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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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岩の魔神

 封印されていた魔神の顕現。

 それは最初、周囲に散乱する山の破片――大量の岩の瓦礫に現れた。

 岩が寄り集まる。磁石で出来ているかのように動き、一か所に集まっていく。

 それどころかまだ崩れていない山もどんどんえぐれて、魔神の体を構成するパーツになっていく。


「うそ……これ……大きすぎる……」


 フェリンは青ざめてつぶやく。

 他の面々も呆然としてその威容を見上げるしかできない。

 山が動き出した。そう表現するのがしっくりくる。

 サナたち四人がいる中腹広場はその三分の一ほどがえぐれてしまい、なくなっていた。


 ここまで来るときに通った山道がどうなっているのか想像するのも怖い。無事に帰ることができるだろうか。

 いやそもそも目の前のこの化け物からどうやって逃げればいいのか……。

 民家数十戸ぶん、いやもっと……お城より大きい。

 サナたちなどこの怪物の足の指の先ほどの大きさしかない。


「岩でできたゴーレム? でもこんな大きさは……」


 スーのつぶやき。

 岩石の巨人は目だけが、まるでルビーをはめ込んだように真っ赤に輝いていた。

 サナもうめくように言う。


「これモンスターなの? だとしたら……」


 赤い目は人間に憎しみを向けるモンスターに共通のもの。

 もしこの巨人も同じように人間を襲おうとするのなら……。


「村に戻ってみんなを避難させなきゃ」

「やつの姿は下からもはっきり見えるだろうよ。勝手に逃げる。それより今は――」


 カエデがサナにするどく言って懐から紙束を取り出した。それを勢いよく放る。

 パラララララ……。

 手のひらほどの大きさの長方形の紙片。それが規則正しく空中に浮かび、並んで広がる。

 紙片の列はどんどん伸びて、巨人の腕へと向かっていく。


「【符術(ふじゅつ)降縛鎖(ごうばくさ)】!」


 紙片が巨人の岩の両の腕に、ビッシリと貼り付いた。

 巨人の顔が動き、カエデの姿をはっきりと捉えた。


「グ……ガ……」


 しかし腕は動かない。

 カエデのスキルが巨人の腕を拘束しているのだ。


「すごい、あんな巨大な腕を止めるなんて……ただの紙じゃないの?」


 スーの感嘆の声。

 しかしカエデは苦悶の声を上げる。


「ぐうう……ダメじゃ。抑えきれん……。腕を封じるだけのことすら、私ではできないというのかっ……」


 サナたちに向けられる巨人の腕は、倒れかかったまま止まった巨大な搭のようだ。その威圧感の凄まじさ。

 パキンッ!

 乾いた音が響く。


「破られたっ!?」


 フェリンが叫ぶ。

 自由になった巨人の腕が再び迫る。広場ごと叩き潰そうという一撃だ。


「くっ、いったん距離を――いかん、それではこやつらが」


 カエデは一瞬サナたち三人に目を向ける。


「【符術・斥力結界(せきりょくけっかい)】!」


 ズドオオオオオオオオッ!!

 ついに巨人の腕が広場に落とされる。

 凄まじい衝撃と音がして、その場にいた全員が恐ろしい揺れに巻き込まれた。

 目を開けたサナは、自分たちのいた広場が、半透明の薄青いドームに包まれていることに気付いた。


符術士(ふじゅつし)Bランクスキル。本来これは相手の力が強ければ強いほど、逆に強く押し返すことのできる結界を作るものじゃ。しかし、これは……」


 結界のドームは、周囲をぐるりと囲むように整然と並んで浮かぶ紙片の内側に作られていた。つまりこの紙片が結界を作り出す重要な役割を担っているのだろう。

 もう空は見えない。まるで洞窟の中にいるように、上は岩石の天井で覆われている。おそらくそのすべてが巨人の腕。


「私たち、助かった……の?」


 フェリンが岩石の天井を見上げながらつぶやく。

 しかしカエデは苦し気な表情を崩さない。

 ピシ……ピシ……。

 不吉な音が結界の周囲で響く。

 結界をぐるりと囲む紙片の列。その何枚かが破れて宙を舞った。


「結界が……狭くなってる!?」

「お主らは逃げよ。今ならまだ間に合う。結界を出て外へ向かうのじゃ」

「それじゃカエデさんがっ!」

「構うな! もう時間はいくばくもない! 早く逃げるのじゃ!!」


 それでも三人は逃げるどころか逆にカエデの体にくっつくように集まった。


「ダメだよ。カエデさんを放っておけないよ!」


 カエデは一瞬苦しそうに顔を歪めたが、牙を剥き出して笑う。


「カッカッカ! 私には後からでも一人で脱出できる手段があるのじゃ。何代にも渡って山を守ってきた山守をなめるでないわ! 早う逃げんか!」


 その口を大きく開けて、三人に牙を見せつけるカエデ。狼顔の大口にぞろりと並んだ立派な牙は子供を脅しつけるには十分なものだろうが、あいにくとこの場にいるのはただの子供ではない。冒険者だ。

 カエデが三人を逃がすために強がりを言っていることくらい、三人にはお見通しだった。


 まっすぐな目でカエデを見つめる三人。

 その間にも結界は軋みを上げて、紙片が次々とはじけ飛ぶ。

 カエデはその視線を受け流そうとして……失敗した。


「なぜじゃ……なぜ会ったばかりの私のことを、そんなに……」

「カエデさんこそ。自分の身を犠牲にしてまで私たちのことを守ろうとしてくれているじゃない」


 フェリンは真剣な表情。

 カエデはふとやさしい目をして言う。


「なんでじゃろうな? この数日で情が移ったのかもしれん。自分でもようわからんわ」

「それなら私たちも同じ。情が移った……ということ」


 淡々と言うスー。

 しかしカエデの奮闘むなしく、結界は徐々にその範囲を狭めていく。

 岩石の天井が少しずつ四人を押し潰そうと迫ってくる。


 サナは胸のペンダント――<<守護の盾>>のギルド証を取り出してぎゅっと握った。

 他の二人も同じようにペンダントを出して握っていた。

 ピシ……ピシ……。

 紙片の弾ける音だけが不吉に響き続ける。


「お主ら全員、大バカ者よな……。ぐっ……生かしたい。なんとしても……ぐっ……うううっ……」


 天井はもう立っていられないほど低く迫り、サナは恐怖に目をつぶる。

 カエデは小さくなった結界から背中を露出させて、岩に押し付ける。

 結界では支えきれない、ならば背で……ということかもしれない。

 あまりにも無謀な行為だが、この場にそれを笑う者は一人もいなかった。


「ぐううううっ……」


 ミシ……ミシ……。


 苦痛に歪んだカエデの口元から、血が滴り落ちる。

 サナも天井に背を押し付けた。フェリンとスーも続く。


「お主たち……」

「私たち冒険者はあきらめない。絶対にあきらめたりしない。そう決めたんだ」


 フェリンが力強く言って、サナがそれに続く。


「私も……スーちゃんに教えられました。たとえ一秒でも、一瞬でも……最後まで……」

「……」


 スーも、黙ってうなずく。

 ミシ……ミシ……ミシ……。

 結界の狭まるペースは衰えない。超重量の岩石の塊が四人の上にのしかかる。


「あうっ……」

「あああっ!」

「うううっ……」


 潰れる――。

 誰もが予感したその瞬間――。


「大丈夫か、お前たち」


 聞こえてきた声に、サナの瞳から涙があふれる。


「「「「マスター!」」」


 サナたち三人の歓声が重なった。

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