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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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裏切りの真相

 ミルタの町のとある金持ちの屋敷。その一室にリーナはいた。

 貴族でもない商人の成金程度では、王都からやってきた聖騎士には頭が上がらない。この屋敷は今リーナとその部下たちによってほとんど貸し切られている状態だった。


 リーナは豪華な模様がほどこされた白いティーテーブルにひじを突いて、カップの中の紅茶を見つめていた。


(今度の作戦は大きなものになる。私の力だけじゃ……。ダメ……やっぱり私にはカナメが必要。でも聖騎士の私はいつまでも王都を離れていられない……時間がないのよ……)


「リーナ様。また早馬が。急ぎ王都に戻り軍に合流せよとのお達しで」


 部屋に入ってきた部下の男が言った。


「静かにして。今は一人にしてちょうだい」

「しかし……」


 部下の男は食い下がるが、リーナはそれを無視した。

 リーナは自身の思考に沈んでいく。


 思い出されるのはカナメの笑顔だ。

 しかしそれは今日会ったカナメのものではない。もっと若い――リーナたちが魔王を倒す以前のものだ。


(カナメはよく言ってくれた。もっと自信を持てって……。私はいつもその言葉に励まされ、支えられてきたのに……)


 カタカタカタカタカタ……。

 リーナが指をかけるカップは震えて、音を立てていた。


(いやだ……怖い……。私一人じゃモンスターの大軍なんて相手にできない……。助けてよ、カナメ……)


 今回<<守護の盾>>へ来たのだって、軍規違反ギリギリの行為。戻れと迫る手紙は、徐々に強い警告の内容になってきていた。


 時間がない。

 カナメを強引に奪取する<<守護の盾>>襲撃に踏み切ったのは、焦りのせいだった。

 部屋のドアがノックされる。


「リーナ様! <<守護の盾>>のギルドマスターをお連れしました」

「カナメ!! ……あ」


 ぱっと表情を輝かせたリーナだったが、拘束されるでもなく堂々とラキを伴って入ってきたのを見て固まった。


「ようリーナ。ふざけた真似をしてくれたな。手下を使って襲撃をかけるなんてよ」

「だってあなたが! カナメが私の誘いを断るから!」


(違う! カナメは悪くない! 悪いのは全部私!)


 心とは裏腹に意地を張ってしまう自分が憎らしい。


(ああ! また嫌われちゃう! いやな女だって……)


