ご褒美?
夕方になって<<守護の盾>>に帰ってきた三人は、クエストの報告をした。
出発したのは昨日だから、人探しというクエストの難しさから考えれば、これはかなり早い仕事だと言えた。
営業時間が終わってもフェリンたちは宿に帰らず、カナメをテーブルに座らせて話を聞いてほしいとせがんだ。
武勇伝を語る三人は、全員が満足そうな笑顔を浮かべている。
「そこで私の【疾風剣】がズバババ! ってね。丸太みたいなモンスターの腕が宙を舞った!」
戦闘の顛末を語る段になるとフェリンの話にも熱が入る。カナメはそれを楽しんで聞いていた。
例のブラッドベアーの変異種は<<赤い月のギャドー>>という名が付いていて、賞金がかけられていた。とてつもない大金星だった。
三人には、少ないクエストの報酬などかすんでしまうほどの賞金が転がり込んでくることになる。
「そりゃすごいな。大冒険だったじゃないか」
「まあねー」
フェリンは本当にうれしそうに胸を張った。
「それにサナは【ワールウィンド】、スーは【アイスコフィン】か。お前たちもフェリンに続いてCランクにランクアップだな。おめでとう」
「えへへ……」
サナも照れ臭そうに笑う。
「あのときのサナのスキル、すごかった……。Cランクのものとは思えない威力があった」
スーはしみじみと言った。
【ワールウィンド】はたしかにCランクスキルだが、おそらくサナの持つ巨大ハンマーの威力も大きかったのだろう。サナ以外には重すぎて持ち上げることすらできないらしいが……サナは枯れ木のように軽いと言っていた。
サナは褒められて恥ずかしくなったのか話を先に進めた。
「そ、そうだ。旦那さんと再会した奥さんも、すごい喜んでましたよ。泣きながら抱き着いた拍子に旦那さんの足がまた痛んで、悲鳴を上げてました」
「はは、そりゃしまらないな」
「私の【ヒール】が未熟でごめんなさいって言ったら、今度は二人に謝られてしまって……」
「それで、その日は私たち全員お家に招かれて……村の人たちが代わる代わるやってきて大歓迎のお祭り騒ぎ。正直私はああいうのは苦手」
ため息を吐いたスーの声はしかし、心なしか弾んでいた。
それで一泊して、次の日も歓迎は続いたのだろう。帰ってくるのがこんな時間になってしまったことからも、村の人たちの歓迎ぶりがうかがえる。
カナメはラキの用意したお茶を一口すする。
「ん?」
ふと三人の視線がカナメに集まっていた。
テーブルにはお茶もお菓子もみんなのぶんは用意してあるから、たぶん別のこと。
「あの……マスター」
「なんだ?」
急に弱々しい声になるサナ。
他の二人も急に真剣な空気を帯びる。
「ご褒美……もらえませんか?」
(なるほど、そういうことか)
以前フェリンがCランクに上がった際には、ご褒美と言って頭をなでてやった。
「えと……じゃあ」
そう言ってサナの頭をなでようと伸ばしたカナメの手を、スーが静かに掴んだ。
「え?」
ゆっくり一度だけ首を振るスー。
フェリンが口を開いた。
「マスター、私たちがこんな時間になってから帰ってきたの……なんでだかわかる?」
言われて三人をそれぞれ見るカナメ。
(三人ともクエスト帰りとは思えないほどきれい……髪なんかわたぼうしみたいにサラサラだな。ん、こりゃ……)
石鹸の香りだ。
「もしかして、風呂にでも入ってきたのか?」
「せいかーい!」
にっと笑うフェリン。
だがそれならなぜスーは手を離してくれないのか。
「あの……子ども扱いしないでください」
上目遣いでそう言うサナはしかし、怒っている様子はない。
つまり、どういうことなのだろうか。
辺りを見回すカナメ。ラキはいつの間にか消えていた。
そしてその視線が階段上に向いたところで一つの可能性に思い至る。
(まさか――)
スーの手が離される。
「今日は三人で……ね?」
「あ、ああ……」
その日、フェリンたちはカナメの部屋に泊まっていった。




