


 その声はおそらく王都中に響き渡っているだろう。それほど途方もない大音量だった。

 ドラゴンが大きく口を開け、その内部が太陽のような強烈な輝きを発し始める。

 ブレスだ。

 あの大きさのドラゴンがそんなものを放てば、リセッタどころか――町が吹っ飛ぶ。


「あれを撃たせるわけにはいかないな」

『【大守護】発動中。【疑似生命流体装甲(ゴーストアーマー)】展開。形態(モード)(ウィング)】』


 カナメの体を覆う【疑似生命流体】の輝くもやが、人の体の倍はある巨大な翼へと形を変えていく。

 白く輝く四対の翼は、夜の闇の中ではひときわ目立つ。


「お兄ちゃん……それ……」


 リセッタは呆然としてつぶやく。


「天使……様」


 サリアも大きく目を見開いて言った。


「そんなに大層なもんんじゃない。まあ待ってろ。すぐに終わらせてくる」


 【疑似生命流体】の翼をはためかせてカナメは空を飛んだ。

 上空で人々を見下ろすドラゴンの元へと一気に突っ込んでいく。


『空を……飛ぶだと。お前は……本当に人間か?』


 目の前に飛翔してきたカナメを見て、ドラゴンの声には驚きが混じっていた。


「そいつをぶっ放すのはやめてくれないか? 大勢の人間が死ぬことになる」

『人の命は短く、記憶はすぐに風化する。しかし約定は消えぬ。忘却は……約定を破ってよい理由とはならぬ』

「約定? そいつはいったいなんなんだ?」

『人間一人一人ににそれを教えたところでなんの意味もない。この一撃を以って、すべての人間に思い出させるまでよ』

「聞く耳持たないってか。なら仕方ない」


 【疑似生命流体】の輝くもやが爆発的にあふれて広がった。白い煙のようなそれがみるみる体積を増していき、ドラゴンの体に絡みつく。

 モンスターの大軍すら一度に縛れるほどの量の【疑似生命流体】はしかし、ドラゴンの首元を包み込むにとどまった。それほどのスケール差があるのだ。


『む……これは』


 ドラゴンは訝し気な声を発するが、そこに苦痛の色はなかった。


「まじかよ。【疑似生命流体】で千切れない相手なんて……とんでもないやつだな」


 ドラゴンの口に充填される光の輝きが強くなる。ブレスの準備が完了しようとしていた。


『愚かな人間どもよ。裁きの光を受けるがいい――』


 カナメは一瞬眼下に目をやる。


(リセッタ……)


 瞬間、世界が白く輝いた。

 闇夜を押し退けて光が満ち、束の間の昼が訪れる――。


「くっ!」


 カアアアアアアアッ!


 【疑似生命流体】を広げて破滅の光を受け止める。ブレスがカナメに直撃する。

 【疑似生命流体】を構成する数百万個の人工の魂が次々と蒸発してゆく。

 カナメが広げる翼がブレスに侵食され、穴を穿たれてボロボロになっていく。


『超高威力高次元攻撃を感知。危険、危険、危険、危険――』


 白一色に染まる視界の中でカナメは、脳内に響く【大魔道師の影】の警告を聞く。

 まるで永遠に感じられた一瞬は唐突に終わりを迎えた。

 辺りは再び夜の闇に戻り、目の前には変わらぬドラゴンの姿があった。


『我が一撃を耐えるとは……』


 ドラゴンはそれだけをつぶやいて絶句。

 カナメは笑った。


「お前のブレスもたいした威力じゃないか。こんな強烈な攻撃は初めて受けたよ」

『……』

「で、少しはこっちの話も聞いて欲しい。このまま帰っちゃくれないか? 約定がどうこうは知らないけど、こっちはただ平和に暮らしていただけなんだ。黒の鍵だっけか? もしかしたらお前は人間に勝手に呼び出されて怒っているのかもしれないが、その点については謝るからよ」

『笑止!』


 ドラゴンが吠えた。


『強がるのはよせ。貴様の翼はもうボロボロ。次の一撃を受け止めることは不可能だろう。人間にしてはよくやったが……あきらめて裁きを受け入れよ!』

「そうか。なら仕方ない」


 カナメの【疑似生命流体】の翼が、一瞬で真新しい輝きを取り戻す。


『なっ、なぁああああああ!?』


 ドラゴンの驚愕の叫び。


「【疑似生命流体】はスキルで生成したものだからな。そりゃ何度でも作り直せるさ。さて……これを使うのは魔王を倒したとき以来か」


 カナメは拳を振りかぶる。【疑似生命流体】がそれを数千倍のスケールで再現。巨大な輝く拳を作り出した。


『魔王? まさか……』

「じゃあなドラゴン。もう二度と来るんじゃないぞ」

『そ、その気配……力は……。まっ、待て。わかった! 帰る! だから――』


 ゴッッッッ!!


 カナメの拳が振り抜かれ、【疑似生命流体】の巨大拳の一撃がドラゴンの顔面を貫いた。

 瞬間、激烈な衝撃波が発生して眼下の建物群がビリビリと震えた。

 ドラゴンは逆戻しの隕石のように空高く吹っ飛ばされて、一瞬で彼方へと消え去った。

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