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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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ルメルニリア州領土奪還作戦

 アールリーミル神聖騎士団は定員を百名とする狭き門である。

 どれほど優れた実力を持つ人間であっても定員に空きがなければ新たに選ばれることはない。

 もちろんリーナが聖騎士の九十八位に任ぜられたのは、ただ定員に空きがあったからだけではない。


 リーナがアールリーミルの名門アルシュタット家の出であることもさることながら、一番大きな理由は魔王を倒した功績が認められたからだ。

 そう。カナメが王都に戻らなかったので、二年前魔王を倒した主たる功績者はリーナということになっていた。


 王都北の州ルメルニリアがモンスターの大襲撃を受けた歴史的惨劇から二か月余り。

 聖騎士率いるアールリーミル軍は、ルメルニリアと<<外>>の新たな境界の町クーペラに集まっていた。

 クーペラ壁外野営地にはアールリーミル各州からかき集められた冒険者や州兵、傭兵等の総勢一万の人員が待機している。


 無数にテントが並ぶ野営地の中でも特に大きく目立つテントには、今まさに聖騎士三名が一同に会しての軍議の真っ最中だった。


「テリュー殿に四千、リーナ殿に二千、そしてこの私ミドーが四千の兵を率い、まずはそれぞれパーテラ、マルガ、ロオウの三つの町に進軍していただきたい。補給線を確保しマルガに合流後、カカルイユを奪還する作戦です」


 卓上の地図に指揮棒を走らせながら淡々と説明しているのは聖騎士二十二位のミドーだ。彫りの深い顔立ちで金髪碧眼の中年男性。隆々たる体格に見合った重鎧を着こんでいる。


「ちょっとお待ちください!」


 ミドーは感情の読めない顔をリーナに向けた。


「なにかね?」

「なにかね、ではありませんわ。どうしてテリュー殿、ミドー殿が四千で私が二千なのですか! それにマルガは中央ルート。最も兵が必要なのではありませんか?」

「おやおや、魔王を倒したリーナ殿とは思えない発言ですな。まさか自信がないとでも言うおつもりですかな?」


 ねっとりした声色で口を挟むのは聖騎士八十三位のテリュー。べっとりと張り付くような黒髪と不健康そうに痩せた体。青白い肌と細い目がどことなく爬虫類を連想させる。

 リーナはテリューには特に生理的な嫌悪感を抱いていた。


「そういう意味ではありません。それに私が魔王を倒したわけでは……。とにかく! 今回の作戦で一番重要なのはマルガへ向かう中央ルートのはず。そこへ割く戦力がたったの二千というのはどう考えてもおかしいですわ。それに総兵力だって! 一万というのはあまりに……」


 ミドーは目を閉じて小さく咳払い。


「今回の作戦においては、陛下が大きな関心を寄せておられる。早急に領土を奪還せよ、とな」


 陛下というのはアールリーミル王フィリップのこと。アールリーミル神聖王国においては聖女の次の地位とされているが、実質的な権力を握っているのは王だ。


 つまり今回の作戦は王の要求に応えるため前倒しされたのだろう。そのせいで兵力も十分に集まらなかったということ。

 しかしリーナは原因はそれだけではないとにらんでいた。


(聖騎士が三人だけしか派遣されなかったのは、この二人が功を焦ったからかもしれませんわね。他の聖騎士を出し抜きたかったか、貴族に働きかけて王に助言させたか……)


「ふん、雑兵などいくらいても我々聖騎士の役になど立つまい。モンスターどもの注意を引く撒き餌にでもなればそれでいいのだよ」


 テリューはそう言って陰湿な笑みを深める。

 たしかに聖騎士にはそれを大言壮語と笑い飛ばせないだけの実力がある。そうでなければ聖騎士にはなれない。

 しかし今までずっと冒険者として戦ってきたリーナには看過できない言葉でもあった。


「失礼ですがテリュー殿。あなたは冒険者の実力を過小評価しています。彼らは常日頃から決して妥協のできない敵――モンスターと渡り合っているのですよ。王都に引きこもってぬくぬくとしていればわからなくても無理もないでしょうけど」

「なっ――小娘!」


 テリューの笑みが一瞬ではがれる。

 怒りも露にこめかみに力が込められ、青白い顔に血管が浮く。


 リーナも侮蔑を視線に込めて真っ向から見返した。

 敵意が交錯し、卓上の緊張感が一気に高まる。

 止めたのはミドーだった。


「そこまで。両名とも落ち着かれよ。これは決定事項である。リーナ殿の言うことも一理ある。たしかに冒険者の実力はあなどれない。彼らは時に一人が一般兵十人、いや百人分の働きをすることもあろう。……なにが言いたいかわかるかね?」

「くっ」


 拳を強く握るリーナ。

 人数の多寡は実力で跳ね返して見せろということだ。冒険者を擁護する発言が上手く逆手に取られてしまった。


 聖騎士位階がそのまま実力というわけではないが、二十二位のミドーはリーナには及びもつかない権力がある。この場では彼の言葉がそのまま王の言葉だった。


「ふん、冒険者上がりの新参者が」


 テリューはそう吐き捨てて、浮かしかけた腰をイスに沈めた。

 リーナは言い返したかったが、ミドーににらまれれば沈黙するしかない。


「テリュー殿と私の部隊はパーテラ、ロオウ奪還後に守備隊として二千の兵を残してマルガへ合流する予定だ。リーナ殿は我々が到着するまでマルガで持ちこたえてくれればよい」

「わかり……ました」


 リーナはそう返事をするしかなかった。

 こうしてルメルニリア州領土奪還作戦は決行されることになった。

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