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ガルドラ龍神伝―闇龍編―  作者: 水沢らくあ
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魔道族の領国、その1―変装して―

魔道族のキア領主の正体に関して、大体の見当がついてきた。だが、それはまだ定かではない。真実を探るため、リタ達は北端の領国レザンドニウムに向かい、フィブラス王国を後にする。


 船の中で、龍戦士達の隊長及び副隊長を決める話し合いが行われている。隊長は誰がするか、あるいは副隊長は誰がするかなどを言っている一方で、臨時なのだからそういうことは今決めるべきではないという意見が、戦士達の間で持ち上がっている。そんななか、先に龍戦士隊結成案を出した風龍戦士ビオラが、口を開く。


「あたしは隊長はリタ、副隊長はヨゼフがすれば良いと思うわ。リタはフィブラス王女ながら正義感と責任感に溢れてるし、ヨゼフは常に彼女を支えてるじゃない? そういうところを見込んで、あたしは二人をルインの隊長と副隊長に推薦したいんだけど?」


 ビオラは、リタとヨゼフの日頃の行いから、二人を候補にあげる。彼女の意見には、二人にも頷ける部分が多々ある。だが、いくら責任感と正義感があるからといって、隊長や副隊長はそう簡単に務まるものではない、とリタは思った。これには、ヨゼフも戸惑いを隠せない。


(僕なんかに、十人の龍戦士の副隊長が務まるのか? 僕はちゃらんぽらんで、ずぼらな所がある。人をからかい、自分がちびと言われればすぐに怒ってしまう。こんな僕が、副隊長になっても良いのか?)


 ヨゼフは深刻そうな顔をして、考え事に浸っている。それをヒアが、上手に説得する。


「リタ、ヨゼフ、そんなに深く考える必要はないよ。これは、あくまでも案だし。正直言うと、俺もビオラの意見には賛成かな? ヨゼフには、誰にも譲れないほどの勇気と知恵がある。そしてリタには、誰にも譲れないほどの強い正義感と責任感がある。それと、勇気もね」


「……」


 ヒアの言っていることに納得しているのか、二人は首を縦に振る。ようやく決心がついたのか、リタとヨゼフは口を開く。


「わかった。だけどさっきも言ったように、臨時でするだけだよ」


「そうそう。本来、僕は魔族達を纏めることには向かない魔族なんだからな」


 ヨゼフは、半ば謙遜するように言った。臨時ではあるものの、龍戦士隊ルインの隊長と副隊長が決まった。これにより、ビオラの意見が通ったことになる。


 十人が、領国に着いた時のことについてあれこれと話していると、船長が間もなく港町ヌータスへ到着することを告げた。リタはその町に着いた時に備え、初めての訪問者となる六人の戦士達に、今後のことを言う。


「ヌータスに着いたら、そこからレザンドニウムまでずっと歩きだけど、準備は良いかな?」


 リタは、九人に訪ねた。それに対し、彼らは首を縦に振る。船は、港町ヌータスに着いた。


「ヌータスに到着しました。お降りのお客様は、お忘れ物のないよう、ご注意下さい」


 船長の声を合図に、リタ達は持ち物を確かめ、船を降りた。十人の龍戦士達の目の前には、黒い雲に覆い尽くされた大きな城が見える。その城を指差して、ニアロスがリタに訪ねる。


「なあ、あの黒い雲に覆われた城は何だ?」


「あれが、私達がこれから向かうレザンドニウムの城さ」


 リタは簡単に答えた。あまりにも簡単に答えたので、気になってニアロスが二つ目の質問をする。


「なんで、そんなに詳しいんだ?」


 その質問にリタは戸惑ったが、代わりにナンシーが答える。


「リタ、ヨゼフ、ヒア、そして私は、九年前に奴隷として一族から引き離されてた頃があったの。だけど、その時に戦ってた敵がわざと負けてくれた――というよりは、その敵を三人だけで倒して、ヒアよりも先に領国から抜け出したの」


「なるほど。それで、故郷に帰ろうと決めた時には、龍戦士捜しの旅が既に始まってたってことだな?」


 ニアロスの解釈に対し、ナンシーは曖昧に頷いた。


(実際にあの旅が始まったのは、初めてフィブラスを訪れてからのことだけどね)


 もう少し上手に説明してあげれば良かった、とナンシーは後々思った。


 こうしている間に、戦士達はいつの間にか、レザンドニウムへの道の真ん中まで来ていた。話している時はあっという間に行けるものだな、とリタは感じた。


 城の近くまで来た時、彼女達の目の前に魔道族の魔族が二人、茂みの中から出てきた。その魔族達は、正真正銘の子供だった。彼らの行動はまるで、リタ達の行く手を阻んでいるかのようだ。赤色の目や琥珀のような色をした目が、彼女達を睨みつけ、威嚇する。一人は槍を持ち、もう一人は剣を構えている。


(あんな子供でも、戦いの時には武器を持たせるんだな。キアって領主は、相当冷酷だ)


