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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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荒れ山の狼

 フェリンとスーとサナ。

 いつもの三人は今日もクエストに向かっていた。

 場所はユタハ村の近く。その山の上に住み着いているモンスターを追い払ってほしいというもの。


 討伐ではなく追い払えとは妙な依頼だが、クエストが出されるということは少なくとも村の住民では太刀打ちできないほど強いのだろう。


「それにしてもひっどい場所よね……」


 げんなりした口調で辺りを見回すフェリンに、スーも同意する。


「なにもない……生き物どころか、草木もほとんど見当たらない。埃に注意して。吸い込みすぎると喉をやられる」


 周囲は草木の生えない白っぽい岩山。険しい上り坂が続いていた。山風が吹けば地面の土埃が、体にまとわりつくように舞い上がる。

 緑はと言えば岩の亀裂のわずかな隙間から葉を伸ばす小さな枝くらい。


「ほんとですねぇ」


 サナも同意を示すが、実のところ少し懐かしさのようなものを感じていた。

 荒廃した岩山ばかりの景色は、故郷の山村を思い出すからだ。サナの出身の村も豊かな緑はなく、長年の採石で岩肌が削られて荒れた山に囲まれていたのだ。


「こんな場所にモンスターがいたって、村の人は放っておくって選択肢はなかったのかな? ふもとまで降りてきて被害を出したりはしてないんでしょ?」

「強力なモンスターはその存在そのものが脅威となる。実害が出ていなくても、村人は常に不安を抱えて生活しなくてはならなくなる。それはとてもつらいこと……」


 スーはスラスラと、教科書を読むように答える。スーが口にするのは大抵の場合、ぐうの音も出ない正論だ。


「ま、それが私たちの仕事よね。また賞金首だったりしないかな。そうしたら報酬も……ふふふ」


 にやーっと笑うフェリンは以前倒した賞金首の報酬を思い出しているようだ。

 サナたちはポタ村の人探しのクエストで入った森で、<<赤い月のギャドー>>という名の付けられた変異ブラッドベアーを退治したことがある。

 あのときは普段のクエストの報酬などかすんでしまうほどの大金が手に入ったのだ。


「でも賞金首って、それだけ討伐が難しい強敵ってことですよ。積極的に狙っていくのは危ないんじゃ……」

「サナの言う通り。フェリンはすっかり味を占めたみたいだけど、冒険者の世界では慢心は即、死に直結する……」


 フェリンは口を尖らせた。


「わかってるよー、もう。スーはほんと、いつもいつも心配性なんだから。今回のクエストは別に賞金首っていう情報はなかったよね。どうせ大したことない相手よ」

「そうかなぁ……」


 少し眉を寄せて上を向いて考えるサナ。


(村の人が討伐じゃなくわざわざ追い払ってほしいって頼むってことは……なにか理由がある気がするんだけどなぁ)


 三人は岩と砂だけの山道を登り、やがて開けた場所へと到達した。

 ちょっとした町の中央広場くらいの広さの空間。人工的にならされたような平らな地面。

 しかし町の広場と違うのは、その広場の中央にあったのが噴水や彫像ではなく丸い大岩だということだ。この広場が鍋のフタだとすると、大岩は取っ手といったところか。


 その広場の先には一軒のボロ小屋があった。適当な枯れ枝と土で組んだような、吹けば飛ぶような小屋。屋根は藁を乗せただけの物。

 その小屋の反対側には大きな滝があった。山のさらに高い場所から流れ落ちて、広場の外側に滝つぼを作っている。その水の流れ落ちる先はサナたちが登ってきた山の反対側。ちょうど森になっていたはずだ。


 滝の周囲にだけ、緑が生い茂っていた。地肌剥き出しの岩山と緑豊かな滝のコントラスト。

 切り立った岩山と岩山の中腹。その谷間に現れた、不思議な空間だった。


「うわぁ……」


 フェリンは感嘆の声を漏らす。幻想的な光景に思わず見入っているのだ。

 サナもスーも、この圧倒的な光景に言葉を失っていた。


「ここがモンスターの住処ってことでいいのかな……」

「モンスターじゃと?」


 どこかから声が聞こえた。


「きゃっ!?」


 きょろきょろと辺りを見回す三人。

 しかし声の主はいない。

 カラ……。


 背後で小石が落ちる音。

 はっとして振り向いた三人だったが、やはりそこには誰もいない。

 再び広場へと目を向けたとき、三人は驚くことになった。


 大岩の陰にでも隠れていたのか、つい今までいなかったはずの人物が堂々と姿を現していたのだ。いや、人物、と言っていいかどうかは定かではない。

 全身灰色の毛むくじゃら。モンスター、という言葉が脳裏をよぎる。少なくとも首から上は完全に狼の頭だだった。


 しかし狼はまるで人間のような二足歩行の立ち姿をしていた。

 二足立ちの狼はゆったりした黒い着流しのような服を着ていた。腰には二本の剣を差している。


「ここは私の住処である。……何用で参った?」


 声は意外なほど澄んでいてきれいだった。


「ええと、私たちは冒険者で。ここに強力なモンスターが住んでいるから追い払ってほしいっていうクエストを受けてきたんです」


 サナが説明した。

 狼人間は大口を開けた。その内側には獰猛な牙が並んでいた。


「カカカカッ! 私がモンスターとな? 追い払うと? 面白い。実に面白い。私もしばらく飽いていたところ。よかろう。この私に勝てればおとなしく立ち去ってやろう。全力でかかってくるがいい、冒険者の人間よ」


 狼人間のまとう空気が変わる。

 強烈な殺気が実体のない圧となって三人に叩きつけられる。


「きゃっ」


 サナが小さく声を上げた。

 フェリンが剣を抜く。


「やるしかない……か」

「言葉を話すことができるということは、モンスターなら上位種。たぶん強敵。……注意して」


 スーがするどく言った。

 踏み込んだフェリンが狼人間の目の前でかき消える。【疾風剣】による神速の踏み込み。

 しかし――。


「ふむ、なかなかいい踏み込みじゃ。五十点と言ったところか」

「きゃああっ!」


 フェリンの一撃を半身をひねって避けた狼人間が、その背中に手刀の一撃を浴びせる。フェリンはうつぶせに地面に倒された。


「フェリン!」


 叫んだサナも駆け出す。

 ブォン!

 振るわれたハンマーは当然のように空を切った。


「あっ」


 足になにかが当たったと思った瞬間、サナは前のめりに転ぶ。狼人間に足をかけられたのだとわかったのは完全にうつぶせに倒れた後。

 狼人間の周囲で乾いた音が響く。


 ピキ……パキ……パキ……。

 周囲の空気が急速に温度を低下させ、狼人間を氷の棺に封じ込めようとする。


「私は魔法が苦手でな。しかし魔法スキルは発生を潰せば効果を発揮できない。それが魔法士の弱点よ」


 狼人間は簡単に言うが、魔法士だってその弱点は熟知している。距離的に発生を潰すなど不可能だったはずなのだ。


「あ……」


 杖を構えるスーの、呆然としたつぶやき。

 いつの間にか至近まで移動した狼人間が、スーの杖を取り上げてしまった。

 移動速度が速すぎる。それとスーの魔法の準備を察知する感覚がズバ抜けているのだ。

 狼人間は木の杖をポイっと放る。


「カッカッカ! なかなかに楽しめた。私を倒したければまたいつでも来るといい。何度でも挑戦を受けよう。クエスト達成のため、励め。人間の冒険者よ」


 ボロ小屋へ帰っていく狼人間の後姿を、三人はただ黙って見ていることしかできなかった。

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