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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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人間とエルフ

 リミリーは暗い洞窟の中を、ランプも持たずに迷いなく進む。

 リミリーの右目には、真っ赤な十字の紋様が浮かび上がって輝いているのだった。

 【猟神憑依(りょうしんひょうい)】。あの日獲得したAランクスキル。


(よく見ないで急いで選んじゃったけど、もっと楽そうなクエストにしておけばよかったかな)


 <<守護の盾>>でのカナメたちとの会話で気まずくなって、つい逃げるように適当にクエストを選んで出てきてしまったのだ。


 内容はさらわれた村の娘の救出。住民が森の奥へ連れていかれる少女を見ていたそうだ。方角から見てこの洞窟で間違いない。

 緊急性の高いクエストながら、村で確認した限りではまだ他のギルドの冒険者は来ていないらしい。


(以前の私だったらなにを言われても平気だったはずなのに……)


 むしろ自ら進んで<<逃げ足>>の二つ名を公言していたくらいだった。

 <<守護の盾>>の女の子の口から噂の内容を聞かされると、なぜか胸が痛んだのだ。あの子たちにリミリーをエルフだからと見下すつもりはないとわかっていても、どうしてもあの場に居づらかった。


 【猟神憑依】の特殊視界が、曲がりくねる洞窟の形状を浮かび上がらせる。前方を曲がった先に、粘土で作った人形のような――ぼうっと赤く光るシルエットとして、何者かの存在を感知する。

