ギルドの金主はとなりの州のお姫様
ある日の午後の<<守護の盾>>。テーブル席でいつものようにくつろいでいるのはフェリンとスーとサナ。
「そういえばさー、マスターってお金持ちなの?」
フェリンがイスを傾けてカナメのほうを振り向く。
「どうしたんだ急に」
「だってさー、気になるじゃん。マスターみたいな若さでこんな立派なギルドを経営するなんて、普通出来ないでしょ」
サナとスーもカナメを見ている。
「そうですね……この建物くらい立派なギルドとなると……冒険者ギルドとしては中堅以上はありますね」
リエラの冷静な評価。
「まあその辺はなんつーか、色々上手いこと行ったんだよ」
フェリンは目を輝かせた。
「そこの詳しいところを教えて欲しいなー」
サナとスーも興味津々といった熱い眼差し。
リエラも受付の定位置で書類を広げていたが、その意識がカナメに向けられていることは明らかだ。
「聞いても面白くないと思うぞ」
「うんうん」
カナメとしては進んで言いたい話でもなかったが、隠し事というほどではなかった。
「二年前この町に来たとき――魔王を倒した帰りだな。そのとき町はモンスターに襲われていたんだよ」
「あ、聞いたことある! マスターはこの町を救った英雄だって」
「そんなに大層なもんじゃ……ええと、それでモンスターを退治したその後、町長からこの町に留まって住んで欲しいと頼まれたんだ。こっちとしても渡りに船だったからな。ギルドを作りたいって言ったんだ」
ラキがカナメの言葉をつないだ。
「そうしたらこの建物の持ち主が、それならぜひって言ったんだよね。ちょうど売りに出してるところだって」
「へぇー、じゃあ値段をまけてもらったとか?」
カナメは笑った。自分でもありえないような展開がその後に待っていたからだ。
「ところが違う。なんと偶然その場に居合わせたある人物が、融資を申し出てくれたんだ」
「えっ!?」
驚くフェリンたち。
「しかも無利子無担保。僕もあのときは本当に驚いたよ」
ラキも苦笑いだ。
「それで、お金を貸してくれたのはどんな人だったんですか?」
サナの問い。
「どこかの貴族様とか? 商売で財を成した大商人とか?」
フェリンは口元に指を当ててあれこれ口にする。
実はかなりいい線行っている。商売をしているという点は当たっていた。
「マスターのことだから……きっと美人。モンスターに襲われていたところを助けられた金持ちのご息女とか、そんなところだと思う」
相変わらずというか、スーはするどい。
美人というところも大正解。
「二人とも惜しいな。でも実際はもっと――」
言いかけたそのとき、カナメは気付いた。
外が騒がしい。がやがやと人々のざわめきが聞こえてくる。
「外でなにかあったのかしら?」
リエラが頬に手を当てて首をかしげる。
「ちょっと見てこようか?」
そう言って動き出そうとしたラキの足が止まる。
入り口のドアが開いたのだ。
現れたのはひらひらのついた高級そうな服に身を包んだ女の子。
ちょっとした金持ちのお嬢様が外出する時に身に付けるような感じだが、実際はもっと身分が上。
「君は――」
カナメは思わず背筋を伸ばした。
<<守護の盾>>のあるラタベグリア州の南隣りに位置する、マレダフラニア州王家の第二姫リセッタ。
あの日カナメに無担保融資を申し出た人物その人だった。
「カナメお兄ちゃん、久しぶり!」
リセッタはにぱっと笑って元気にそう言った。
「「「カナメお兄ちゃんーーーー!?」」」
フェリンたちの驚きの声が重なった。




