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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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三人のプレゼント

 その日の夜。カナメの部屋のドアがノックされた。


「どうぞ」

「おじゃましまーす」「……おじゃまします」


 入ってきたのはフェリンだ。もちろんスーもいっしょ。


「どうしたんだお前たち」

「あ、マスターもしかしてお仕事中だった? 私たち邪魔しちゃったり……」

「いや、全然」


 机に広げていたのはギルドの帳簿。ラキの仕事だから当然間違いなどないのだが、一応マスターとして目を通しておく必要があった。

 フェリンは楽しそうな笑みを浮かべた。


「ふふふ、これなーんだ?」


 フェリンが出したのは長方形の白木の箱。


「もしかして……」


 昼に急にギルドを飛び出していった三人。その理由がようやくわかった。


「そ。プレゼントだよ」

「開けていいか?」

「もちろん!」


 箱の中には赤い布が敷かれていて、その上に一本の短剣が収められていた。

 凝った意匠ではないが、鞘から抜けばいかにも切れ味のよさそうな刀身が、部屋の明かりを反射してぬらりと光った。


「マスターは【大守護】しかスキルがないんでしょ? 護身用にナイフの一本でも持ってたほうがいいと思って」

「ああ、そういうことか。俺の武器なら……」


 そう言ってカナメは視線を別の場所に向ける。ベッドの枕側の壁には、一本の弓がかけられてあった。


「弓? マスターって弓士なの?」


 カナメは立ち上がって弓を持ってくる。

 机の上に置かれた弓は沈んだ赤い色をしていた。


「違うよ。弓士のスキルも当然、持ってないからな」

「……凄い装備には見えない。ありふれた、古ぼけた弓みたいだけど……」


 スーの率直な感想。


「魔弓ランクル。俺が冒険者の頃使っていた物だ。武器としての性能は……まあ普通の冒険者ならこいつを使おうとはしないだろうな」

「魔弓……」

「もしかして、希少装備?」


 フェリンとスーはまじまじと弓を眺める。


「一応な。だが別にたいした能力じゃない。単に命中精度が高いだけだ。弓士のスキルを持たない俺でも、的に当てられる程度のな。そしてその代償として、使用者は一切のスキルを封じられる」

「それって……」


 フェリンは困惑した表情を浮かべる。使えない武器だと思ったのだろう。先に気付いたのはスーだ。


「マスターはスキルを持たない。デメリットがない、ということ?」

「その通りだ。【大守護】が発動していないときは、こいつを使って戦っていた。【大守護】が発動したときは背中にでも背負っていればいい話だしな」


 スキル封じの道具として活用できないようにするためか、ランクルのスキル封じ効果は手に握っていなければ大丈夫だ。


 そして当然、弓士が使った場合は役に立つような代物ではなかった。弓士は弓を持たずに使うスキルはそれほど多いわけではない。

 フェリンは少しがっかりした表情を浮かべる。


「じゃあ今さら短剣なんて……」

「そんなことないさ。ギルドを経営するようになってからは、弓を背負って通常業務を行うわけにはいかないからな。こいつはずっと部屋の飾りになっていた。普段身に着けるには取り回しのいい短剣はぴったりだ」

「ほんと!?」

「ああ。大事する。ありがとう」


 笑顔で言って、フェリンの頭をくしゃりとなでた。


「えへへ……」


 うれしそうに目を細めるフェリン。


「次は私……マスター、これ」


 スーのプレゼントの箱を開けると、中に入っていたのは革靴だった。


「マスターの靴、だいぶくたびれていたみたいだから……いやじゃなかったら使ってほしい」


 たしかにスーの言う通り、そろそろ買い替えようと思っていたところだった。セスティナがくれた腕輪に気付いたのもスーだったし、スーは意外とこういう気付きにくいところもよく見てくれている。


「ありがとう、うれしいよ。よくサイズがわかったな」

「ラキさんに訊いた」


 なるほど。そういえばスーだけはあのあと一度戻ってラキとなにかを話していた。

 カナメはフェリンと同じようにスーの頭もやさしくなでてやった。

 スーはいやがるそぶりもなく黙ってされるがままだ。

 そのとき部屋のドアがノックされた。


「おじゃまします……」


 入ってきたのはサナだ。

 サナは両手を背中に隠して、どこか落ち着かなそうにしていた。


「って……フェリンにスーちゃん!? もしかして……」

「ああ。二人からプレゼントをもらったところだ。ほら、この短剣と革靴」


 サナはあからさまにがっくりと肩を落とした。


「みんな考えること……同じだったんですね。ううう……二人とも立派なプレゼント。やっぱり私、帰ります」


 そのまま後ずさろうとするサナはしかし、回り込まれたフェリンとスーに背中を押されることになった。


「ダメだよ。せっかくなんだから、ちゃんと渡さないと」

「マスターはきっと、サナからのプレゼントも楽しみにしてるはず」

「えええーーっ……」


 サナはぐいとカナメの前に押し出されて困ったような顔をしていたが、やがて意を決したように隠していた両手を突き出した。


「これっ! 受け取ってください!!」


 サナのプレゼント。それは木の箱に丁寧に納められた羽根ペン。


「マスター、よく書き物とかしてたので……使ってもらえるかなって。私まだお金もあまりないので高価な物は買えません。だから……」


 カナメは箱ごとサナの手を両手で包み込んだ。


「うれしいよ。ありがとう」

「マスター……」


 うるうると瞳をうるませるサナ。


「よかったね、サナ」


 笑顔のフェリン。うんうんとうなずくスー。

 サナは照れくさそうに微笑んだ。


「えへへ。……うん。よかったです」


 三人の笑顔が一番のプレゼントだな、とカナメは思ったのだった。

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