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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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決行の夜

 そして十日後。

 リセッタは王都アールリーミルのとある宿の一室で部下の報告を聞いていた。

 <<守護の盾>>を訪問した際も同行させていた彼女の名前はサリア。美しい銀髪をツインテールにした線の細い少女で、商人の親が取引で失敗し自殺し行き場を失っていたところをリセッタが引き取ったのだ。


 他の部下の男たちは別室に控えさせている。とは言っても今は極めて機密性の高い作戦中だ。あまり大勢の人間をぞろぞろと連れて歩くわけにはいかない。少数の腕の立つ護衛だけにとどめている。


「黒の鍵を持った者たちが王都入りしたというのは間違いない情報なのね?」

「はい。聖職者風に変装していますが、間違いありません。おそらくアールリーミル城の内部に入り込んで黒の鍵を使うつもりかと」


 聖職者とは考えたものだ。一般人では入れない城内にも、聖職者なら外部の人間でも万が一ということはある。なにしろアールリーミル神聖王国の長は形式上国王ではなく宗教上のトップである聖女となっているからだ。

 サリアはリセッタに恭しく尋ねる。


「いかがいたしましょうか?」

「手はず通りに。なんとしても城内への侵入は阻止しないと。<<碧狼団(へきろうだん)>>の様子はどう?」


 <<碧狼団>>は<<守護の盾>>から色よい返事をもらえなかったリセッタが接触した名のある冒険者ギルドだ。今回の一件のような人間相手の襲撃や暗殺等の裏仕事にも長けている。正直言えばあまり使いたくなかった連中だ。腕はたしかだがどこか底知れぬ不気味さのある連中だったからだ。


「いつでも動けると言っています。夜になって襲撃するのが望ましいと言っていますが」

「ではそれでお願い。くれぐれも失敗しないよう言い含めておいて。なにしろこの件にはマレダフラニアの――いいえ、世界の命運がかかっているのだから」


 <<守護の盾>>で見せていたような人懐っこい笑顔はなりを潜め、リセッタは理知的な光をその目に宿している。

 宿の四階に位置する部屋の窓から美しい王都の町並みに視線を移す。

 木造建築がほとんどのこの世界にあって、レンガ造りの立派な建物がひしめくようにその高さを競っている。まさに世界の中心――王都アールリーミル。


(お父様の野望はなんとしても阻止しなければ……。それに、マレダフラニアが関わっていることも知られてはいけない)


 リセッタはマレダフラニア州第二姫という立場にありながら、幼い頃から世界に飛び出し商人として経験を積んできた。

 独立に興味がないわけではないが、少なくとも父のように短絡的な暴力やゲリラ的な手段で勝ち取れるほど甘いものではないと考えていた。


 そして失敗すれば取り返しのつかないことになる。マレダフラニア州だけでなく他の州にも余波が及ぶかもしれないのだ。


(それに……今は人類同士で争っている場合じゃない。七つの州がなぜ統一されたのか、お父様も知っているはずなのに……)


 それはモンスターの脅威を退けるためだ。かつて人類は一つにまとまらなければいけないほどの危機にさらされたのだ。

 リセッタの視線の先で、きれいに舗装された石畳の道路の上を、人々がせわしなく行き交っている。


 この街の人たちの幸せを奪う権利なんて、誰にだってあるはずがない。

 黒の鍵を使わせるわけには、絶対にいかない。

 リセッタは決意を新たにするのだった。



 --------



 王都ともなれば明かりが落とされる時間も遅い。

 夜になってなお外の建物の窓はまだ光を放つものも多かった。しかし眼下の通りは薄暗闇に包まれて、昼間のように人の通りを確認することはできなくなっていた。


 リセッタは日中と同じようにイスに座って窓の外に目を向けていた。

 今この瞬間にも<<碧狼団>>による偽聖職者一行の襲撃が行われているかもしれない。そう思うと眠気は一向に訪れなかった。

 とにかく今は作戦の成功を祈った。


「リセッタ様。そろそろお休みになられませんと」


 サリアはそう声をかけながらリセッタの前にお茶の入ったカップを置く。


「ええ、そうね。わかってるわ」


 苦笑しながらカップに指をかければ、なにか花のようないい香りがした。高ぶっていた神経が落ち着いてゆくのを感じる。そういう作用のあるハーブのお茶なのだろう。

 そのとき、部屋のドアがノックされた。


「お客様……狼と名乗るお方が、お客様にお会いしたいといらっしゃってます」


 宿の主人の声だ。

 狼というのは今回の作戦で<<碧狼団>>からの連絡役が名乗ることになっている名だ。

 リセッタはサリアにうなずいた。


 サリアがドアを開けると、恐縮しきったような顔の宿の主人が現れる。

 思わず腰を浮かしかけたリセッタは、新たに現れた人物を見て凍り付く。

 サリアも顔色を変えた。


「あなたは……」


 宿の主人を押しのけて部屋に押し入ってきたのは、待っていた連絡役ではなかった。

 よれよれの軽装にくたびれたマントを羽織った冒険者風の人物。

 四十歳ほどの中肉中背。無精ひげの口元には皮肉げなニヤニヤ笑い。


「どうも、狼っす。っと、姫様とはこれで二度目になりますかね」


 ビリー。

 <<碧狼団>>のギルドマスターの男だった。


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