エルフっ娘と肝試し
「私ね、最近ゴースト系の魔物が出る洞窟見つけたんだよ!」
私は自慢げに鼻を膨らませると、ロアちゃんとラルちゃんの前で胸を張った。
この辺りにはそんな洞窟は今までなかった。そう!なんと、この私が新しく!新洞窟を発見したのだ!
因みにこの辺りの魔物のほとんどは非常に危険度が低い。少ししか魔法の使えない私でも無事生還することができるレベルだ。
「また1人で村を出てたのか?あまりみんなに心配かけさせるなよ?」
「大丈夫だよ!いざとなれば私の隠された必殺技が…目覚めるんだからね。」
心配するラルちゃんに向かって軽くそう返すと、今さっき考えた必殺ポーズを2人の前でドンと構える。
でもまあ、ポーズを考えたまではいいんだけど、そこから炸裂させる技はまだ考えてないんだよね。
「まあ、それで何するの。もしかして今からそこに行くとか言いださないでよ?いや、別に怖いわけじゃないけどさ…平気だけどさ」
ロアちゃんや、私はまだ何も言ってないですがな。そんなに無理して強がってると怖いっていうのバレバレだよ。まあ小さい頃から一緒にいるし、ロアちゃんが怖いもの苦手ってことわかっててこんな話してるんだけどね!
「ロアちゃんロアちゃん、未知なる洞窟を発見したんだよ?これを放っておくほど勿体無いことなんてないよ」
「うぐ…。ラクアの意地悪」
んー?何も聞こえないね〜。
私はわざとロアちゃんの一言を無視すると、洞窟のあった方向を指差し、今すぐ行こうとでも言うように2人を大袈裟に手招きした。
「そう焦らなくても洞窟は逃げたりしないって…」
呆れたようにそう返すラルちゃんはまだ私の目論見に気づいていないらしい。そしてそれに気づいたロアちゃんは唯一の助け舟を逃し、絶望の淵に立たされたような表情をしていた。
ふっふっふ…どうだロアちゃんめ。食べ物の恨みは恐ろしいとはこのことだよっ。
あ、言うの忘れていたけど、私は決して面白いからっていう理由だけでロアちゃんを洞窟に連れて行こうと思ってるわけじゃないよ?まあ全然ないって言ったら嘘になるし、少しはそれもあるけどさ。
私は今、少しロアちゃんに怒っているのだ。大して腹立ってるわけでもないけど、最近ロアちゃんの苦手そうな洞窟を見つけたから、ついでに仕返ししちゃおうかなって。
「怒ってる理由はもちろん、昨日ロアちゃんが私のデザートを黙って食べているところを目撃しちゃったからだよっ!!」
「おーい聞こえてるぞー」
ラルちゃんが後ろから呼びかけていることにも気づかず、私は腹立たしさをその場で表現するかのようにどんどんと地面を何度も踏みつけた。
落ち着いた私は笑顔で振り返る。
「じゃあラルちゃん、泥棒娘、行こっか♪」
「いやボクがラクアの食べちゃったのは…その…ね、悪かったけどさ、この仕打ちはないよぉ〜!」
「泥棒娘って言われたことにはつっこまないんだな…」
そうして、全く足を動かそうとしないロアちゃんの腕を手に取ると、私はそれを無理やり引きずって洞窟の方へと向かって行ったのであった。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「で、ここがラクアの言ってた洞窟か?」
「うんっ!暗いから気をつけてね〜?特に後ろにはぁ…」
「うひゃあ!?や、やめてよラクア!」
さっきから洞窟を前にして顔が青白くなってるロアちゃんの背中をコショリ。後ろから背中をくすぐられたロアちゃんは期待通りの悲鳴をあげて涙目な表情で私の方を睨んだ。
そ、そんな顔しないでよ…。どうしよ少し罪悪感が出てきた…。でも、ここまで来てしまった以上後戻りはできないし…。
「なんだー?入らないのかー?」
「ラルちゃんって天然のドSだよね」
私たち2人を置いてさっさと洞窟の中へ入ろうとしているラルちゃんを見て私はそう聞こえないように呟くと、後に続くように中へ入っていった。もちろん嫌がるロアちゃんを引っ張って。
「うぐ…。ラクア、絶対ボクの手…離さないでよ?」
ロアちゃんがそう言って上目遣いでわたしの顔を覗いてくる。今にも泣き出しそうなその表情を見てしまうと、私の悪の心が今にも浄化されそうで目を合わせることができない。
ってかロアちゃん。その顔私にだからいいけど、男共には向けちゃダメだよ。アウトだよその表情。
「なんだよ遅いぞー?早く来ないと先に行っちゃうからなー?」
ラルちゃんの声が遠くから聞こえる。どこに居るのかと辺りを見渡すと、随分と奥の方から叫んでいることに気づいた。
もしかしたら、ラルちゃんのほうが私よりSなのかもしれない…。天然という2文字ほど怖いものはないからね!
「ラク…ア?」
やめてぇぇぇ!!その上目遣いやめてぇぇぇ!!
先に進もうと思ってるのにそれじゃ私の脚も前に進めないよ!!氷のように固まっちゃうよ!!
とんでもない罪悪感に支配されちゃうよ!!
「うぅ…ロアちゃん卑怯だよ…。その顔で許しを請うなんてずるいよ…」
私はそう言うと、ロアちゃんの手を握ったまま入り口から入ったすぐのところで力なく両膝を地につける。
遠くから「おーい魔物がでたぞー」とラルちゃんの声が聞こえてくるが、そんなもの耳には入ってこない。
私の心がロアちゃんよりも先に打ち砕かれたんじゃ、もうここで肝試しする意味もないしなぁ…。
私ははぁ…とため息を吐くと、ロアちゃんの手を引っ張って洞窟の外へと向かった。
「ラクア…」
「別に、ロアちゃんが可哀想だからとかそういうんじゃないんだからね!」
私はふんっとそっぽを向きながらそう言うと、すぐそのあとにニコッと無意識に笑みを浮かべた。
その表情を見て、ロアちゃんも自然と笑みを浮かべる。
そしてその直後、後ろから叫び声を上げながら近づいてくる足音に私たちはハッと振り返った。
「うわぁぁぁぁ!!奥まで行ったらお化けたくさんいたぁぁぁぁ!!」
「「イヤァァァァァァ!!」」
…この後2度とあの洞窟には入らないと3人で誓ったのは言うまでもない。