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第八話 ユウタの野郎、やりやがった! ★

 地下鉄連続爆破事件は日本史上に残る大惨事となった。

 某国で発生している自爆テロを模した自分の命と引き換えの暴力に、そして何より前世紀に起きた宗教団体の犯行を思い起こさせる地下鉄での犯行に日本中が震撼した。




 そして地下鉄連続爆破事件から数週間後。

 インターネットの動画サイトを通じ、ある組織が犯行声明を出した。


 その組織の名前は「秘密結社神秘団」といった。


 前々からオカルト雑誌ではその存在を追われている組織ではあったが、活動が表ざたになるのはこの事件が最初ではなかろうか。

 俺はオカルトにはあまり興味はないが、たまに駅前とかで団員の募集をかけていたのは見たことがあった。

 

「神秘団か……危険なやつらだ……」


 午前八時、朝食を取りながらテレビで流れる報道を見て俺はつぶやいた。


「…………」



 カスミは押し黙っている。


「どうしたんだ? カスミ」


「神秘団は私の家族を奪ったの……」


 カスミと同居してそろそろ一ヶ月になるが、彼女が自分のことを話すのは初めてのことだった。


「私の名前は鴻上こうがみ香澄カスミ。父は新細胞研究の鴻上博士」


「鴻上博士だって?」



 鴻上こうがみ八十吉やそきち――。日本人の多くが知っている有名な賞を受賞した博士だ。


 「新細胞」と呼ばれる生物の体に移植すると宿主の意識によって自在に変化する細胞の研究をしており、その成果は医療に多大な効果をもたらすと期待されていた。


 しかし今年の秋に家族とともに失踪。

 メディアは大いに騒ぎ立てた。



 まさかその鴻上博士の娘がカスミだったとは……。


「カスミの家族は今どこにいるんだ?」


「分からない……ただ、父は神秘団の命令を断った。だから人質だった私は殺されることになったの」


「そこを俺が助けたってわけか」


「父と母と妹がまだ神秘団に捕まってる」


 カスミは目に涙をためて俺に教えてくれた。


「よし、分かった。君の家族も俺が助ける。約束するよ」


「……本当?」


 カスミが真っすぐな目で俺を見つめる。


「ああ、本当だ」





 あんな約束をしておいてなんだが、仕事は当然やらなきゃいけない。

 仕事の元請けであるサクセスフューチャーはあんな事件があった後でも納期を伸ばしてくれるわけでもなかった。

 まぁ、当然っちゃ当然なんだが……。


 今日も気が重い開発ミーティングに向かう。


「……グローバルさん、現在の進捗についての報告をお願いします」


「はい。現在の進捗ですが……」


 進捗についてははっきり言って大幅遅延。大炎上だ。

 しかし、それをそのまま報告するわけにはいかないってのが、ウチの本社からのお達しだ。

 俺はまだマネージャーとかじゃないから、嘘の報告をすることの意味はよく分からない。炎上してるのに「順調です」って答えるのは気分が悪いことだ。


 サクセスフューチャーの恩田さんは俺の報告を聞き「そう」とだけ言った。

 彼女には炎上していることがバレている。そんな気がした。



 何とか今回のミーティングでは無理な依頼はなかった。

 

 プロジェクトルームに戻り、受信した議事録を端から端まで熟読する。

 この習慣をもっと早く身に着けていれば今の状況はなかったハズなんだが……と自分を責める。



 今相手にしている仕様追加の期限はあと一ヶ月。

 残の作業量は二ヶ月分。

 つまり一日十六時間労働でカバーできる計算だ。


「アキラさん、今回は変な話してないでしょうね?」


 マサルが俺にくぎをさす。


「大丈夫だ。今回は追加の仕様はないよ」


「ならいいっす」


「みんな、あと一ヶ月。きついと思うけど頑張ってくれ」


 俺はメンバーにお願いした。

 そして今日もまた遅くまで作業は続いた。



 挿絵(By みてみん)


 ユウタの席は川合の隣だ。

 ユウタは連日の作業と隣の席にいる川合への劣情でもはや限界になってたんだと思う。


 そんなユウタの限界が事件を起こしてしまう。



 午前〇時。

 終電を迎えたメンバーたちは帰宅するか現場に宿泊するかを迫られる。


 俺はこの後のヒーロー仕事があるためどうしても帰宅しないといけないが、マサルと山根はしばしば宿泊して仕事をしている。


 

 挿絵(By みてみん)


 マサルと山根は今日は帰宅することにした。

 川合が職場に残った。

 そしてユウタも職場に残った。


 俺は嫌な予感がしたが、この後の仕事のために職場を後にして、マサルと山根と一緒に駅まで歩いた。



 マサルは俺と同じ電車の方角だ。

 一緒に電車を待つ。


 俺はどうしても嫌な予感が頭から離れず、察知魔法を使った。



 案の定だった。

 見えた映像は、ユウタが川合を仮眠室で押し倒している映像だった。


「マサル、俺職場に忘れもんしたから取ってくるわ」


「うっす、んじゃお先っす」


 マサルに手を振り、俺は駅員に忘れ物を取りに行くために駅を出る旨を伝えて駅を出る。

 駅員には「もう終電ありませんよ」と言われたが、仕方ない。


 プロジェクトルームまで俺は走った。

 



 プロジェクトルームのドアを開ける。


「んー! んー!」


 苦しそうな川合の声が聞こえる。

 玄関から遠いほうの仮眠室からだ。


 俺は仮眠室のドアを思い切り開けた。

 ユウタが尻丸出しで川合に覆いかぶさっている。


 俺はユウタを思い切り殴り飛ばした。


「ユウタ! お前自分が何やったかわかってんのか!」


 ユウタの目が泳いでいる。

 目を泳がせたままユウタは下半身丸出しで部屋から飛び出した。


「川合、大丈夫か?」


 見たところ川合はケガもしていないし、服も脱がされた様子はない。

 不幸中の幸いってやつだ。


 しかし精神的な傷はついたに違いなかった。


 こういう時どうしたらいいのか俺にはわからなかった。

 ただ、今夜のヒーロー活動はあきらめないといけないなと思った。



 突然川合は俺に抱き着いてきた。


「川合……ちょっ……」


「このままでいてください……」


 川合は震えている。相当怖かったのだろう。


「川合、今日はタクシー使っていいから」


 俺は自分のポケットマネーで川合を帰そうと思った。


「家まで……送ってください……お願いします」




 俺は川合をマンションまで送り届けた。


「明日は仕事休んでいいから。

 体調不良ってことにしとくよ。

 あ、あとこれ俺の個人携帯」


 俺は個人連絡先を川合に渡し、マンションを後にした。



 どっと疲れを感じた俺は、その日ヒーロー活動しなかった。 

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