「話してみろよ」

「えっ?」


 カナメは意外なことに、やさしい声色で言った。


「もし俺とお前の間に誤解があるんだとしたら、一度くらい話を聞いてやってもいい。どうだ?」


 カナメの横に立つラキがぺろっと舌を出した。


「ごめん。リーナの本当の気持ち……僕が話しちゃった」


 かあっと頬に血が上る。

 恥ずかしくて恥ずかしくてどうしようもない気持ちでいっぱいになる。


「人払いを! この方たちを除いて全員、部屋を出なさい!」


 部下の男が慌てた。


「しかし……それは」

「いいから!!」


 最初から部屋にいた部下の男と、カナメを連れてきた黒装束の全員が部屋を出て行った。

 残されたのはカナメとラキとリーナだけ。


「ラキさん……本当にいやな人。いつもいつも当たり前みたいにカナメのとなりにいて。私、あなたが大嫌いだったの。知ってた?」


 ラキは困ったように頬をかいた。


「あはは……」


 リーナは紅茶を一口飲んだ。


「いいわ。全部話してあげる。……本当のことをね」


 リーナは話し始めた。

 魔王を倒したあのとき、レグザールと共にカナメを裏切ることになった、その経緯(けいい)を――。


 リーナはカナメにひそかに想いを寄せていた。

 しかし元々素直ではない性格で、自分の気持ちを伝えることができず、カナメもリーナの本心に気付く様子はなかった。


 事態が大きく動いたのは魔王を倒した後だった。

 魔王城の探索に散った仲間たちのうち、リーナと行動を共にしていたレグザールが言ったのだ。ずっと前から好きだったと。愛の告白だった。


 リーナは断り、逃げ出した。

 そしてしばらくの後、別の場所でレグザールがラキに薬を飲ませて眠らせるところを目撃した。


 問い詰めたリーナになにも答えずに、レグザールはラキを抱えて城を出てしまった。

 慌てて追いかけたリーナが城から出たところで、レグザールは一冊の本を押し付けてきたのだ。


 そこに書かれていたのは、最後に残った一人が次の魔王になって城から出られなくなるという呪縛についてだった。

 リーナは戻ろうとしたが、レグザールに押しとどめられて足が止まってしまった。手遅れだと心のどこかで思ってしまった。


 レグザールは必死だった。カナメは死ぬわけじゃない、いつか助け出せる日は来ると……そんなことをまくしたてていた。

 到底納得はできなかったが、それでもリーナの足が動くことはなかった。


 そしてラキだ。

 砂漠の行軍中目を覚ましたラキは、城に戻ると言って聞かなかった。


 レグザールはラキを大岩に縛り付けて拘束した。スキルで抜け出せないよう結界まで仕込んで。レグザールは勇者と呼ばれていたがそれは職業ではなく神託だ。彼は本来、優秀な魔法士だった。

 ラキに暗い感情を抱いていたリーナはそれを黙って見ていた。


「それが私の罪。カナメに嫌われても仕方ない。私は魔王城に戻らなかったばかりか、醜い嫉妬に駆られてラキさんまで……ほんと、最低の女よね」


 長い話を終えたリーナはそう言って肩を落とした。


「ああ、最低だな」


 うつむいたリーナの頭にカナメのチョップ。


「痛っ!」


 思わず顔を上げたリーナの目に飛び込んできたのはカナメの笑顔。


「ほんと、バカな女だよお前は。でもな、バカさ加減なら俺もお前とそう変わらないかもしれないな。あのときのお前の必死な訴えを、ただの命乞いだなんて勘違いするんだからな」

「あっ――」


 リーナは両手で口を押えた。

【大守護】が発動したカナメがリーナたちの前に現れたとき、レグザールはカナメを口汚く罵った。その様子からは醜い男の嫉妬がはっきりと見て取れた。


 レグザールがカナメに放った魔法を見て、リーナにはレグザールがカナメを殺すつもりだとはっきりわかった。

 しかしカナメはあっさりとレグザールの首を斬り飛ばしてしまった。


 あのときはパニックになっていて自分がなにを言っていたのかよく覚えていない。

 たぶん、ごめんなさいと謝り続けていたと思う。


 それから、カナメをあのままにしておくつもりはなかった、助けるつもりだったと。状況を考えればそれは命乞いにしか見えなかっただろう。


(でもカナメ、今……勘違いだったって。そう言ってくれた……)


 涙があふれる。

 思いが通じたうれしさで涙が次から次にあふれてくる。


「うっ……ううっ……うあああああ……ああぁぁ……」


 リーナは泣いた。声を上げて泣き続けた。

 二年間心の奥に残り続けていたなにかが溶け出すようだった。

 少しして、カナメが言った。


「それと、ラキのことだ。お前がなにを勘違いしてたか知らないけどな、俺とラキはお前が思っているような関係じゃない。お前も知っての通りこいつは男だからな。俺にそういう趣味はねえよ」

「えっ!? ええええええっ!?」


 恥ずかしくて死にそうだった。

 ラキは女の子より女の子らしくて、それでリーナはてっきり二人はそういう関係だと思っていたのだから。


「だがギルドを襲ったのはやりすぎだ。ギルドメンバーを傷つけないように厳命はされてたみたいだったが……万が一があったらどうするつもりだったんだ」

「ごめんなさい……」


 リーナは再びしゅんと肩を落としてうつむく。


「それで、力を貸してほしいって件だがな……」


 リーナはどくんと胸が鳴るのを感じた。強い期待に思わず顔を上げる。


「悪い。俺は<<守護の盾>>のギルドマスターだ。やっぱりいっしょに行くことはできない」

「あ……」


 ふくらみかけていた希望が急速にしぼむ。

 リーナの肩にカナメの手が置かれた。


「お前は<<剣聖>>と呼ばれるほどの腕前を持った聖騎士――しかも魔王を倒したパーティーの一員だろ? もっと自分に自信を持て。お前ならきっと自分の仕事をまっとうできる。俺はそう信じてるよ」


 ――自信を持て。

 その一言がリーナの心に熱く熱く染み渡る。


 いつだってその言葉に勇気をもらっていた。本当は臆病な自分を、その言葉がいつも奮い立たせてくれていた。

 リーナは泣き腫らした目を乱暴にこすって、胸を張った。


「わかりましたわ。このリーナ・アルシュタット。聖騎士の名に恥じない働きをして、あなたをあっと驚かせて差し上げます」

「その意気だ」

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