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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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フェリンの挑戦

 その日裏庭でフェリンの稽古の相手をしていたのはカエデではなかった。


「あまり私はこういったことは得意ではないのだが……」


 美しい銀髪をそよ風になびかせて、手に持った木刀を困惑顔で見つめるのは<<守護の盾>>屈指の実力者で<<絶剣の騎士>>と呼ばれるセスティナ。


「願い! 私、どうしても強くなりたいの!」


 セスティナは苦笑いで一つ息を吐いた。


「仕方ない。わかった。いつでもいいぞ」


 いつでもいいというわりにだらんと木刀を下げて、やる気のなさそうな構えを取るセスティナ。


「ありがとう! じゃあ……いくよ! 【疾風剣】!」

「なにっ!?」


 フェリンの体がかききえると同時にセスティナの顔色が変わる。


 カン!


 乾いた音が響く。


「受け止めた!?」

「避けるつもりが受けるしかなかった。たいした速さだ」


 フェリンの木刀を止めたセスティナは冷や汗をかいていた。


「セスティナさん、剣士じゃないんだよね?」

「ああ。私は武具士。装備を扱うのに特化した職種だ。剣士のスキルは持っていない」

「そんな……それなのに私の【疾風剣】を止めるなんて」


 フェリンの【疾風剣】は日増しに鋭さを増し、カエデからもお墨付きをもらうほどに鍛えられていた。

 それなのに剣士でもないセスティナに止められてしまったのがショックなのだろう。

 セスティナは木刀を下ろした。


「いや、私は身体能力を強化する装備をいくつも身に付けている。これらがなければ反応すらできなかっただろう」


 しかしフェリンは落ち込んだ顔だ。

 強力な装備を扱うことは武具士にとって当たり前。決して卑怯な事ではないのだ。

 そこへ、今まで黙って見ていたカナメが声をかける。


「俺もカエデもセスティナもお前の才能は認めている。あまり焦る必要はないと思うけどな」

「でもっ!」


 カナメを見るフェリンは泣きそうな顔をしていた。

 そしてフェリンはセスティナへ視線を戻す。


「セスティナさん……」

「私は剣士ではないからな。技術的なことは教えられない。装備による能力強化での力業では、これ以上フェリンの役には立てないと思うが……」


 フェリンはがっくりと肩を落とす。


「う、うう……」


 うつむいたフェリンの肩が細かく震えていた。


「お、おい。大丈夫か……?」


 カナメが伸ばした手がその肩に触れるか触れないかというところで、フェリンは顔を上げた。


「あはは。そうだよね。焦ったってしょうがない。とりあえずクエストでもいこうかな。いいクエストあるかなー?」

「そうか……」


 このときのフェリンの笑顔の裏に隠された思いになぜ気付けなかったのか。

 その日フェリンはサナやスーを伴わずに一人でクエストに出かけてしまった。



 --------



 フェリンがクエストに出かけて四日。

 カナメやラキ、リエラも様子がおかしいと心配の様子を濃くしていった。

 フェリンが受けたクエストはちょっとした村の見回りの任務だ。こんなに時間がかかるわけがない。

 スーとサナは一昨日から何度もカナメに不安を訴えていた。


 さすがにフェリン捜索のクエストを作るしかない――そう思ったときカナメは【大守護】の発動を感じた。

 慌てて【転移】ゲートを作って潜ってみれば、そこはどこかの原生林だった。

 おそらく人の踏み入らない手つかずの自然。

 フェリンはその地面に倒れていた。


「フェリン!」


 うつぶせに倒れているフェリンの肩を掴む。

 どうやらフェリンは意識を失っているようだが、目に見える傷はない。命に別状はなさそうだ。


「ってことはこいつが……」


 カナメは目の前の巨大なモンスターに目をやる。おそらくフェリンが倒れている原因となった相手だ。

 周囲の木々を押し分けるようにして、黒い巨体が存在していた。

 熊のような筋肉質。猫のような姿形。そして人間の何十倍はあろうかという巨大さ。

 巨大なモンスターは伏せるようにじっとしていて動かない。


「こいつ……死んでいるのか?」


 見ればモンスターの背中には大きな裂傷があり、そこから真っ赤な血が滝のように流れていた。

 カナメは【疑似生命流体】を自分の足にまとわりつかせ、バネのように使って跳躍。モンスターの背中に飛び乗った。


 鼻をつく異臭は単にモンスターの血の匂いだけではない。妙に焦げ臭かった。見ればモンスターの傷跡の周囲は真っ黒になっていて、ぐちゃぐちゃな破壊の後があった。

 モンスターの体に手を当てて確認する。体温は失われていて、冷たくなっていた。

 間違いなく死んでいる。


(まさか……これをフェリンが?)


