ご褒美
ある日の夕暮れ時。
「はい、おつかれさまでした。森に出没するホーンウルフの群れの討伐、確認しました」
「あ、そうだ。スキルの【鑑定】もしてもらっていいかなー?」
フェリンが言った。
この日のクエストもフェリンとスーとサナの三人で行っていた。本当に彼女たちは息の合ったパーティーになったようだ。もう三人で何度もクエストをこなしている。
「ええ、わかりました。ではフェリンさん、もう一度手を」
「はーい」
「Dランク【剣戦闘】……いいえ、【疾風剣】がありますね。【剣戦闘】はCランクに上がっています。なるほど、それでもう一度【鑑定】を、ということですか」
「へっへー」
フェリンは得意気に笑った。
Cランク冒険者と言えば立派な一流冒険者の仲間入りだ。そこいらにごろごろいるような自称冒険者のならず者程度ではもうフェリンの相手にはならないだろう。
それほどCランクというのは冒険者全体で見れば少ない。
そして満面の笑顔はカナメに向けられる。
「ああ、よくやったな。ランクアップおめでとう」
「やった! 褒められちゃった! じゃあじゃあご褒美! いいでしょ?」
「ご、ご褒美!?」
そして少しの間。
全員の視線がカナメに集まる。
(いきなりそんなこと言われても……どうすりゃいいんだ? ええい、くそっ……)
フェリンの期待のこもった眼差しが耐えられなくなり、とっさの思い付きでその頭をなでた。
さすがに子ども扱いみたいで怒られるかとも思ったが、フェリンはされるがまま気持ちよさそうに目を閉じた。
「フェリン、いつの間にそんなスキルを……。これは私もそろそろ本気を出さなければならない」
スーは深刻そうにつぶやいている。
「いいなぁ。私もマスターに……してもらいたい……」
サナも妙に熱の入った声。どうやら本気でうらやましがっているらしい。
「お、おいお前たち……」
カウンター側に来てピッタリ体を寄せてくるスーとサナ。
「あっ、ずるい。今は私がご褒美もらってたのにー」
気付いたフェリンも回り込んできてカナメの背中に抱き着いた。
「お前らあんまりくっつくな。まだ営業時間中だぞ」
「じゃあお仕事終わったらいいってこと?」
「そういう意味じゃ……ラキ、お前なんとかしろ!」
「ええー……」
ラキはやる気のない返事。
それならばとリエラに目を向けるが――。
(え……)
リエラは口をぎゅっと引き結んで、何かに耐えるようにじっとカナメを見ていた。
(そういえばリエラも俺のことを……。だったらもしかして……)
「ええと……リエラもこっちに来るか?」
「知りません!」
ぷいとそっぽを向かれてしまう。
「あちゃー」
ラキののんきなつぶやき。カナメも似たような気持ちだ。
カナメはもう一度後ろのラキを見る。
ラキはしょうがないとばかりにあからさまなため息を吐いた。そして上の階に消える。それからしばらくして戻ってきた。
「みんな、クエスト終わったばかりで疲れてるでしょ。おやつでもどう? 紅茶もあるよ」
女性陣の視線がラキが持つトレイの上に集まる。
ラキの作ったパンケーキの香りの誘惑に勝てる女性はいない。
「やった!」「わあ!」「ぉぉぉ……」
三者三様の歓声が上がる。
フェリンたちはテーブル席に集まってさっそくラキのパンケーキに舌鼓を打ちながら、クエスト話に花を咲かせていた。
聞き上手のラキに、身振り手振りで戦闘の様子を語って聞かせているようだ。
「ん?」
なんとなく横を見ればリエラは楽しそうにしているフェリンたちではなくカナメを見ていた。その表情はどこか物欲しそうに見える。
リエラの手元にもパンケーキの皿はあるから、たぶん別のことだ。
カウンターの上を滑るように、リエラが手をこちらに伸ばしてくる。
カナメはその上に自分の手を重ねた。
「ふふ」
リエラはうれしそうに笑った。
ようやくカナメも納得する。
やっぱりリエラもカナメとイチャつくフェリンたちを見てうらやましかった、ということらしい。
なごやかな空気のお茶会は<<守護の盾>>の営業時間が終わるまで続いた。




