最後の龍戦士、その2―スーザンのありのままの姿―
スーザンとパーリーを家に帰し、リタ達は、金龍族族長の屋敷で一夜を沸かした。丁度四人が朝食を済ませた頃、スーザンが屋敷に着く。それを上から見ていたペレデイスは、歯ブラシをくわえながら彼女に声をかける。
「よお、来たな、スーザン。今日は、明るくいこうぜ」
ペレデイスとしては、はっきりと言ったつもりだった。が、スーザンには彼が言っていることが、「ふにゃふにゃ」という感じに聞こえ、上手に話を掴めなかった。支度を済ませ、リタ達はスーザンと合流し、神殿に向かう。
「スーザン……。あの子は、慌てんぼうだからな。大丈夫か?」
「父さんが心配するまでもなく、大丈夫だと思うよ。いざという時には、リタやあの水龍族のちびも一緒だし」
半ば不安げな眼差しで、オルファニス族長とディートは、スーザンを見送る。
四人はスーザンの案内で、メルディーンから西に三十メートル離れた所にある、《メルディーン鉱山》という所まで足を運んだ。この鉱山は、何度掘っても掘り尽くすことはない、と言っても過言ではないほど、金塊や宝石がたくさん掘れることで有名な場所だ。
町への入り口のことを思い出したのか、ナンシーが訪ねる。
「ねぇ。昨日あなた達を襲った召喚獣が言ってた、《聖なる金塊》って何?」
ナンシーは、《聖なる金塊》について、スーザンに質問した。聖なる金塊とは、金龍神レグルスへの捧げ物となる金塊のことで、その産出地はこのメルディーンである、とスーザンは説明した。四人はふむふむと頷いている。
リタ達が話しながら歩いていると、鉱山の奥地とされる場所に着いた。
「ここが、もしかして……」
「そう、ここが金龍神レグルスの神殿周辺よ」
スーザンは、前にもここに来たことがあるかのように言った。この神殿は神殿長だけでなく、金龍族の少女達も足を運ぶ場所なのだと、スーザンは言った。
「金龍族の少女達もってことは、当番みたいに『今日は誰が行く』っていうのがあるのか?」
ペレデイスが訪ねた。
「ええ。ただ、出入り口はここよりもずっと高い所にあって、しかもそこへの道は、つるつると滑りやすいの。だから、金龍神への捧げ物は、《勇気のある金龍族の少女》だけがすることになってるの」
(なんだか大変だな、スーザンも。こんな宗教的なことをしなくても、魔界の平和は俺達龍戦士が守ってやるのに)
ペレデイスは、金龍族の少女達に課せられた仕事を、皮肉に思った。
普通の山脈のように険しい鉱山を登り、リタ達は神殿の出入り口前に着いた。鉱山の高い場所にあるだけあって、この神殿は金の縁取りが施してあり、また金龍神レグルスを思わせる飾りや、ルビーやサファイアといった宝石が、出入り口に鏤められている。
「千五百年前の族長は、神となった甥のために、相当な金をつぎこんだね」
リタは思わず、本音を口にした。
五人は早速、神殿の中に入った。この神殿の中も、雷龍神の時と同じように真っ暗な部屋が続く。目が慣れていないせいか、ペレデイスはあたふたとしている。彼は一瞬躓きそうになり、柔らかい物によっかかるようにして、防いだ。
「ふう、助かった……」
「『助かった……』じゃないわよ! あなたは、どこを触ってるのよ!」
スーザンに言われ、ペレデイスははっとして、右肘をどかせる。
「悪いな。しかし、スーザンがまさかペチャパイだったとはね……」
《ペチャパイ》という言葉に反応してスーザンは、身を震わせる。そして、思いっきりペレデイスの頬を引っ掻いた。
「全く、近頃の男は、デリカシーってものがわかってないんだから……」
スーザンはぶつぶつ言いながら、リタ達よりも先に行く。リタ達も、すぐにその後を追う。
「痛てぇな。スーザンの爪は、強力だ」
「あんたが、彼女の気に障ることを言ったからだろう?」
ペレデイスとヨゼフは、まだ先程のことについて言っていた。
出入り口から数メートル進んだ時、五人は妙に曲がりくねった道に遭遇する。おまけに、その道はとても狭く、リタ達の行く手を阻んでいるかのように見える。その道の先には、出入り口と似たデザインを施した扉がある。だが、よく見るとそれは、強力な結界によって、固く守られている。
「きっと、ついさっき、魔道族によって張られたものね。どうすれば良いの?」
ナンシーは、困った顔をする。その時、向こう側からギシャア、という鳴き声のようなものが聞こえた。
「気をつけて。何かいるわ」
ナンシーが、皆に注意を促す。
「相手がどんな魔物だとしても、俺達は負けないさ」
「ペレデイスったら……。あなたはどうして、そう調子に乗った言い方をするの?」
ペレデイスの拍子抜けした陽気さに、ナンシーは呆れている。五人は、それぞれの武器を構えた。
「スーザン、君も戦えるのか?」
「馬鹿にしないでくれる? 私はあなたが思ってるほど、柔な女じゃないわ」
その意気込み通り、スーザンは一見すると護身用のようにも思える二本の短剣で、蝙蝠のような魔物を一気に切り裂いていく。スーザンの手によって、魔物達は全滅した。彼女が戦う姿を見て、四人は呆気にとられるばかりだった。
「凄い。あなた、短剣の使い方を、どこで学んだの?」
ナンシーが訪ねたが、スーザンは「内緒よ」と言って、答えなかった。またしても彼女は、四人の先を行こうとするが、急ぎすぎて神殿の底に落ちそうになった。その腕を、リタ達が一所懸命に引き上げようとする。
「駄目よ、リタ。離して。このままじゃ、あなた達まで落ちるわ」
スーザンは諦めたように言った。だが、リタは首を横に振る。
「そんなこと、できるわけがないじゃないか。私達は友達だよ。それに、万が一落ちそうになっても、私は飛べるから、君達を助けることもできる」
リタの言葉を励みにし、スーザンは頑張った。四人は一緒に歯を食い縛り、スーザンを引き上げる。彼女は、無事に足場まで引き上げられた。四人は、安堵の胸を撫で下ろす。
「助かったわ。ありがとう、四人とも」
スーザンは礼を言った。だが、すぐにペレデイスが皮肉を言う。
「それにしても、スーザンって結構慌てんぼうなんだな。俺の予想では……」
そう言いかけて、ペレデイスは言葉を切る。スーザンが、怖い顔で彼を睨みつけていたからだ。
(まずい。ここで彼女を怒らせると、あの時の二の舞を踏むことになる。ここは大人しく、黙っていよう)
ペレデイスはびくびくしながら、スーザンの神経を逆撫でしないようにした。その様子を見ながら、他の三人が笑う。五人は無事に、扉の前に辿り着く。
先程五人に襲いかかってきた蝙蝠のような魔物の群れをスーザンが倒したためか、強力な結界はなくなっている。
「怪しいね。きっとこの先に、金属性の魔道師が潜んでるんだ」
リタは、魔族の気配を感じ取ったように言った。スーザンが予め持っていた鍵を、ジーパンと交差しているベルトの境にあるポケットから取り出し、それを扉の鍵穴に差し込む。だが、その鍵は古いうえに錆びているため、抜けなくなってしまった。
(仕方ないわね。なんせ、三十年前の鍵だもの。錆びて当然ね)
スーザンはそう決めつけ、鍵のことは諦めた。五人は、そのまままっすぐ、扉に入る。




