牙を剥く邪悪
テリューは邪悪な笑みを張り付けて、結界の中で肩を寄せ合う者たちを見回した。
「まるで檻の中の獣だな。ほら、なにか面白い芸でもしてみたまえ」
「テリュー様……我々を助けに来てくれたのですか?」
兵士の一人が震える声で尋ねたが、賛同の声は上がらなかった。
その場の誰もがそれは違うと感じていた。
ゾンビとなったモンスターを従えて一人で現れたテリューは、あまりにも場違いで……不吉すぎた。
「いったいなぜ……こんなことを……私たちは仲間。国への忠誠を誓った聖騎士では……ありませんか」
リーナの声は疲労の色が濃く弱々しいものだった。
テリューは心底馬鹿にしきった、見下す目をして言う。
「はっ、仲間だと? お前と私が? 冗談を抜かすんじゃない。ぽっと出で陛下の覚えめでたい魔王殺しの英雄、それがこんな小娘だなどと……だれが認めるものか! しかも薄汚れた冒険者上がりと来たもんだ」
「貴様ァッ!!」
兵士の一人が激昂する。おそらく冒険者だろう。今回の作戦には決して少なくない人数の冒険者が兵士として参加していた。
結界の中の冒険者が叫ぶのと同時に、建物の陰に隠れていた別の冒険者がテリューへ魔法を放った。
「【ファイアーボール】!!」
「ふん」
テリューは襲い来る炎の塊をゾンビモンスターを盾にして防いだ。
結界に阻まれて行き場をなくしていたゾンビたちが一斉にその冒険者のほうを向く。
「あ……あ……来るな……やめろ……」
冒険者がいるのは結界の外側。つまり……。
ゾンビモンスターの群れに襲いかかられ、あっという間に彼の姿は見えなくなった。
「ぎゃああああああああああ!!」
絶叫。
ぐしゃぐちゅと肉を引き裂かれ食われる残酷な音がいつまでも続いた。
リーナは思わず目を背けた。
魔法士の冒険者はゾンビに食われて死んだ。
テリューは自分をかばって動かなくなった黒焦げのモンスターを投げ捨てる。
「聖騎士は競争だ。より高い位階を手に入れるにはより多く功績を上げなければならない。お前はここで死に、今回の作戦の殊勲者は私ということになる」
「そんなこと、許されるはずありませんわ」
リーナに続いて兵たちも口々に抗議の声を上げる。
「そうだ! こんなこと……許されていいわけがない!」
「貴様の暴挙、俺たちが証言してやる!」
兵士たちの目に強い光が宿る。聖騎士の名を借りた目の前の邪悪を、全員が糾弾していた。
テリューは余裕の笑みを崩さない。
「お前らはもう死んだも同然。死してなお証言台に立てるというのなら止めはしないが……そのために【不死兵団】のスキルを使うつもりはないぞ? ちなみに私の部隊は西門の外に待機させてある。当然、ここでの出来事を知る術はない」
「くっ……」
リーナは強く唇を噛んだ。
悔しくて悔しくてたまらなかった。
「安心したまえ。君たちは全員モンスターとの戦闘で討ち死に。マルガ奪還に大きく貢献したと報告してやろう」
圧倒的力を持つ聖騎士による死刑宣告。
兵士たちの強気も長くは続かなかった。
「いやだ……死にたくない……」
「リーナ様、俺たちどうすれば……」
リーナには返す言葉がなかった。
リーナの心も、折れる寸前のところまで追いつめられていたからだ。
(助けて……カナメ……私は……)
ドゴオオオオオオッッッ!
そのとき、テリューとは反対側――東側で大きな破壊音が鳴った。
続けて、遠くのほうで何人かの悲鳴。
「まさか……東門バリケードも破られた!? まずいぞ! モンスターが来る!」
誰かが叫んだ。
しかしテリューはニヤニヤ笑いを崩さない。
「いいや、モンスターではない。来るのは――」
(まさか……)
リーナは広場から伸びる大通りの、東側を凝視する。
最悪の予感は的中した。
堂々たる体躯に力を漲らせ、銀色にきらめく重鎧は周囲に威圧感を振り撒き歩く。手には巨大な黄金のハンマー。
テリューは両手を広げて得意気に宣言した。
「――私と同じ……聖騎士だ」




