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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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宝箱の中身

 翌朝。セスティナの冒険の成果である宝箱を開ける瞬間がやってきた。

 カナメが部屋に入ると、セスティナはベッドの上に体を起こして下着にシャツ一枚の姿。

 美しい銀の髪が窓から差し込む日差しを浴びてキラキラと輝いている。


「すまん、まだ寝てたか?」


 昨日は一応夜のうちに自室に戻って寝たので、今朝はいつも通りラキと朝食を済ませてきていた。


「いや、私もちょうど今起きたところだ」


 セスティナはからっと笑う。


(本当に……笑顔が可愛いやつだな。なんの飾りも気負いもないっつーか……。こんな普通の女の子みたいな笑顔は……たぶん昨日からか)


 以前は不敵な笑みを見せることはあっても、今みたいに素直な笑い方をすることはなかった。

 正直今のセスティナのほうが数倍魅力的だ。

 セスティナはカナメが両手で抱えている大きな宝箱に目を止める。


「ああ、それか」

「それか、じゃないだろ。まさか忘れてたのか?」


 カナメが持ってきたのは例の宝箱。古城の遺跡でドラゴンが落としていったものだ。

 宝箱をテーブルの上に置く。長い年月の経過を感じさせる、古ぼけた宝箱。そこかしこに錆の浮いた表面が鈍く光った。

 セスティナは苦笑い。


「実を言うと……その通りだ。昨夜はあなたに抱いてもらって、幸せで満ち足りてしまった。他のことが全部吹っ飛んでしまった」

「そ、そうか……」


 聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなことを、さらりと言ってのけるセスティナ。でもきっとそれが彼女のまっすぐな気持ちなのだろう。

 カナメは話題をそらすように、宝箱へと視線を落とす。


「さ、開けるぞ。俺も冒険者だったからな。この瞬間がたまらない」

「ふふ、そうだな」


 このときばかりはクールな女冒険者も無邪気な子供のように楽しげ。

 劣化の進んだボロボロの宝箱は、先の平らな鉄棒を差し込んで力を込めれば、難なく開けることができた。


 開けた瞬間まばゆいきらめきが広がる。

 金貨や宝石が中にはぎっしりと入っていたのだ。


「たしかに価値はあるが……」


 セスティナは少し残念そう。


「お前は金目の物より装備品、だったな。待てよ……奥にまだ何か……」


 カナメはそれを引っ張り出した。

 ボロボロに劣化した布に包まれていたのは、黒ずんだ腕輪だった。一見すると価値があるようには見えないが、模様のように刻まれている微細な古代文字が、ただならぬ存在感を放っている。

 セスティナは手に取って色々な角度から子細に検分する。


「腕輪か……。呪いの気配は感じられないが……特殊な能力が付加された希少装備かもしれないな」

「やったな! 当たりじゃないか!」


 喜ぶカナメにセスティナは腕輪を押し付けた。


「え……」

「受け取ってくれ」

「そんな、これはお前が命がけで探索した遺跡にあった物だろ。そんな大事な物を……」


 セスティナは、さわやかに笑った。


「私の気持ちだ。あなたのおかげで私は恋心を知ることができた。いつも男に言い寄られていたときは、なぜこいつらは冒険者なのに女を追いかけることにばかり夢中なんだろうと、そう思っていた。正直言うとバカにしていた」

「うっ」


 カナメとしては女性を口説いて追いかけていたつもりはないが、していることはしていたので耳が痛い話だ。


「でも……意外と悪くない。今はとても晴れやかな気持ちだ。こんな気持ちになれたのは初めてのことだ。だから……感謝している。ありがとう」


 天使の涙はセスティナがどうしてもと言うので結局王都へ送ることになった。たいした品ではないと言ってセスティナは笑ったが、かと言ってこの腕輪までもらってしまうのは気が引ける。


 でもセスティナの笑顔があまりに澄み切っていて、そんな曇りのない笑顔に水を差してしまうのももったいない気がした。


「そうか。じゃあ……ありがとう。受け取っておくよ」


 そう言ってカナメは腕輪を受け取り、手にした布でこすってみた。


「お、磨いたら光ったぞ」


 どんな材質なのか、それとも付与されている能力のせいなのか、少しこすっただけで黒ずんでいた腕輪は白銀色の輝きを取り戻した。


「似合うかな?」


 さっそく腕に装備したカナメにセスティナは力強くうなずく。


「ああ」

「ははは。そうか」


 二人はお互いに笑い合った。


「おや、宝箱の中にまだなにか……」

「えっ」


 セスティナの声につられてカナメが思わず宝箱の中に目をやったその瞬間だった。

 頬にやわらかい感触。

 完全に不意打ち。


「やったな、こいつ――」


 キスのお返しになにをしてやろうかと振り返ったカナメはそのまま固まることになった。


「好き……愛してる」


 この瞬間のセスティナの笑顔を、カナメは絶対に忘れないだろうと思った。

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