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大守護のギルドマスター -魔王を倒し勇者に裏切られたFランク冒険者はハーレムを目指してギルドを作る-  作者: 鉄毛布


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リエラの憧れ

 ある日の午後。

 <<守護の盾>>ギルド一階ではカナメとラキ、それにリエラがいつものように通常の業務をこなしていた。


 が、今は客はいない。設立してまだ二年しか経っていない小規模ギルドともなると、こうして客足が途絶えることもあった。

 そんな時は大抵、とりとめのない無駄話に花を咲かせることになる。


「たとえばだけど――」


 ラキが口を開いた。


「ガラの悪い登録希望者とか、よく来るじゃない」

「そうだな」


 小さいギルドだからとナメられているのか、チンピラのような荒くれ者はひっきりなしに<<守護の盾>>にやってくる。が、当然そんな連中は全部断っていた。


「でも、たとえば礼儀正しくて実力もあるカッコいい冒険者が、うちに入りたいって言ってきたらどうするの?」

「なんつーことを聞くんだお前は……」


 カナメとしてはギルドを作った動機が動機なだけに、そんな登録希望者は断りたいのが本音だ。


(こいつ……俺が女の子にモテたくてギルドを作ったのを知っていて、なんでそんなことを……)


 ついついラキに向ける視線も厳しくなる。

 さらに横を見ればリエラもカナメに視線を向けていた。


「そうだ、リエラはどう思う? 超カッコイイ騎士が颯爽(さっそう)と現れて登録を希望したりしたら」

「人事はマスターが決めることですけど」

「うっ……」


 逃げ場はないらしい。


(ラキがテキトーな感じで振った話題で、なんでこんな追い詰められたような気持ちにならなきゃいけないんだ)


 カナメはだんだんバカらしくなってきた。


「断るに決まってるだろ」


 正直に言う。


「可愛い女の子じゃないから?」

「その通りだ」

「うわっ……開き直った……」


 あんぐりと口を開けるラキ。


「別に見た目で入団させるかどうかを決めちゃいけないって、そんな決まりはないはずだよな?」


 カナメはリエラに訊いた。


「ええ、もちろん。いくら認可ギルドでも冒険者の登録可否も含めて運営、管理、人事は全てギルドマスターに任されています。国は一切干渉できません」

「でも、リエラさんは呆れてるんじゃない?」


 リエラはすました顔だ。


「私としては、ギルドをきちんと運営して利益を出していただければ、なにも言うことはありません。それに――」


 リエラは一度言葉を切り、苦笑いを浮かべた。


「私は<<守護の盾>>設立時からご一緒させていただいているんですよ。今さら呆れるもなにもありません」

「それもそっかー」

「ほっとけ」


 どうもこの二人と一緒にいると、カナメは自分がいいように遊ばれている気がしてならなかった。



--------



 リエラの家はミルタの町の一角にある、ごくありふれた木造二階建て集合住宅だった。

 国派遣の公認鑑定士としてそこそこの給料をもらってはいたが、贅沢はしない。

 リエラはこの日も<<守護の盾>>での仕事を終えて、一人自宅へと帰ってきた。


 皮のバッグをテーブルの上に放り、ベッドの上にぼふんと体を投げ出す。うつ伏せに沈んだ体とシーツの合間から、服をはち切らんばかりにあふれた大きな胸が存在を主張する。


「参ったなぁ……ラキちゃん、いきなりあんなこと言いだすんだもの」


 ギルドではついつい真面目なギルド職員みたいなことを言ってしまったが、内心では心臓が飛び出すかと思うほど焦っていた。


「カッコイイ騎士様なら、もういるのよねぇ……」


 リエラはずっとずっとカナメの事が好きだった。<<守護の盾>>に派遣される前から、ずっと。

 それでも今日までその想いを隠して、真面目でドライな職員を装ってきたのだ。

 リエラがカナメに恋心を抱くようになったのは、今から五年も前のこと。


 あの日のことは今でも、まるで昨日のことのように鮮明に思い出すことができる。

 炎、悲鳴、モンスターの雄たけび。そして血、血、血……。

 リエラが住んでいたパルホ村はその日、モンスターの襲撃を受けて地獄となった。


 リエラは恐怖で思考がぐちゃぐちゃになり、泣きわめきながら走っていた。

 足がもつれて転び、豚面のモンスター――オークに追いつかれた。オークが振り上げた斧は、血に濡れて赤く光っていた。恐怖で動けなくなったリエラはそれをただ見ているしかできなかった。


 斧が振り抜かれ、目を閉じたリエラに、絶命の瞬間はいつまで経ってもやってこなかった。

 目を開ければそこには、優しい顔をした少年が一人いるだけだった。


『もう大丈夫。ほら、立って』


 自分より三つは年下だろう、まだ幼さの残る少年。

 少年に手を引かれて、それでもリエラは立ち上がることができなかった。完全に腰が抜けてしまっていた。


 少年はリエラを両手で抱き上げた。

 周囲のモンスターはいつの間にかすべて倒されてしまっていた。あれだけうるさかったモンスターの雄たけびも、ピタリと止んで静寂が戻っていた。


 少年がリエラを教会に連れて行くと、そこには生き残りの村人たちが集まっていた。

 リエラが名前を聞く時間もなかった。少年は仲間の少女と共にすぐに村を去ってしまったから。

 そしてその記憶はリエラの心の一番大事な場所に、深く深く刻み込まれることになった。


 リエラはその後どうしても冒険者になりたくて、王都へ【鑑定】をしてもらいに行った。少しでも憧れのあの少年に近づきたかったのだ。

 ところがリエラには戦うためのスキルはなく、代わりに【鑑定】のスキルがあることがわかった。


 リエラは王都で研修を受け【鑑定】の使い方を学び、公認鑑定士の資格を得た。

 そして冒険者ギルド管理庁の職員として初めて派遣されたギルドが<<守護の盾>>だったのだ。そこにいたのは成長していても見間違えるはずもない、あの日リエラを助けてくれた少年と少女。


 再開したカナメとラキを見て、リエラは涙をこらえるのがやっとだった。それほどの衝撃だった。

 しかし向こうはリエラのことを覚えていないようだった。


 ショックだった。すぐに言い出せなかったのは、仲のよさそうなカナメとラキの間に、なんとなく入っていけないような気がしたからだ。

 そして現在までずるずると、言い出せないまま<<守護の盾>>で働いている――。


「なんだか最近フェリンちゃんたちと仲いいみたいだし……先、越されちゃったかなぁ……」


 【鑑定】を悪用するようなことはしていないけど、女の勘ですぐにピンときた。三人は自分のはるか先に行ってしまったのだと。


「ああー……。もう! 私のバカバカバカバカ! バカーーーーーーっ!!」


 仕事中の彼女を知る者なら目を疑うだろう。それほど普段からはかけ離れた様子で、リエラはベッドの上をごろごろと転がるのだった。


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