物騒だけど安全な世界
何年か昔、暴走すると考えられていたAIは、人類に忠実であり続けている。
その忠実なAIは、人が望んだ、人間同士が争わない世界を作り出した。
AIが人同士の争いを止めるため、全ての人に武器を配ったのだ。
配られた武器を使えば、地球ごと消滅する。
AIの導きだしたバカみたいな答えは正しかった。
人々は武器を怖れ、格差を無くし、差別を無くし、結果的に争いのない世界が生まれた。
「退屈だ」
そうぼやいても、何一つ起きない。
争いのないこの世界で、イベントは起こるわけがないんだ。
絶対に人間同士では争えないのだから。
別にディストピアというわけではないし、ユートピアでもない。
ただ単純に、隣人が恐ろしいだけだ。
些細な口論ですら、地球の滅亡へと繋がりかねない。
自爆スイッチを持った人間に、誰もが近づきたくないだろう。
欲望に身を任せようにも、達成した瞬間、悪ければ達成する前に地球が滅ぶかもしれない。
他人と自分への不信感から、全ての争いは消えた。
いやもっと言えば、争いを生みかねないこと全てが、姿を消した。
酒もタバコも薬物も、ギャンブルもゲームもスポーツも仕事も存在しない。
そんなものに手を出して、正常な判断ができない人が出たら恐ろしい。
おそらくは人類史始まって以来、最も平和で、最も退屈な世界になってしまった。
そして、この退屈すぎる世界に、人間は耐えられなかった。
ほとんどの人間は、争える世界を求めて、AIに泣きついた。
AIはその望みを叶え、仮想現実を作り出し、希望する人間は仮想現実に行くことになった。
そこで楽しく争っているんだろう。
笑えることに、残った人間は俺だけだった。
もしかしたら、もともとAIは人間を支配するつもりだったのかもしれない。
結果的に、ほとんど全ての人が、機械に繋がれているのだから。
こんなことを考えている俺も、本当にここが現実であるのかは証明できない。