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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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リエラの欠勤

「今日はリエラはどうしたんだ?」

「僕は見てないよ。珍しいね、遅刻かな?」


 もう<<守護の盾>>の営業時間は始まっている。

 リエラでないとこなせない仕事は多いので、これは一大事と言えた。


「もう一時間以上か。この遅刻は普通じゃないな。そもそもリエラは遅刻なんてしたことないしな」

「どうしよう」

「家は知ってるから、ちょっと様子を見に行ってくる。しばらくこっちを任せていいか?」

「もちろんだよ。気を付けてね」


 そういうラキの表情はちょっと心配そうだった。

 カナメはギルドを飛び出して駆け足でリエラの家へと向かう。

 ミルタはさして大きい町でもないが、急を要する事態という可能性もある。一刻も早く様子を見に行きたかった。


(まさかリエラに限って事件に巻き込まれたりとかは――)


 嫌な予感がしたその時だった。

 【大守護】の発動を感じた。


(まじかよ――!!)


 制限解除された【大魔道師の影】が、危機はリエラに迫っていると感覚で伝えた。


『【大守護】発動。【大魔道師の影】制限解除。【空間転移】使用可能』

「くそっ!」


 焦る気持ちを抑えきれずに吐き捨てながら、大慌てで転移ゲートを作り出す。 

 道行く人々の何人かが驚いた顔を向けてくるが気にしてなどいられない。

 リエラの下へ直接転移した。


 そこはリエラの部屋の中だった。

 リエラはベッドの上で寝ていた。顔を真っ赤に火照らせて、はぁはぁと荒い息を吐いている。その呼吸に合わせて毛布のふくらみが揺れる。


「マスター……」

「なんだ?」


 が、リエラの意識はなく、どうやらそれはただのうわごとのようだ。

 カナメはリエラの額に手を当ててみた。

 すごい熱だった。


 呪いや毒を始めとしたほとんどすべての状態異常攻撃を【疑似生命流体】に移し替えられる【大魔道師の影】も、病気だけはどうすることもできない。


「……助けて……いや……いやぁぁっ! なんでこんな……ああああっ!」


 悪い夢でも見ているのか、リエラはうなされていた。

 カナメはベッドの脇からだらんと垂れるリエラの手を取って言った。


「大丈夫だ。待ってろ、すぐに医者を呼んでくる」


 声が伝わったからかどうかはわからないが、リエラは安心するように表情を落ち着かせた。

 カナメはすぐに転移で町医者を連れてきた。

 医者の老人は、診療所に突然現れたカナメに驚きこそしたものの、快くついてきてくれた。


「ただの風邪じゃな。薬を飲んで安静にしておれば、じきによくなるじゃろう」

「お忙しいところを急にお呼び立てして申し訳ありません」

「いやいや。カナメ殿が二年前にこの町にしてくれたことは、みな忘れておらん。いつでも呼んでくだされ」


 二年前カナメはミルタの町がモンスターに襲撃されていたのを助けたことがある。それ以来多くの人からもったいないくらいの信頼を寄せられていた。


「ありがとうございました」


 転移ゲートの向こうに去っていく老医者をカナメは頭を下げて見送った。

 処方された薬はシャミという植物の葉をすり潰して粉にしたものだ。この世界で一般的な解熱剤。

 薬を水で溶かしたカナメは、それを口移しでリエラに飲ませる。


 リエラの喉がゆっくりと動いて薬を飲んでいく。

 ほどなくして効果は現れた。

 うっすらと目を開いたリエラは、ぼうっとした視線をカナメに向ける。


「え……マスター……」


 熱に浮かされたその瞳から、ぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ちる。


「ど、どうした? 頭が痛むのか?」


 リエラは指で涙を拭って、恥ずかしそうに笑った。


「ごめんなさい。ちょっと混乱してました。夢の中にも……マスターが出てきていたので」

「そ、そうか……」


(まさか夢の中の俺、リエラを泣かすようなひどいことをしてたりしないよな……)


「あ、このタオル。マスターが?」


 リエラは自分の額に乗せられている濡らした布に気付いて言った。


「ああ。ずいぶん高い熱が出ていたからな。うなされてたし、心配したんだぞ」

「ありがとうございます。すみません、お仕事無断で休んでしまって」

「なに言ってるんだ。お前の体に比べたらそんなことどうだっていいに決まってるだろ」


 リエラは弱々しく微笑んだ。その視線がベッド脇のイスに置かれている木の(わん)に止まる。


「それ、薬ですか? もしかして……」


 リエラの目が大きく見開かれる。カナメが口移ししたことに気付かれてしまったようだ。


「ああ。緊急時だったからな。悪い。嫌だったか?」


 リエラは毛布を上げて口元まで隠すと、悩まし気に瞳を潤ませた。


「違います。せっかくマスターに口移ししてもらえたのに……覚えてないなんて残念だなって」

「えっ!?」

「ごっ、ごめんなさい! 熱のせいかしら。変なこと言ってますね、私」


 そう言って体をひねって横向けになって、カナメから顔をそらすリエラ。

 カナメに向けられたリエラの背中から、ほんのり汗のにおいが立ち昇った。

 急に気恥ずかしくなったカナメは慌てたように言った。


「じゃ、じゃあ残りの薬、置いとくよ。体が良くなるまで仕事はお休みしていいから。明日もまた来る」

「あっ……」


 立ち去ろうとするカナメの背に、何かを言いかけるリエラ。

 入り口前で立ち止まって振り返れば、そこにあったのははにかんだ笑顔。


「……ありがとうございました」

「ん。じゃあまた」


 片手を上げて返事をし、カナメは部屋を出た。

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