表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/82

マルガ防衛戦

 リーナ率いる二千の兵は、今や半分の千人を割っていた。


「リ、リーナ様! 西門のバリケードが突破されました!!」


 悲痛な部下の叫びで飛び起きるリーナ。睡眠を取っていた間も鎧すら着たままだった。

 マルガ中央広場に張ったテントの中。


 気を失うように眠りについてから、まだ一時間も経っていなかった。

 鉛のように重い体を気力だけで動かしてテントを飛び出す。


「敵が! モンスターがああああっ!!」


 悲鳴はすぐ近くで聞こえた。

 突破された西門側から、モンスターたちが押し寄せてきていた。


「私が押し返します! みなさんは討ち漏らしたモンスターを押さえてください」


 南門や東門、北門にも防衛の兵を置いているため、本陣中央広場の兵は百名に満たない。


「グオオオオオオオオアアアアッ!!」


 一つ目の巨人――サイクロプス。町の建物に匹敵する巨体でこん棒を振り上げるその姿は、兵士たちの恐怖をあおるのに十分だった。


「ひぃぃいいいーーーー!! 無理だ! 助けてくれぇぇーーーーー!!」

「援軍は……合流の部隊はいつになったら来るんだ!」


 兵士たちの間には今や絶望が広がっていた。


「俺たちは見捨てられたんだ……」

「ちくしょうっ……もう食料も残ってねえ! どうすりゃいいんだ」


 逃げ惑う兵士たちとは逆に、まっすぐモンスターに向かっていくリーナ。


「はあああああっ!」


 ズバアッ!!

 リーナの剣が振るわれ、サイクロプスの足首が大きく切り裂かれた。

 【重剣】の効果で数倍の重みを、【剛剣】が威力を補い、【連剣】で多重に斬りつける。


 長い戦闘によって刃こぼれした剣は切れ味を失っていたが、リーナは複数のスキルを同時に駆使してモンスターと渡り合っていた。

 振るわれた巨大こん棒の一撃を横っ飛びに(かわ)し、その上に飛び乗って踏み台にする。


「やああああああああっ!」


 サイクロプスの一つ目は、リーナが目前に迫る瞬間なにを考えていたのだろうか。

 ぐしゅり、と鈍い音を立ててリーナの剣がサイクロプスの目玉を貫いた。


 地面を揺らして倒れるサイクロプス。

 兵士たちの間から歓声が上がった。

 リーナは兵士たちの声を背に再び地を蹴る。


 【陽炎剣舞】の残像が数秒の時間を置いて四体出現する。

 オーク、フレイムリザード、ブラッドベアーたちが次々となぎ倒されていく。


(もう……限界ですわね。体が動かなくなる前に、一気に西門を取り戻さないと……)


 疲労はもうとっくに限界を超えていて、全身の筋肉が悲鳴を上げていた。

 それでもリーナは止まらない。

 カナメとの約束を胸に、剣を振るい続ける。


(もう私は裏切らない。カナメの期待に応えるために、私は――)


 ただ臆病なだけだった以前のリーナなら、とっくに諦めてひざをついていただろう。

 今も怖い。カタカタと震える奥歯を必死に噛んで前を向く。目の前の敵に集中する――。


「えっ……」


 リーナの足が掴まれた。

 胴を両断されたはずのオークが、上半身だけを動かしてリーナを襲ったのだ。


 死んでいる。明らかにモンスターは死んでいた。

 なのに這って動いてリーナを地面に引きずり倒した。

 誰かが叫んだ。


「こいつら……死なねえ! う、動いてやがる!!」


 見ればたった今倒したばかりの他のモンスターたちも再び体を起こしていた。

 その顔は白目を剥いていて、生気が感じられない。


「リーナ様!」


 兵の一人がオークの腕を斬り飛ばしてリーナを引っ張り起こした。

 お礼を言う暇もなかった。

 次の瞬間兵士は、ブラッドベアーの爪に背中を裂かれて倒れた。


「あっ……あああっ」


 パニックになりそうになったリーナに別の兵士が叫んだ。


「リーナ様! 指示を!」


 我に返ったリーナは恐怖をなんとか抑え込んで声を上げる。


「中央広場に戻りますわ! 広がらないで! 固まって迎撃を!」


 本陣に押し寄せる生き返った死体の中には、人間の……兵士の姿もあった。


「あれは……グールなのか?」


 ヴァンパイアは噛んだ人間をグールに変える能力を持つ。しかし動く死体たちはそれとは違うように見えた。


「終わりだ……もう」

「神様……」


 生き残りの兵士たちは中央広場で肩を寄せ合い、祈りを口にしながら迫りくる死体の群れをただ眺めていることしかできなかった。

 その死体が突然、体を切り裂かれて動きを止める。


 広場に近づこうとするゾンビたちが、次々と体を裂かれて倒れていく。

 身を寄せ合って陣形を組むリーナたちの周囲に、人間の背丈の二倍ほどの長さの細長い刃が無数に出現していた。

 刃はリーナたちを、柵のように隙間なく囲う。


「【白刃結界(はくじんけっかい)】。私のスキルですわ」

「リーナ様……」


 【白刃結界】は自身の周囲を無数の刃で隔離、近づく者を切り裂く領域を作り出すものだ。

 しかしあくまで防御的な、時間稼ぎのためのスキルだ。


 ゾンビたちはしばらく無意味な行進を続けてその体を切り裂かれ続けていたが、やがて積み上がる死体の山の向こうから、人の声がした。


「やれやれ……私の可愛い【不死兵団(ふしへいだん)】をこうもたやすく退けてくれるとは。<<剣聖>>の二つ名は飾りではなかったようですな」


 聖騎士テリューだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