 リミリーは足元の小石を拾って、まっすぐ先の壁に投げつけた。


 カツン。

 小石が壁に当たって音を立て、赤いシルエットが気付いてこちらへ歩いてくる。

 そいつが曲がり角から顔を見せる前に、リミリーは構えた弓矢を解き放った。


「グギャッ!?」


 矢は曲がり角のギリギリのラインに狙い違わず飛んでいき、モンスターが顔を出した瞬間に命中。頭部を貫いた。

 体温を失って久しい青ざめた体を地面に横たえ、モンスターは動かなくなった。


「グール……。相手はヴァンパイアね」


 ヴァンパイアは血を吸った人間をグールに変え眷属とする。かなりの上級モンスター。


「いやな洞窟……。あの日を思い出す……」


 リミリーはじめついた洞窟内を進みながら、過去の――三年前の記憶を思い出す……。

 獣人種やドワーフ種と同じくエルフ種も人間からは下に見られていた。

 そんなエルフのリミリーが冒険者として人間たちから一目置かれるようになったのは、あるエルフの女性のおかげだった。


 ケイト。

 いつも厳しい顔をしていてほとんど笑ったことのないケイトは、リミリーが出会ったときにはすでに優れた冒険者だった。


 ケイトと共に数々のクエストをこなしていくうち、他の人間たちからパーティーを組まないかと誘われることも多くなった。

 リミリーは何度か彼らと冒険をするようになった。


 そしてあるクエストで向かった洞窟の奥で、信じられないものを目にした。

 ヴァンパイアを守るようにして囲うグールの集団の中に、パーティーメンバーの妹がいたのだ。


 妹の名を叫ぶ剣士のライルは動揺で隙だらけになっていた。ライルにグールの牙が突き刺さる寸前で、ケイトのナイフがグールを頭を捉えた。

 グールとヴァンパイアをすべて始末した後、ライルはケイトを激しく責め立てた。


『血も涙もないエルフめ! なぜ妹を殺した! 薄汚い冷血女が!』


 グールとなった人間は助からない。あなたを殺そうとしていた。そんな当たり前の反論をケイトはしなかった。ただ罵倒されるまま、黙っていた。

 そして帰りの道中、通りかかった小さな村がフレイムリザードの大群に襲われているのを発見した。


 一匹一匹が家屋ほどもあるフレイムリザードは明らかに変異種だった。炎のひと吐きで家が燃え、周囲は火の海となっていた。

 ライルは村を見捨てて逃げるべきだと提案した。リミリーも自分たちの手に負える相手ではないと心のどこかではわかっていた。それでも見捨てられなかった。


 パドゥはライルの意見に賛同したが、リミリーは到底受け入れられなかった。

 リミリーが飛び出してケイトがそれに続いたのをきっかけに、なし崩し的にモンスターと戦闘に突入した。


 生き残った村人たちを逃がすため四人は奮戦したが、ついに限界が訪れた。

 退却を意識したケイトが時間稼ぎに【束縛の根】を召喚。木の根に絡みつかれていたフレイムリザードたちだが、その拘束は長くはもたなかった。炎を吐き出すモンスターに樹系のスキルは相性が悪かった。


 リミリーも村人たちの後に続いて逃げ出そうとしたその時だった。

 ライルが……ケイトの背後からその足を斬りつけた。


 ケイトを囮として置き去りにするつもりだった。

 リミリーは激昂した。しかしもう矢は尽きていた。逃げるライルたちをただ見ているしかなかった。


『逃げなさい……リミリー』


 倒れたケイトを抱き起して泣き叫ぶリミリーに、ケイトは諭すように言った。

 リミリーは癇癪を起した子供のように泣き続けて首を振っていた。


『見て……私はエルフじゃないの。人間なの』


 ケイトは魔道具の付け耳を外して寂しそうに笑う。


『あなを騙していたの。人間らしい、ずるい女でしょ? だから気にする必要なんてない。早く逃げるのよ』


 なぜケイトがわざわざエルフの振りをして冒険者をしていたのか、リミリーには最後までわからなかった。そしてその真実を知る機会は永遠に失われた。


 フレイムリザードの放った炎が二人を包む。

 肉の焦げる匂いに吐き気がこみあげる。

 リミリーに抱き着くようにして庇ったケイトは、全身が黒焦げになって地面に横たわった。


 フレイムリザードは口を大きく開けて炎の二射目を吐き出そうとしていた。

 時間が止まったような気がした。

 炎が視界いっぱいに広がる瞬間、どこに体を投げ出せばいいのかすぐにわかった。


 転がるリミリーの体を避けるように炎が周囲を焼いたが、それは奇跡ではなかった。

 リミリーは走り出した。

 【猟神憑依】のスキルに目覚めたリミリーは、どのルートを走れば助かるのか、地面に道が敷かれるような感覚として見えていた。


 リミリーを追い詰めるフレイムリザードの爪を、【猟神憑依】の全方位視界で捉えて避ける。背後から迫る炎の死角も、色で塗り分けられたようにはっきりと感知できていた。


 極限まで酷使された筋肉は悲鳴を上げ、ともすれば転びそうになる。しかし【猟神憑依】がどう体を動かせば転ばずに走れるかを自動で補正する。


 長年の修練で獲得する他、こうした極限状態で新たなスキルに目覚めることは、冒険者の間で稀にあることとして知られていた。


 そして命からがら逃げ伸びて、当時所属していたギルドに戻ったリミリーを待っていたのは残酷な現実。

 追放処分。ケイトを斬りつけて逃げたのはリミリーだということになっていた。


 【鑑定】すればわかると主張するリミリーを、その場の誰もが相手にしなかった。周りの態度でわかった。ここには最初からリミリーの味方はいなかったのだと。


 急に活躍して調子に乗っている、いけすかないエルフの二人組。それが彼らの本音だったのだ。

 その日からリミリーは冒険に対して前向きな気持ちになれなくなっていた。どこかいつもやる気がなかった。


 人間への恨みはあったが、命がけで救ってくれたケイトもまた人間だった。

 人間の醜い部分と美しい部分を同時に見て、リミリーはどうしていいのかわからなくなってしまった。


 そしてその悩みを抱えたまま、今日までこうして生き延びている――。

 洞窟の最奥にヴァンパイアの存在を感じて、リミリーは回想から現実に引き戻された。


「さっさと終わらせて帰りましょ」


 リミリーは弓を構えた。


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