魔道族の領国、その4―魔道姉弟と白い本―
奴隷部屋の手前の廊下を抜ける前に、奴隷となった魔道師達を全員釈放し、リタ達は魔道姉弟と共に、城の屋上に通じている階段がある部屋を目指す。だが、そこは数々の罠が仕掛けられており、侵入者はおろか、魔道族であってさえも簡単に通れないようになっている。途中、襲いかかってきた兵士達を倒しながら、五人は難なく進む。
「待って」
ふと、メアリーが四人の足を止めた。
「何だよ、メアリー。今、順調なのに」
ヨゼフは残念そうに言った。
「屋上付近の部屋に行くには、図書室の棚のどこかの隙間に白い本を差し込まなきゃいけないの。でも、その本は図書室にはなかったわ」
メアリーは図書室と屋上に通じる部屋が、深い関わりを持っていることを、三人の龍戦士に言った。ヨゼフは、自分の目の前に落ちている白い本を拾い、魔道姉弟に見せた。
「なあ。その例の白い本ってのは、これのことか?」
ヨゼフの質問に対し、魔道姉弟は彼が持っている白い本を見る。その時の目からは、意味が深そうな雰囲気が漂う。
「こ、これは正しく、屋上付近の部屋の扉の鍵! 早速、図書室に行こう」
リゲリオンは白い本を見ると、急に目の色を変えた。慌てて他の四人も、彼の後を追う。リタ達は途中にあった罠を回避して、《図書室》と書かれた看板を見つけた。
「いよいよだね」
リタは呟くように言った。五人は既に開いている扉を潜り、図書室に入る。その中には、複数の魔族の影があった。その影は、七人分と思われる。
リタ達を見ると、その影の一人が、バトンのような武器を構え、攻撃態勢に入った。
「待て、私達は敵じゃない。用が済んだら、ここを出るつもりさ」
リタは苦笑して、影を説得する。だが、彼女はあることに気づく。その影が持っているのは、本体が水色をしていて、白い羽のような飾りがついているバトン。そして身につけている服は、全体が薄紫色で、袖が黒とピンクの縞模様になっている長袖。その下には、短い丈のデニム地のスカートに、交差するように着けた、金の飾りがついている茶色のベルト。それらが、リタの目にはっきりと映った。
「あなたはもしかして、ビオラ?」
うっすらと見える水色の体や赤い鬣を見てリタは、目の前の影の正体が風龍戦士ビオラだと判断する。ビオラも彼女の声を聞き、手前にいる魔族がリタだと判断し、武器をしまう。二人が顔を見合わせる頃には、図書室一帯が明るくなっていた。部屋が暗いことに気づいたリゲリオンが、電気をつけてくれたようだ。
「ありがとう、リゲリオン」
リタは当たり障りのない言葉を、リゲリオンに言った。二人の魔道師の姿を見て、ビオラは警戒を強める。それをリタは誤解だと、彼女に注意する。その様子を、他の龍戦士達も見ていた。
「違うんだ、みんな。リゲリオンは魔道族の兵士達に囚われたメアリーを助けたんだ。そして二人は、キアを説得するために同行してもらってる」
リタは、七人の龍戦士に現状を説明した。七人はまだ、魔道姉弟を疑っている部分もあったが、リタの話を聴いて、取り敢えず二人を信じることにした。
「わかった。だけど、もし二人が間違ってるようなら、俺達は止めるからな」
ペレデイスは、半ば意地を張るように言った。リタは九人の龍戦士を集め、次の指示を出す。
「ヒア、あなた達はここ及びここの下の階で、魔道師全員を説得してほしい。彼らがいつ、また私達を襲ってくるか、わからないからね」
そう言ってリタは右の棚に、隙間があるのを確認した。その指示に納得し、ヒアは了解したと言った。
リタは、メアリーが言っていた例の白い本を、棚の隙間に差し込む。すると向こうの扉の方から、微かに音が聞こえた。
(おそらく、あれが屋上への出入り口の扉が開いた音。そしてキアは、そこにいる。それも、たった一人で)
リタは深呼吸をして、先のことを七人に言う。
「良いかい? 屋上には、ヨゼフ、ナンシー、魔道姉弟、私の五人だけで行く。あなた達には魔道師達の説得に成功し次第、屋上に来てほしい。以上」
そう言うとリタは、言葉を切る。
「ああ、俺達に任せろ」
「お気をつけて」
ヒアもアイルも自分達の役目を把握したような、誇らしげな眼差しで、五人を見る。ヒアはリタやヨゼフに代わり、他の戦士達を纏めた。十人の戦士達は今、グループに分かれて行動を開始した。