 カナメはフェリンを回収して<<守護の盾>>へと戻った。

 <<守護の盾>>に戻り三階空き部屋に寝かせてしばらくして、フェリンは目を覚ました。


「よかった。目を覚ましたか」


 カナメは数時間ずっとフェリンに付きっきりで様子を見守っていた。


「マスター……? あれ、どうして……?」

「お前、巨大なモンスターの目の前で倒れていたんだぞ。いったいどこで何をしていたんだ」

「あいつ……マスターが倒してくれたの?」

「いや、俺が来たときにはすでに死んでいた」

「そっか……」


 フェリンはよほど体力を消耗していたのだろう。微笑む顔もどこか力ない。


「体、大丈夫か? どこかダメージを受けている個所とかないか?」


 フェリンは困ったように笑う。


「お腹、空いちゃった……」


 カナメはすぐに二階のキッチンへ向かった。

 カナメが作ったのは簡単なお粥。

 急ごしらえで作ったお粥でもフェリンはおいしそうに食べた。よほどお腹が空いていたのだろう。

 食べ終わったフェリンは事情を説明してくれた。


 なんとフェリンがいたのは人類圏の<<外>>。

 このミルタの町は<<外>>にもっとも近い辺境西端に位置しているが、それでも好き好んで向かう人間は少ない。

 フェリンの話では見回りクエスト中タカカ村の人に巨大モンスターのうわさを聞いたのだという。


 タカカ村はミルタよりもさらに西に位置していて、事実上の<<外>>との境界の村だ。

 特に討伐の任務でもないので、村の人にはただ注意しろとだけ言われていた。しかしフェリンはモンスターを探して<<外>>のかなり先まで行ってしまったらしい。

 そこでモンスターと死闘を繰り広げていたというわけだった。


「マスターは<<外>>で冒険をしてたこと、あるんだよね? あんなに凄いモンスターがいっぱいいるの?」


 カナメは<<外>>のはるか西、砂漠を越えた先で魔王を倒していた。


「そうだな。人類圏で見ないようなやつがうじゃうじゃいる。それで、お前はそこで……」

「うん。マスターやセスティナさんみたいに<<外>>で戦えば私も強くなれるかもって思って。最初はいけるって思ったんだけど、次から次に新しいのが来て……夜もほとんど寝れなかった。手持ちの食料が心配になって戻ろうとしたところで、あいつに見つかった……。その後はとにかく必死だった」

「みんな、心配していたんだぞ」

「ごめんなさい……」


 たぶん、強くなりたかったのだろう。あるいは修行のつもりとか?

 熱血というかなんというか、無茶苦茶をする奴だ。

 スーやサナに黙って行ったのはおそらく二人の成長に焦りを感じていたからだ。


 競争心を持つことはいいことだが、行き過ぎると同じことを繰り返さないとも限らない。

 だからカナメは言ってやる必要があった。


「この件についてはお前の口から、サナとスーの二人に言うんだ。なぜ無茶をしようと思ったのか。その理由も含めて、正直に」

「えっ……」


 フェリンの表情が曇る。

 無茶の理由は二人に対する焦り、劣等感だ。素直に打ち明けるのはきっと勇気が要ることだろう。しかしそれを乗り越えなければ同じことを繰り返してしまうはずだ。


「あいつらはお前のことをとても心配していた。本当に心配していたんだ。……もちろん、俺も。たとえばスーが同じように一人で<<外>>へ行ったらどう思う? ボロボロになって死にかけたりしたら」


 じっとフェリンを見つめるカナメ。フェリンも目を逸らさずカナメを見つめていた。

 やがてフェリンは小さくうなずく。


「うん。わかった。……心配かけてごめんなさい」


 カナメはフェリンの頭をくしゃりとなでた。

 フェリンはくすぐったそうな顔をしたがされるがまま身を任せていた。


「それで、例の大物を仕留めた技……あれって」


 フェリンはにやっと笑う。


「ふふ、それは【鑑定】してからのお楽しみ」


 どうやら本当にものすごい成果があったらしい。


「そいつは楽しみだな。裏庭の稽古で使うことがあれば見せてもらいたいな」

「あはは。ギルドの建物がメチャクチャになっちゃう」

「そんなに凄いのか」

「まあね」


 その後【鑑定】してわかったフェリンが習得したスキルというのは、Bランクの【爆炎剣】。これでフェリンもスーと同じくBランクの冒険者の仲間入り。

 もう超一流の冒険者と言っても過言ではなかった。


 そしてフェリンはその後ちゃんとサナとスーと話をしたらしい。

 無茶をしたフェリンに二人は相当お怒りだったとのことだが、結局三人はちゃんと仲直り。これでもうフェリンも一人で無茶をするようなことはないだろう。


 気心の知れたパーティーはお互い支え合ってこそだ。一人が後れを取るなら他の二人で支えてやればいいのだ。

 そのことをフェリンがしっかり理解したのだとカナメは信じることにした。

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