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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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カエデの実力

 結局その日も一方的に負かされたサナたちだったが、不思議といやな気持ちにはならなかった。

 獣人のカエデは暇つぶしだと言っていたが、サナたちは稽古を付けてもらっているような気がしていた。


 ボロボロになって帰ってきたサナたちを見て村人はクエストを遂行する意思を感じ取ったのか、宿にはまた泊まることができた。

 そして次の日も、その次の日も、サナたちは負け続けた。


 サナたちは本気も本気。全力で向かっていくのだが、カエデは教え子を見る教師のように軽くいなすばかり。

 全然、相手にすらならなかった。

 そして五日目。

 今日こそはと気持ちを新たに山の広場でカエデと対峙した。


「ふむ。まだまだやる気だのう。いい目をしておる」

「私たちだって冒険者。今日こそはあなたに勝つ!」


 フェリンはそう言って剣を抜く。フェリンの愛剣――クレナイの刀身はゆらりと紅い軌跡を残して正眼に構えられた。

 サナとスーもそれぞれハンマーと杖を構えた。


「やあっ!!」


 フェリンの踏み込み。速い。この数日でフェリンの【疾風剣】は数段研ぎ澄まされていた。


「むっ!」


 カエデが腰の剣を抜いた。それはフェリンのクレナイと同じような片刃の剣だった。


 キィン!


「剣を……」

「抜いた……」


 サナとスーのつぶやき。

 これまでの戦いでカエデは腰に差した二本の剣を、一度も抜いていなかったのだ。


「九十点。この五日で恐るべき成長よ」


 フェリンとカエデは一度距離を取る。


「では……今度はこちらから行かせてもらおうかの」


 カエデは言いながら剣を鞘に納めてしまう。


「剣を収めた?」

「どういうこと?」


 疑問を口にするサナとスーをよそに、フェリンだけはするどくカエデを見据えている。


「あれがあの人の戦闘スタイルなのよ。居合い。剣を抜く一瞬に全力を込める技……」

「ほう、知っておったか。さすが私と同じ片刃の剣を使う女子なだけはある。ではゆくぞ」


 カエデとフェリンが同時に動く。


 キィン!


 激突。そして再び金属音。


「私の速度についてこれたか。面白い!」

「まだまだ……はあああああっ!!」


 キキン!


 フェリンの裂ぱくの叫び。間断なく重なる二回の剣戟。


「【連剣】か。そう、剣士はスキルを複数用いて手数を稼ぎ、一対一で優位に立つのが基本。【疾風連剣】、見事であった」

「全部防いで……褒めないでよ……うぅ……」


 フェリンが倒れる。またしても背中に手刀の一撃を受けたのだ。

 カエデの顔がしかめられる。


「むっ……これは……」


 周囲の景色が変わっていた。ゴウゴウとうなりを上げて風が逆巻き、氷の破片が吹き付ける。


「魔法士Bランクスキル【ブリザード】。発生を潰されないだけの猶予をフェリンが作る……その瞬間を待っていた。しかも【ブリザード】は広範囲を氷の嵐で攻撃する魔法。いくら速くてもフィールドごと攻撃してしまえば避けられることはない」


 スーは杖を構えて魔法に集中していた。

 カエデはすでに四肢の先を凍り付かせながら、それでも笑う。


「カカカッ! やりおる。お主らは本当に稀有な女子(おなご)よ。では私も少し本気を出させてもらうとするかの……カアアッ!!」


 カエデは気合の叫びと同時に拳を突き出す。


 ゴッ!!


 カエデの拳を中心に物凄い勢いの爆風が巻き起こった。

 スーが作り出した【ブリザード】のフィールドはその爆風に吹き飛ばされた。


「うそ……」


 爆風の余波で尻もちを突かされたスーは震える手で杖を抱えて、呆然とカエデを見る。


「【剛風拳】。拳闘士Cランクスキルよ」

「BランクスキルをCランクスキルで打ち消した……そんなことが可能なの?」


 スーの驚きも無理はない。スキルのランク差による優劣は絶対的ではないにしろ、覆すにはよほどの力量差か強力な武器等が必要だ。


「さっき私と打ち合った一撃は【疾風剣】――剣士のスキルだった。カエデさん、剣士と拳闘士の両方のスキルを使えるの……?」


 倒れていたフェリンも驚きを口にした。


「うむ。だが本業は――むっ!? なっ、なんじゃこれはああああああっ!?」


 カエデは大口を開けて叫んだ。

 サナが回転していた。

 フェリンとスーが作った猶予の間にたっぷりと加速し、全力で。

 超威力の巨大ハンマーは【ワールウィンド】のスキルによって巨大な竜巻を発生させていた。

 周囲の岩山から砂や小石が舞って周囲に見境なく吹き付ける。


「私はフェリンみたいな技の冴えはない。スーちゃんみたいな高ランクのスキルも……でも、威力だけならっ!」

「この威力、この規模……ま、まずい……。おい娘! 止まれ。ここには魔神の封印が……」


 慌てるカエデをよそにサナの【ワールウィンド】は回転を続け、その破滅的なエネルギーを高めていく。

 その進行方向には広場中央の大きな丸い岩。あの岩がどうやら封印ということらしかった。


「ええい、仕方ない。この距離では少々痛いぞ。カアアッ!!」


 再び振るわれる【剛風拳】。カエデの拳から発せられた爆風が【ワールウィンド】で回転するサナの巨大竜巻とぶつかり――蹴散らされた。


「むう、これでもダメか……。では、こうじゃ。はあああっ!【地鳴拳】!」


 ドゴオオッ!


 地面を激しく叩くカエデ。直後地震のような揺れが襲う。


「あっ」


 短い悲鳴はフェリンのもの。

 サナが揺れに足を取られてよろけたのだ。

 巨大竜巻はその向きを斜めに変えて、そして前のめりに倒れた。


 ズガアアアアアアアアッ!!


 爆音。

 そして揺れ。

 サナの【ワールウィンド】は見事に封印の岩に直撃。真っ二つに叩き割ってしまった。

 割れた岩から黒い煙のようなものが立ち昇る。

 黒煙はどんどんと広がって広場周辺の岩山へと吸い込まれていった。


「なにが起こったの……?」


 フェリンのつぶやき。

 スーも煙が消えた先を見て表情を険しくする。


「今のは……」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


 突然の地鳴り。

 周囲の岩山、その切り立った崖からパラパラと小石が落ちてくる。


 ドゴオッ!


 そして轟音。

 サナが崖上を見上げる。周囲の崖に亀裂が走って割れ、巨大な大岩となって落ちてきたのだ。


「くっ」


 カエデが飛び出した。

 素早くサナの体を抱きかかえて跳躍。その直後にサナがいた場所に大岩が落下して辺りを揺らした。

 民家よりもはるかに大きい大岩が次々と落ちて積み上がり、広場の半分ほどが埋まってしまった。

 山の中腹にあった広場から見えていた、その崖の片側がすっきりとなくなってしまっていた。


「えと……これって、大丈夫……なの?」


 フェリンが恐る恐る聞く。


「魔神の封印。たしかそういう話だったはず」


 スーは本を読み返すように淡々と言う。


 ゴゴゴゴ……。


 揺れが収まらない。

 山が崩れてできた大岩はあらかた落ち切ったというのにだ。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……。


 音はどんどん大きくなる。


「だ……ダメじゃ……封印が……」

「「「封印が?」」」


 神妙に聞き返す三人。


「封印が解けてしもうたーーーーーーーーーー!!!!」


 カエデは頭を抱えて絶叫した。

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