 そう思いながらニアロスは、琥珀色の目をした少年と同じく、剣を構えた。


「フラワー・アトール!」


 子供達を相手にしている時でも容赦はしないと言わんばかりに、ニアロスは衝撃波のようなものを、剣から繰り出す。すると、いとも簡単に少年少女は倒れた。


「やるじゃないか。でも、ちょっとやり過ぎかな?」


「これくらいやっておいた方が良いって。相手は、僕達龍魔族と敵対してる魔道族なんだから」


 ニアロスは、得意気に言う。その一方でヒアは、複雑な気持ちになっている。


 城の門を通るため、十人は茂みの中から、門番の様子を窺う。門及び上の階は、大勢の兵士達に囲まれている。変装して行かなければ、すぐに牢屋行きだ。リタは自分達が何に変装するか、考えている。ふと、何かを思いついたように、ヨゼフが革の服を着た十人の少年魔道師の方を指差した。


「僕達の身長なら、あの服を着てもばれないよ」


 そう言って早速ヨゼフは、少年達の注意を引きつける。彼は少年達の腹を一人ずつ殴って気絶させ、革の服を剥いで九人の所に持って行き、それを見せた。その服からは、家畜の臭いや泥塗れになったかのような異臭が、リタ達の鼻を刺す。彼女達は涙目になりながら、異口同音にクレームをつける。


「こんな臭いの着てたら、鬣や服の下にまで匂いが移るわ」


 すかさずビオラが、文句を言う。


「変装しなかったら、僕達は門番にぼこぼこにされるよ」


 ヨゼフは、膨れて言った。臭いを気にしていたが、やむを得ず九人はヨゼフの案通りに変装し、魔道城の門に立つ。


「見慣れない子供達だな。名はなんと言う?」


 門番が、十人の名前を訪ねた。リタはフェル、ヨゼフはハール、ナンシーはバーユン、ヒアはトーン、アイルはデュハム、リアスはクレイル、ビオラはウィズ、ニアロスはファンセア、ペレデイスはベラム、そしてスーザンはクィリンシアと、それぞれ偽名を使って名乗った。門番は首を傾げる。


「聞かない名だな……。まあ、良い。入れ」


 門番は両手をぱんぱんと鳴らし、上にいる兵士に合図した。十人は城の中に入ることに成功した。


『へへ、上手くいったな』


 ペレデイスが念を押して、小声で言った。


『ええ。しかし、ニアロスさんがあんな可愛い偽名を使うなんて、予想外でした』


 ニアロスをからかうように、アイルは低く笑う。それに対し、ニアロスは顔を赤らめる。


『アイル――いや、デュハム。まだ、喜ぶのは早いよ。変装を解くのは、囚われた氷系魔道師を助けてからさ』


 十人はまるでこそ泥のような仕種で、城の牢屋を目指す。十人はやっとの思いで、城の中に侵入した。彼女達は未だに変装を解かず、互いに偽名で呼び合う。


 途中で飛んで来た魔道族の矢や槍、そして矛をもかわし、戦士達は石段を次から次へと走るように踏んでいく。上の階に行けば行くほど、城の中は暗く、狭く、そして滑りやすくなってきた。


「わあ!」


 アイルが足を踏み外し、下に落ちそうになる。だが、それを間一髪で、ヨゼフが支えた。彼はアイルの右腕を掴み、必死に引き上げようと歯を食い縛る。だが、アイルの方に体重がかかり、なかなか思うように持ち上がらない。それどころか、ヨゼフも一緒に引き摺られているように、リタにはとれた。


「ヨゼフさん、離して下さい。このままでは、あなたまで落ちます」


「離すもんか!」


 ヨゼフが怒鳴った。アイルの口からは、思わず彼の本当の名前が漏れてしまった。


「しまった! 実名が……」


「そんなことはどうでも良い! リタ、あんたも手伝ってくれ。僕だけじゃ、アイルを引き上げられない」


 最後まで諦めず、また仲間を思いやるヨゼフの意思が、リタの心に痛いほど伝わる。彼女は友の想いに応えようと、必死にアイルの右腕を引っ張る。二人は石段の滑りやすさを逆に利用し、自分達の方に体重をかけ、思いっきり引っ張る。アイルは二人の力によって、無事に引き上げられた。


「すみません、二人とも。僕のおっちょこちょいのせいで、多大な苦労とご迷惑をおかけして……」


「だ、大丈夫。礼なんていらないよ。私達は同志で、友達だろう?」


 リタは疲労感を見せずに、意地を張るように胸を強く叩いた。だが、二人がアイルを助けて間もなく、戦士達はキアの配下の魔道師達に見つかってしまい、包囲された。それはまるで、彼女達が今日この城に来ることを、予め知っていたかのようだ。


 リタ、ヨゼフ、ナンシー、ヒアはそれぞれの武器を構え、魔力を溜め始める。そして四人は同時に、それぞれの属性の魔法を放つ。


「マハ・サンドーラ!」


「アークシュ・ホルム!」


「バイル・グオリテス!」


「ルナ・リーフィオス!」


 四人が放った魔法は、配下達が着ていた鎧を貫き、一掃していく。


「凄い」


「驚くなよ。俺達には、これくらいの魔力しかないんだから」


 ヒアが謙遜したが、六人にはまだ、彼が言ったことが信じられない。安心するのも束の間、配下の魔道師達は次々と現れ、十人に襲いかかろうとしていた。


(これじゃあ、きりがない!)


 そう思ったリタは、手で合図して、他九人を上の階まで導く。

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