エルフっ娘とラルちゃん
暇だ…と思ったら本当に暇であることを表してしまう。ということは頭の中で暇ではない…と考えていたら暇じゃなくなるのだろうか。
いや、しかし、暇だという事実には変わりない。言葉に出そうが出さまいが結局のところ暇ということに変わりないのだろうか。
でも私は納得いかない。そんなの納得いくもんか。私は暇じゃないんだよ。暇じゃない暇じゃない暇じゃない暇じゃない…。
「暇だなラクアー」
隣の友人から聞こえてきた声に私の思考回路は全て停止させられたのであった。
「うん……暇だよね」
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「で、このままじゃ1日暇で過ごしちゃうんだよ…。どうしよラルちゃん」
「そんなことアタシに言われてもなー。んー、魔法の練習でもしたらどうだ?もうすぐラクアは試験だろ?」
私はその言葉を聞き、一瞬体が凍るように動かなくなった。私にとって魔法の試験ほど地獄と思えるイベントはない。
あれは本当に…地獄だよ。だってみんなの前で恥ずかしい醜態を嫌というほど見せつけなきゃいけないんだよ?しかも私は魔法を使うのが下手なせいか、試験の回数が他の人の倍あるし…。
私が項垂れていると、ラルちゃんが「現実逃避してたのか…悪かったよ」と言いながら背中を優しくさすってくれた。現実逃避してたわけじゃなくてただ単に忘れてただけだけどね。
因みにラルちゃんは私の仲良しな友達の1人で、家も近いせいか大体一緒にいることが多い。身長は私より高くて、エルフでは珍しい黒髪をしている。
因みに私の身長は…平均より若干低いくらいかなぁ…。そうか…、ラルちゃんは平均より上で私は平均より少し下…か。
「ねえラルちゃん」
「ん、どうした…?」
私は少し間をとって右手を頭の上に当てる。
「身長分けてよ」
「なんでだよっ!!」
何でってそりゃあラルちゃんの身長が羨ましいからだけど…、身長奪う魔法とかないかなぁー。
私はハァ…とため息を吐くと、ラルちゃんの頭の方から足元の方まで眺めてもう一度ハァ…と、ため息を吐いた。
「いや、アタシを見てため息吐くのやめろっ!」
ラルちゃんの顔を真っ赤にしている様子から少しご立腹になられたのがわかりましたラクア。
これ以上は止めた方がいいかなと思った私は最後に盛大にため息を吐いて真顔の表情をするのであった。
「だからため息吐くなぁぁっ」
「あうっ」
ラルちゃんの鉄槌は意外と痛いんだよね…。頭上に落ちてきた拳を受けた私は頭のてっぺんをさすりながらそう思った。
ラルちゃんの鉄槌はアレだよ。強さレベルで表したら、鋼鉄な甲羅を持ってる魔物を一撃で粉砕するレベルだよ。そしてそれを受けても大丈夫な私の頭蓋骨は最高レベルの鉱石でできた鎧と同じレベルなのだよ!
「それにしても遅いなミントのやつ…。他のやつならそこまで心配しないけど、ミントだからなぁ…」
「ミントちゃん背が低いし、迷子になってるかもしれないよ」
するとラルちゃんは凄く青ざめた表情になり、「そんな…どうすれば…どうすればっ…」とその場を往復し始めた。
因みにミントちゃんとはまた私のお友達シリーズの1人であり、私の友達の中で1番身長が低く凄く泣き虫な女の子である。そのせいもあってラルちゃんは今あんなに心配してるんだろうけど…、多分ラルちゃんが可愛いもの好きってことも理由にあるんだと思う。ミントちゃんちっちゃくて可愛らしいし。
「こうなったら私の魔法を使うしかっ…!!」
「余計ややこしくなりそうだから使わなくてよろしい」
「どうして私へのツッコミの時だけそんな冷静になるのっ!!?」
どれだけ私の魔法が信用されてないんだか…。もう少し信用してくれたっていいのに…、初級魔法すらまともに使えるの少ないけど。
…そろそろ試験に向けて練習始めようかな。
私がそんな風に現実と向き合って考えている中、ラルちゃんは我慢できなくなってきたのか、謎の準備体操を始めていた。
もしかしてミントちゃんを迎えに行くつもりなのかな…。もしそうなら…、私も探しに行かないとね!2人で探せば見つかる確率も2倍だよ!!
「ラルちゃん!!ラルちゃんが探しに行くって言うんなら私もラルちゃんについていくよっ!どこまでも!」
「本当か?助かる…。絶対にミントを救出するぞ!!」
そうだよ。ミントちゃんが誰かに連れ去られてしまってたりしたら…、私友達失格だよっ!!
私はゴクリと息を飲むと両手に拳を作ってラルちゃんの隣に並んだ。
「ミントはアタシたちが守るぞ!」
「おぉーっ!」
私たちはその掛け声とともに大地を蹴って行った。友達を救うため、ミントちゃんを守るために。そう、私たちは走る。どこまでも…そこにミントちゃんがいるのならっ…!!
…しかし私たちは最大のミスを犯してしまっていた…。
私たちは気づいていなかったのだ。
…すぐ後ろまでミントちゃんが走ってきていたことに。
「お、遅れてごめんなさい…って、に、逃げないでください〜っ!」
ミントちゃんの今にも泣きそうな声は、夢中で走っている私たちに届くことはなかった。




