恋人宣言
「「「ええええーーーーーーっ!!」」」
ある日の午後。<<守護の盾>>の一階フロアに女の子たちの叫びが重なった。
テーブル席から立ちあがって、カウンターに詰め寄るサナ、フェリン、スー。
「どうしたんだお前たち」
見ればテーブルに残っていたセスティナが苦笑いしていた。
移動距離の長い探索に出かけることが多いセスティナは<<守護の盾>>にいることは少ない。でも以前と違うのはたまに戻ってきたときにはこうして女の子たちとゆっくり会話を楽しむ余裕ができた、ということだろう。
今も四人はテーブル席で楽しく会話に花を咲かせていたはずだが……。
「マスター、セスティナさんにも手を出したって本当ですか?」
「ああ、そうだけど。そういえば言ってなかったな」
三人は複雑な顔でお互いに顔を見合わせて、それからカナメにジト目を向ける。
「まあ……私たちも……その……お互い独り占めはしないって、決めてたから。仕方ないって言えばそうだけどぉ?」
フェリンはあからさまに不満そう。
「マスターは、少し無節操過ぎる気がする」
スーは容赦がない。
「あはは……。私はマスターに無理を言ってお願いしたので……」
サナは苦笑いだ。
「サナも! ちゃんと言ったほうがいいよ。じゃないとこの調子でどんどん恋人を増やしていくんだから」
フェリンの言葉に、その場の全員が固まった。
「え? 私なんかヘンなこと言った?」
きょとんとするフェリン。
「いや……まあ、そう言えなくも……ないのか? ああ、いや……俺は男として責任を持たないとな。フェリンの言う通り。俺はお前らみんなと恋人だ」
「マスターと恋人……はわぁ……」
サナはさっそく夢見るような顔になる。
「私も……異論は……ない」
スーは恥ずかしいのか顔をうつむかせてぼそぼそ言う。
「ふふ、恋人か。まさか私にそんな存在ができるとはな」
セスティナもやってきて言った。
「こんにちはーーー。おお、今日はセスティナちゃんもいらっしゃって……」
おどけた様子でリミリーが入ってきた。
(セスティナをちゃん付けか……)
カナメが手を上げて応えようとするより早く、サナとフェリンとスーがあっという間に入り口のリミリーを囲んだ。
そしてなにやら話し込み始めた。
「「「ええええええーーーーー!!」」」
そしてまたしても上がる叫び。
再び全員カウンター前へ集まる。
フェリンは驚愕を顔に張り付けて言った。
「マ、マ、マスター、リミリーともしてたの?」
「あ、ああ。まあな……」
フェリンは天を仰いだ。
「なんてこと……マスターの恋人がまた一人」
「へ? 恋人?」
さっきまでの話がわからないリミリーは困惑顔。
「まあ、仕方ないか。私もマスターの恋人なんだし……。納得するしか……」
言いながらフェリンの視線がリエラに向かう。
自然と全員の視線もリエラに集まった。
リエラは不自然な笑顔で固まり、まつ毛の先すら動かなくなった。
少しの間。
やがてリエラは降参するようにゆるゆると手を上げた。
「はい。私も……そういう意味でしたら……マスターの恋人の一人です」
「はぁーーー……。そんなぁ……」
フェリンは盛大にため息を吐いてカウンターに寄りかかった。
「あはは。カナメはモテモテだねー」
ラキの能天気な声はいつもと変わらなかった。
「え? ラキさんはなんとも思わないの?」
フェリンが驚いたような声を上げた。
「なんで?」
ラキはいつも通りの笑顔。カナメもなんで他の子たちが驚いているのかわからなかった。
「ど、どうしたの? みんな」
全員に見つめられて、困ったような顔をするラキ。
そしてラキは、慣れた動作でカナメの前にすっとカップを差し出した。カップの中身は入れたてのお茶だった。
女の子たちが話をしてる最中にお茶を入れていたのだろう。
ちょうどお茶が飲みたいと思っていたところへの、完璧なタイミング。
「ん、美味いな。……お前たちどうしたんだ?」
女の子たちは、誰からともなくテーブル席に戻っていった。
みんな心なしか少し落ち込んでいるように見えた。
「勝てないって思ったんでしょうね」
ため息交じりのリエラの一言は意味不明だった。
「なんのことだ?」
「なんでもありません」
微笑むリエラはもういつもの調子に戻っていた。




