いってらっしゃい
今日もいつも通りに、窓際に二人並んで昼寝をした。暖かく、やわらかい日差しが僕らに当たる。現実と夢の間をふわふわとさまよう。あの海の近くの公衆電話が、ぼんやりとでてきた。勝手にかかってきて勝手に切れる公衆電話は、なんだか、わがままだ。僕らもわがままに歌ってみたかったな、と思った。今日もあの公衆電話は、一人で海を見て、世界を馬鹿にしているんだろうな。
ふわりと、甘い香りがした。あおがきっと、僕の顔を覗き込んでいるのだろう。
「勝負はすみの勝ちだよ。君はどこまでも普通だ」
僕は目をつぶったまま聞いていた。この低くて心地いい声を聴くのも、これで最後だ。
あおが静かに、僕にキスをした。
毛布をたたむ音が止み、あおがドアのほうに歩いていく。
あおが小さく、「幸せだったよ」と言った。
ドアが開き、閉まった。
僕は薄く目を開けた。頬に一筋だけ涙が流れた。僕はひどくかすれた声で言った。
「いってらっしゃい」
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初めまして。こんにちは。
読んでいただきありがとうございました。
生きづらさを抱えた人はいつの時代も一定数います。世の中が生きづらい人は、小さな幸せに気づけることができると思います。私はそういった人に、とても好感が持てます。
このお話は、生きづらさを抱えた人が、「好きだ」と言ってくれたら成功なんだと思います。
あと一つ、もし夜に散歩に行く機会があったら、公衆電話を見てみて下さい。どこか心が動かされます。
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また会える日を楽しみにしています。