リーナの想い
その後のリーナは本当にかわいそうなくらい落ち込んでしまっていた。
さすがに申し訳なく思ったのか、フェリンとスーは早とちりを詫びて宿へと帰っていった。
そして<<守護の盾>>の営業時間が終わった。
サナは先に部屋に戻り、ギルドにはカナメとリーナとラキだけが残された。
リーナは、目にうっすら涙を浮かべてラキの入れたお茶を飲んでいた。
「あ、あのな……リーナ」
「うう……そうよね。カナメだもんね。絶対、女の子が放っておくはずないわよね……」
ぐすぐすと泣きながら、ちびちびとお茶に口を付けるリーナ。
「リーナ――」
カナメは正直どんな言葉をかければいいのかわからなかった。
リーナはカップを覗き込むようにうつむいて、ぶつぶつと言葉を続ける。
「昔は私もがんばってた……。カナメに言い寄ろうとする女はこっそり追い払ってたのに――」
「おい」
聞き捨てならない言葉だった。
「私がいない間に他の子に取られちゃうなんて……ラキさんならまだわかるけど……ううん、それもやっぱりいや。でも……あああっ、どうして……」
リーナはカナメの声が聞こえてないかのようにつぶやき続けている。
テーブルの上に、ぽたぽたと涙が落ちる。
「元気出せ……っていうのは違うかもしれないが、ほら、せっかく遠路はるばる来たんだから、いい加減泣き止め。お前は笑顔のほうが似合うと思うぞ」
顔を上げたリーナは表情をくしゃくしゃに歪めて大粒の涙をこぼす。
「だっで……だっでぇぇ……うううっ!」
「積もる話があるんじゃないのか? そのためにわざわざ営業時間が終わるのを待ってたんだろ。落ち込んで、泣いて、それで終わっちまっていいのか?」
「ううううううっ! うああぁぁぁーーー!」
大泣き。
(こ、困った! どうすりゃいいんだ!? 誰か助けてくれ!)
昔からリーナは落ち込むことは多かったが、そんなときは自信を持てと励ましてやれば元気を取り戻していた。しかし今回はカナメ自身が原因なのだ。カナメは困り果てていた。
ちらと目を向ければ、後ろに控えていたはずのラキの姿がいつの間にか消えていた。
誰かの助けは期待できないらしい。
「ほら、これ使え」
とりあえずハンカチを差し出してみた。
「うう……ぐすっ。ううぅ……」
素直に受け取って涙を拭うリーナ。
そして少しの沈黙。
他になにかしてやれることはないかと悩むカナメに、リーナがぽつりと言った。
「あの子、やっぱりカナメと……その……そういうの、なのよね?」
要領を得ないような言い方。
だが言いたいことはカナメにもわかる。
「ああ、そうだ」
「他の二人は……」
「同じだ」
カナメは即答した。
「さ、三人とも……」
リーナは硬い物で頭を殴られたような顔をした。
冒険者をしていたとはいえ、元々はお嬢様育ちのリーナだ。男女間の――エッチなことに関しては耐性がないのだろう。
しかし次にリーナが口にした言葉はカナメの予想を超えたものだった。
「抱いて……」
「なっ――」
リーナはカナメの腰に腕を回してしがみついた。
「お願い……私、カナメが好き。大好きなの。このままあきらめるなんてできない!」
「しかし、なぁ……」
リーナは腕に力を込めてくる。
「なんでもする! カナメがそうしろって言うのならもうワガママなんて言わない! だから――」
顔を上げたリーナは必死な表情をしていた。
「じゃあひとつだけ約束、聞いてくれるか?」
こくこくと頷くリーナ。
「お前も知っての通り俺は他の女の子たちとも付き合っている。だからお前を特別扱いはできない。お前は他の女の子に嫉妬しない……できるか?」
「う……」
いきなり目を逸らすリーナ。
「お、おい……困ったな。これが守れなきゃ正直俺は――」
「嫉妬は……する。だってカナメが好きなんだもん。でも……我慢する。これじゃダメ?」
「まあ行動に移さなければいいか。お前はこう、思いつめたら視野が狭くなるみたいなところがあるからな。ギルドを襲ったときは本気でビビったぞ」
「あれは……ごめんなさい」
しゅんとしてうつむくリーナの頭にぽんと手を置いた。
「よし、じゃあ今日は泊っていけ」
ぱっと顔を輝かせるリーナ。
「いいの!? 本当に!?」
「ああ」
(こいつもこいつで……可愛いやつなんだよな)
リーナの頭をなでながらそんなことを思った。




