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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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因縁との決別

「間一髪……ってところか。もう大丈夫だ」

「マ、マスター……」


 転移ゲートから現れたカナメはリミリーに笑顔を向ける。


「ちくしょう! 放しやがれ!」


 リミリーに剣を突き付けた格好のまま、ライルが叫ぶ。

 カナメはライルを無視してリミリーに言った。


「こいつがお前を殺そうとしたってことでいいんだよな?」

「う、うん」

「よし」


 カナメの拳がライルの顔面に突き刺さる。


「ぐぎゃっ!?」


 ひっくり返るように倒れたライルの顔面をさらに踏みつけるカナメ。


「ぐえあっ!」

「拘束した女の子をこんな小屋に押し込めて……。正直、吐き気を催す」

「マスター! 危ない!」


 パドゥがナイフを抜いてカナメに襲いかかった。


「ん? なにかしたか?」


 しかしナイフはカナメの首を捉えたかと思われた瞬間、ピタリと動きを止めた。

 カナメの体を覆う輝くもやに阻まれたのだと、リミリーにもなんとなくわかった。


「バカな……」


 パドゥの、信じられないとばかりのつぶやき。

 カナメはパドゥの体も引き倒して、ライルといっしょに床に転がした。


「ひ、ひぃ……俺はもう逆らわねぇ! そのエルフにはもう手を出さねえよ! だから許してくれ!」

「俺が悪かった。口封じしようなどと……」


 観念したのかライルとパドゥは命乞いを始める。


「口封じ?」


 ぎくりと顔を強張らせるパドゥ。口を滑らせたことに気付いたらしい。


「その二人が私を<<逃げ足>>に仕立て上げた、張本人なんだ」


 リミリーはこれまでのいきさつと二人の身勝手な動機をカナメに教えた。


「救えないな」


 冷たく言い放つカナメ。


「たっ助け――」

「金をやる。冒険者として今まで稼いだ金を――」


 輝くもやが二人の頭部を貫いた。

 動かなくなった二人をリミリーは静かに見つめた。


「マスター、ごめんね。手を汚させちゃって……」

「構わないさ。お前に復讐なんて似合わない。今までずっと<<逃げ足>>の汚名を被って耐えてきたような、心やさしい女の子にはな」


 そう言って自分を見るカナメのほうが、よっぽどやさしい目をしているとリミリーは思った。

 カナメは抱き起すようにリミリーを立ち上がらせた。


「そういえばマスター……なんでここに?」

「お前が助けを呼ぶ声がした……っていうのはカッコつけすぎか。俺のスキルの効果だよ。……けがはないか?」


 リミリーの拘束を解いたカナメが、その顔をじっと見て言った。


「……う、うん」


 心から気遣ってくれているようなカナメのやさしい声色。胸の奥にあたたかい気持ちが広がる。

 リミリーは思わず涙がにじむのを感じた。


「あはは。恥ずかしいとこ見せちゃったね。<<逃げ足>>のリミリーが聞いてあきれるよ」


 カナメは笑わなかった。


「悪意ある人間はモンスターよりよほどタチが悪い。もしお前を苦しめるような人間がいれば、必ず俺がお前を助けてやる。絶対に」

「私……エルフなのに」

「ばーか。エルフだとか人間だとか、そんなものは関係ない。お前は大事な――<<守護の盾>>の仲間なんだ」

「マスター……」


 思わず涙があふれてしまって、リミリーはそれを指で拭った。


「じゃ、<<守護の盾>>に帰るぞ」


 リミリーははっとして叫んだ。


「待って! それどころじゃない! フレイムリザードに村が襲われてるの!」

「なんだって!?」


 飛び出したカナメに続いて小屋の外に出たリミリーは目を疑った。

 あの日の地獄の再現だった。


 人々は逃げ惑い、転んだ端から食われて死んでいた。丸焦げで転がっている死体もあちこちにある。

 カナメの体にまとわりついていた白いもやが、まるで蒸気が爆発するように膨れ上がった。


「きゃあっ!」


 思わず声を上げるリミリーの視界で、信じられないことが起こる。

 フレイムリザードの巨体にもやが絡みついたと思った瞬間、その体がバラバラに引き裂かれる。一匹、二匹、三匹。


 あっという間にモンスターはすべて沈黙した。

 だが村の建物はそのほとんどすべてが炎に包まれてしまっていた。

 死者の数も多い。


 もうこの村は終わりだった。

 生存者を探して村を走るリミリーとカナメ。炎上する民家中も含めて探して、何人かの生き残りを発見することができた。

 そしてさらに捜索を続けていると、地面に座り込むようにして倒れ込んでいる一人の中年の男を発見した。


「あ、あう……ああ……」


 村長だった。

 村長は怯え切った目をリミリーに向けている。


「もう大丈夫ですよ。モンスターはすべて始末しました。生存者も、大人が六人子供が五人。向こうに集めています」

「ひっ……ひぃぃーーー!」


 村長はバタバタと手を振りながら、ズリズリと尻を引きずって後ずさる。


「どうしたんだ? この人」


 その様子が明らかに他の生存者と違うことに気付いたのだろう、カナメは首をかしげていた。

 リミリーだけが村長の怯えの意味を知っていた。

 村長は、自分が売ったリミリーに怯えているのだ。


(この人を殺すのは簡単。マスターに本当のことを言ってもいい。でも……)


 リミリーは少しの間、目を閉じた。


(ケイト……やっぱりまだ、私にはわからない。マスターのおかげで、またわからなくなっちゃった。結論なんて出ない……。まだ悩み続けなきゃいけないみたい)


 リミリーは力強い笑みを浮かべて手を差し出した。


「生き残ったみんなを、近くの町まで連れて行くよ。<<逃げ足>>の名にかけて、あなたたちを絶対に――逃がしてあげる」


 <<逃げ足>>の二つ名はこの日から、名誉あるものに変わっていくこととなる――。


「おおお……うっ……うううっ……うううぅぅーー!!」


 リミリーの手にすがりついて、村長は大声で泣いた。ずっと泣き続けていた。

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