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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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冥剣

 <<守護の盾>>一階にある六つのテーブルのうちのひとつを囲んで、四人の女の子が談笑していた。


「ほう、これがフェリンの愛剣か。冥剣の一振りだな」

「冥剣?」


 オウム返しに聞き返すフェリン。

 テーブルの上に置かれているのはフェリンの自慢の愛剣。片刃で軽い中剣で、女の子でも取り回しやすいクレナイだった。

 セスティナはクレナイの柄に刻まれている銘を見ながら言った。


「ああ。今から五百年ほど昔に名を馳せた、冥哭党(めいこくとう)という鍛冶師一族による作品だ。冥剣は世に百二本存在している」

「百二本……中途半端な数ですね」


 サナが不思議そうに首をかしげた。


「冥哭党は一子相伝で技を伝え、生涯最もよくできた一振り以外の剣は、すべて鋳潰して処分する掟があったらしい」

「うわっ、もったいなっ。でもたった一本だけしか作らないでどうやって生活してたの? その人たち」


 驚くフェリン。スーは興味があるのかないのか、眠そうな目でお茶をすすっている。


「とある王家に仕えていたと言われているな。王に献上する最高の一振りを鍛えるのが使命だったらしい」

「でも一代で一本しか作らないなら、百二本なんていう数になりませんよね?」


 セスティナはサナを見てうなずく。


「そうだ。初代と二代目は掟を守り一本ずつ。しかし三代目が掟を破った。三代目の腕は天才と褒めたたえられていたらしい。初代をもしのぐと。だからかもしれないな……三代目は自分の作った剣を鋳潰すのが惜しくなったのだろう。掟を破って自分が作った百本の冥剣をすべて世に出した」


 セスティナは鞘から半分ほど抜いたクレナイの刀身を少し眺めて、元に戻した。


「初代の作った冥剣を冥剣オリジナル、二代目が作った冥剣はセカンドと呼ばれている」

「じゃあ私のクレナイは廉価品ってこと? うーん、なんか納得いかないなぁ」


 フェリンは不満顔だが、セスティナは安心させるように微笑んだ。


「言ったろ。三代目は初代をもしのぐ天才だったと。世に出した百本すべてがオリジナルに勝るとも劣らない業物だというのが世間の評価だ」

「そっかー!」


 フェリンの声が弾んだ。

 その様子を受け付けカウンターから見ていたカナメも微笑ましい気持ちになる。フェリンの愛剣への思い入れはカナメも知っていた。


「そして実は私も一本所有している」


 そう言って背中の大量の武器の中から一本を抜いた。


「いつも思うんだけど、セスティナさんのその大量の武器、重くないの? 私だったら潰されちゃいそう」


 セスティナは自分の冥剣をテーブルに置きながら言った。


「身体能力を強化する装備を身に着けている。タイタンの誓いと呼ばれるベルトだが……外すか?」


 フェリンは慌てた。


「い、いいよ。そんなことしなくても」

「私の冥剣、銘はシラツユだ。常に水に濡れていて切れ味を失わない」

「ほんとだ。水だ……どういう仕組みになってるんだろ」


 フェリンが鞘から抜いたシラツユの刀身は水に濡れて光っていた。


「<<外>>へ探索に行くと、手持ちの水が尽きることもある。そういうときには重宝するな」

「「えっっ!?」」


 フェリンとサナの声が重なった。お茶を飲んでいたスーも、ブフォ! と派手な音を立ててむせていた。


「ふふふ」


 三人の反応を見て楽しそうに笑うセスティナ。

 カナメも聞いていて思わず、刀をペロペロ舐めて水滴を飲むシュールな姿を想像してしまっていた。どうやら今のはセスティナ会心の冗談なのかもしれなかった。


(それにしてもセスティナのやつ、こんなに変わるなんてな)


 以前はいつも一人でいることが多い、孤高の女冒険者といった様子だったのだ。誰かと打ち解けて笑い合うような姿は想像もできなかった。


「なんだか楽しそうですね、マスター」


 カナメと同じくカウンター内側の定位置にいるリエラが声をかけてきた。

 どうやらリエラから見てもわかるほどカナメは頬が緩んでしまっていたらしい。


「そんなことは……」


 言いかけたところで気がついた。背中を向けて座っていたセスティナが、少し首を回してカナメに流し目のような視線を向けていた。

 そしてにっこりと微笑む。カナメに向けた笑みなのは明らかだった。


「あ、ああ……」


 なんとなく手を上げてその笑みに応えるカナメ。


「あら? あらあらあら?」


 リエラの声は楽しみを見つけた子供よう。


「ふぅん、なぁるほどー」


 カナメの後ろに立つラキも訳知り声。


「お前ら……なんだその反応は」


 げんなりと肩を落としたカナメに追撃。


「私はなにも言ってませんよ?」

「うんうん。僕もなーんにも。ねー?」

「こいつら……」


 テーブルのほうではフェリンがセスティナの視線を追って、同じようにカナメを見る。

 ふとスーが立ち上がった。こちらにとことこと歩いてくる。


「ん?」


 どうした――とカナメが問いかける前に、スーはカナメの腕を持ち上げた。


「これ、どうしたの?」


 スーが言うのはセスティナからもらった腕輪のことだ。


「ああ、セスティナがくれたんだよ」


 言った瞬間だった。


「えっ!」「ええーーーー!」


 サナとフェリンが声を上げてこちらに駆け寄った。


「マスターにプレゼント……」

「腕輪だ……」

「きれい……」


 三人ともしげしげと腕輪を見つめる。

 そして――。


「あっ、私用事があったんだ」

「私も、思い出しました」

「……私も」


 三人そろって似たようなことを言い出す。

 なんなんだと思ったのも束の間、三人は先を争うように外に出て行ってしまった。

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